ニュースメディアが生き残るための「新しいルール」とは?:競合分析、ターゲット、情報流通

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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BuzzFeedがテレビを超えたーーー。2014年11月、BuzzFeedが発表したデータでこのようなことが明らかになりました。ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた世代)に限った月間リーチ数ではありますが、いわゆるマスメディアを、ネット発のメディアが規模的に抜いたという調査結果です。これはニュースメディアにとって象徴的な出来事でした。

同データでは、アメリカのミレニアル世代の半数がBuzzFeedを読むことを紹介しており、若い読者の獲得がメディアとして影響力を高めるひとつの手段になるのかもしれません。スマートフォンやソーシャルメディアの本格的な普及により、さまざまなルール(特に情報流通)が大きく変化しているのです。

常識にとらわれない「競合分析」

その環境下では、巨大企業が新興勢力に対して力を失ってしまう「イノベーションのジレンマ」が知らぬ間に進行しています。2014年5月に外部に流出した「ニューヨーク・タイムズ」の「イノベーション」と題したレポートでは、このジレンマを認めたうえで、「BuzzFeed」や「Circa」「ESPN」「First Look Media」「Flipboard」「The Guardian」「The Huffington Post」「Linkedin」「Medium」「Quartz」「Vox」「Yahoo News」という12の競合を挙げています。

伝統メディアに加え、Webメディア、ニュースアプリ、プラットフォーム、SNS……多様なスタイルのメディアを参考することが、新しい時代においてはメディアとしての存在感を持ち続けるための出発点になるのかもしれません。

新聞社であれば、新聞他社を競合と捉えがちですが、NetflixやSpotifyなどの映像や音楽のストリーミングサービスや、数多あるソーシャルゲームアプリも競合に含まれるとしたら、ユーザーはどのプラットフォームに時間を取られていて、さらにユーザーのどこの時間をパブリッシャーは新たに獲得していけるのかを真剣に考えなければいけない時代になっています。

「ターゲット」はミレニアル世代

このような時代に誕生する新興メディアはテレビや新聞、雑誌との接点がある人よりも、最初からスマホやソーシャルメディアの利用が前提にある人をどれだけ多く味方につけられるかがひとつの勝ち方でもあります。

「BuzzFeed」「Vice」「Vox」……近年、5000万ドル(約59億円)以上の資金調達をおこなったメディアはどれもミレニアル世代を中心とした読者の獲得に成功しています。「Vice」のテレビ進出をはじめ、テレビネットワーク側から投資を受けており、動画・映像での展開が期待されるでしょう。

そのほかのメディアでも、月間訪問数で数千万を超えるメディアは多々誕生しています。ニュースサイトであれば、「OZY」「Mic」「The Daily Dot」「Elite Daily」、動画ニュースであれば「NowThis」などソーシャルメディアや各種プラットフォームでの流通を意識したメディアが力をみせており、これらの新興メディアを大手メディアが吸収したり、参考にしたりすることも増えているのです。

「コンテンツの流通」も大きなカギ

2015年にはイギリスの新聞社「DMG Media」が「Elite Daily」を買収しました。最近でも動画でいえば、「The Huffington Post」が放送局「HuffPost Live」をやめ、分散型へのシフトを決めたことが話題になっています。いうまでもなく、伝統メディアが新興メディアと勝負していくには、コンテンツの流通について、これまで以上に考えなければなりません。

また、2015年はFacebookの「Instant Articles」やSnapchatの「Discover」、Appleの「News」などの登場もあり、大手メディアのコンテンツ流通への意識が高まっているように見えました(焦りといったほうが正しいかもしれません)。「ニューヨーク・タイムズ」はいち早く「Instant Articles」に参加し、「ワシントン・ポスト」はすべての記事をFacebookにホスティングしています。同年12月には中国やインド、インドネシアなどアジア圏での展開も発表され、日本のメディアの記事がこのフォーマットで読める日は近いのかもしれません。

ほかにもSnapchatの「Discover」には「CNN」や「Daily Mail」などの伝統メディアも参加。オリジナルのタテ型動画ニュースを配信しています。Appleの「News」には「The Economist」や「The Guardian」「FINANCIAL TIMES」など多くの媒体が名を連ねました。2016年はアメリカ大統領選の年にあたるため、新旧メディアの選挙報道の内容とその広がりが見ものになりそうです(1月11日、ホワイトハウスはSnapchatのアカウントを開設しました)。

少し特異な日本のメディア事情

最後に日本のことについても少し触れたいと思います。

2015年12月、アドビ(Adobe)がコンテンツに関する調査「The State of Content : Rules of Engagement」を発表しました(6カ国1万2000人以上が調査対象で、日本からは約2000人が回答)。このなかから、日本人とコンテンツに関するデータを紹介します。

まず「日本人は、平均して2つのデバイスを使用し、6つのサービスから情報を得ている」ことがわかり、その上位には「Facebookなどのソーシャルメディア」 (28%)、「YouTubeやVineなどのオンライン動画プラットフォーム」(25%)、「企業のEメール ニュースレター」(21%)、「Twitter」(19%)があるとのことです。

ほかの国(アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ)では平均5〜6デバイス、10〜12のサービスから情報を得ていることから、日本は世界的に見てもユニークな立ち位置です。このような要因も影響しているのか、「長めの記事を読むより、話題となっている短めの記事を数多く閲覧したい」(79%:世界平均は63%)、「オンライン上で投稿されたコンテンツが正確もしくは適切かどうかを検証しない」(82%:世界平均は58%)といった特徴的なデータが出ていました。

分散型メディアで「グローバル展開」も

アメリカでは、Facebook、Twitter、Snapchat、Google(YouTube)、Apple(News)、Vine、Instagram、Tumblerをはじめ多数のプラットフォームが存在しています。海外のメディア関連ニュースでは日頃から大きな話題がありますが、ターゲット読者層が日本国内の場合は、デバイスやサービス数を差し引いて考える必要性を改めて感じます。

もちろん、これからプラットフォームを通じてグローバルにつながれるため、英語など外国語で配信するならば分散型メディアの文脈に乗っていくことができるでしょう。この日本と海外の「差」がメディア環境にどれだけ影響を与えていくのかにも注意して目を向ける必要がありそうです。

Written by 佐藤慶一
Image via ThinkStock/ Getty Images