読者を「顧客」と捉える アトランティックのブランド戦略:「もっと顧客と会話を」

「アトランティック(The Atlantic)」は、記事コンテンツをFacebook、Twitter、LinkedIn(リンクトイン)とたくさんのプラットフォームを横断して拡散させてきた。また、Facebookのインスタント記事最初に導入したパブリッシャーのひとつであり、GoogleのAMP(Accelerated Mobile Pages)も最初から活用している。去年の収益20%増、デジタルオーディエンスの30%増は、こういった戦略の功績だと、アトランティックは考えている。

そしていま、さらに読者との直接的な繋がりを強化しようとしている。彼らはオーディエンスを定期的な読者へと変換し、講読してもらうための戦略をいくつも展開しているのだ。これはほかの媒体も同様だろう。米大統領選が終わったいま、多くの人々が質の高いジャーナリズムに、より価値を見出すことを期待しているからだ。アトランティックがそうしたコンテンツ流通から得られる収益は、全体の15%ほどだという。彼らはそれをさらに伸ばしたいのだ。なお、その具体的な数字は明かしてもらえていない。

データとカスタマー体験を重視

「我々が認識しているのは、アトランティックはとても積極的にあらゆるプラットフォームを差別せず、活用に取り組んできたということだ。これ自体は良いアイデアだ。そうして突然、アトランティックのコンテンツはあらゆる場所で目にすることになった。だが、その反面、我々はコンテンツをバラバラに、なんの統一感もなく配信していただけだった。成功の裏で、ある意味、犠牲者にもなってしまっていた」と語るのは、アトランティックのブランドカスタマーグロースのバイスプレジデント、サム・ローゼン氏だ。かつて彼はマーケティングのバイスプレジデントだった。いまは、新しいデータインサイトのチームを率いている。

ローゼン氏の異動に加えて、アトランティックはカスタマー体験の専門家も雇った。アナ・ホフマン氏は、記事を読んだ人々はどんな反応をしているのか、新しい購読者を獲得するために何が効果的なのかを、アトランティックのビジネスサイドと編集サイドの両方で考える、週次・月次のミーティングを開いている。この10年間アトランティックは自社の広告キャンペーンをしてこなかったが、つい先日10年ではじめてとなるキャンペーン「自分の答えを疑え(Question Your Answers)」を開始した。これはワイデン+ケネディ・ニューヨーク(Wieden+Kennedy New York)が担当代理店となっている。

「まとまりのない世界では、ひとつの記事やFacebookのポストを見ただけでは、アトランティックをブランドとして考えることはないかもしれない」と、アトランティックのプレジデントであるボブ・カーン氏はいう。

外から見てわかる戦略もある。サイトを訪れる頻度や読む記事の種類に応じて、購読プランをカスタマイズすることをはじめた。また、タイミングを活かしたキャンペーンも提供。今年の1月には、購読と1月/2月号の表紙を使った限定ポスターをセットにした「大統領は黒人だった」というセールを展開した。これによって、1300の新規購読を獲得しており、これは通常よりも多いという。

「読者」でなく「顧客」という視点

パブリッシャーはこれまで、顧客中心の思考方法をあまりもってこなかった。編集部が配信ニュースの予定表を定めるため、読者との双方向コミュニケーションはあくまでも限定的であった。そうした傾向はユーザーの呼び方にも見られた。ビジネス側は「顧客」と呼ぶのに対して、編集部は「読者」と呼ぶからだ。しかし、人々のメディアの選択肢が増えるにつれて、パブリッシャーたちは自分たちのブランドをより強く訴えかける必要があると気づきだした。

「全組織レベルで、顧客体験に関する、より繋がりの深い構造を作る必要があると、2年前に我々は気づいた。あらゆる人が顧客であると考えることが、その変化のひとつだ。たとえWebサイトに一度訪れただけの顧客でも、彼らとプロダクト(記事コンテンツ)で取引をしているということだ」と、ローゼン氏。

カーン氏も「もっと顧客と会話をすることをはじめたい。長いあいだ、プロダクト(記事コンテンツ)自身が語る、ということをやりすぎた」。

それ以上に優先すべきこと

こういった目的意識からアトランティックは、読者たちとさらなる交流を図ろうとしている。編集長のジェフリー・ゴールドバーグ氏からの月刊メール、カバーストーリーを担当するデービッド・フラム氏といったライターとのカンファレンスコール、新規購読者にアトランティックの歴史を紹介するウェルカムパッケージなどがその例だ。またプレミアムメンバーシップについても探っている。オーディエンスをセグメント分けして、それぞれに読まれる記事の傾向についても、これまで以上の注意を払っているという。

もちろんデータの利用は良くも悪くもなりえる。しかし、編集に関する判断を下すシステムに関して、何か変更を加える計画はないとカーン氏はいった。

「我々が釣りタイトルに陥ってしまうことが危険なのではない。データ利用で、アトランティックが不適切な方向に舵を切り出すことも心配はしていない。そうではなく、遊び心、拡張性という点で我々の潜在能力を発揮できなくなることが危険だと思っている」と、カーン氏は説明した。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)