復活の狼煙をあげる、米「トリビューン」紙:トラディショナルメディアを現代化させる方法

トリビューンパブリッシング(Tribune Publishing)ほど、方向転換が必要なメディア企業も滅多にないかもしれない。

イリノイ州シカゴに拠点を構える新聞社のトリビューンパブリッシングは、11の都市にまたがる地方紙を運営しており、そのなかには有名な「ロサンゼルス・タイムズ」「シカゴ・トリビューン」「ボルチモア・サン」などが含まれている。しかし現在、新聞業界は斜陽産業だ。

特に地方紙は需要が下降している。2015年度の第3四半期では、トリビューンパブリッシングの広告収入は前年比で9.6%も下落した。そして、同社CEOのジャック・グリフィン氏のリーダーシップのもと、非情な大衆市場を自力で生き残らなければならない状況になっている。

現代の紙を主体とするメディアにおいて、規模感はもっとも重要だ。さまざまな市場に進出している大手新聞社の場合、地元新聞との差別化を図りつつ、経営を効率化させることが重要だからだ。この差別化と経営の効率化の責任は、「ニューヨーク・タイムズ」で26年間勤務し、有料購読戦略を担当していたデニス・ウォーレン氏に任された。

2015年5月、トリビューンパブリッシングのデジタル部門のトップであり、東海岸に拠点を構える6つの新聞社のCEOであるウォーレン氏へのインタビューを行い、同氏が考える企業の改革について語ってもらった。

現状抱えている問題点

トリビューンパブリッシングには、デジタル版のみを購読する有料登録者が8万1000人いる。これは前年比で37%の上昇だ。一見、良い印象ではあるが、この数字はトリビューンのデジタルオーディエンス全体の0.2%以下にしかならず、ほかの同規模の新聞社よりも低い。「我々はもっと良い数字を出すべきだ」と、ウォーレン氏はコメントしている。

問題の一部は、過去にサイトでプレミアムコンテンツを販売していた有料システムにある。これが読者を混乱させた。別のサイトからランディングしてきた読者は、そのコンテンツの何が「プレミアム」なのかを理解することができなかったのだ。

新しいメーター制課金

そこで、コンテンツの一定分量は閲覧可能だが、より多くのコンテンツを閲覧したいユーザーには課金をしてもらう、メーター制課金を新しく導入することにした。完全閉鎖型のペイウォール(paywall)とは異なり、いくつかのコンテンツは無償で閲覧できる。このメーター制課金について、ウォーレン氏は「ユーザー自らが重要なコンテンツを選択することができる。ユーザーに力を与えることができる」と語る。

この新たな料金体系をトリビューンパブリッシングは、2016年には稼働させる予定だ。ウォーレン氏は、このメーター制課金をいかに複数の媒体が属する市場にむけて提供するのかを考えなくてはならない。

さらにウォーレン氏は、新聞購読者がデジタル版にあまりアクセスをしないという課題が、同紙にはあると話す。新聞購読者の40%ほどしか、デジタル版にアクセスをしていないのだ。反対に「ニューヨーク・タイムズ」では、90%以上の購読者がデジタル版にアクセスしているという。読者がサイトに訪れる回数が多いほど、コンテンツの質の向上に繋がるため、新聞購読者をデジタルへ誘う導線を改善することは必須である。

CMSのアップデート

現在トリビューンパブリッシングのサイトは、すべて同じCMSを使用しているが、このCMSは現代のニュースルームのスピードや編集の柔軟性というニーズに対応できていない。「ロサンゼルス・タイムズ」のエンターテイメント枠のように、特定の機能が必要となる場合もあるが、CMSは大都市新聞でも地方紙でも同等の働きをしなくてはならない。

このCMSに関連する責任は、「ニューヨーク・タイムズ」の元最高技術責任者(CTO)であり、トリビューンパブリッシングにおける最初の商品開発・テクノロジー・ユーザーエクスペリエンス部門の最高責任者を務めるラジブ・パント氏に任せられている。パント氏の目標はCMSがいかなる事例にも対応できるようにすることだ。たとえば、素早くニュースをファイリングしようとするリポーターや、タグ付けをしてより多くの機能を使用したい編集者など、多岐に及ぶ要望に対応できるように心がけている。

「ロサンゼルス・タイムズ」を例にみると、「多くの素晴らしい機能はついているものの、日々サイトを利用している多くの人には不要、もしくはあまり使わない機能がほとんどだ」と同氏は話す。ほかにもパント氏は、モバイル機器からのCMSへの接続も容易にできるようにしたいと考えている。同氏いわく「モバイル機器からCMS接続をうまくやっている大企業はないと思う」という。

インフラ整備で地方を支援

コストを抑えるためにも、トリビューンパブリッシングはサービス生産費を擁する新聞たちに割り振らないとならない。ウォーレン氏は編集の方向性や有料購読の方法などは、それぞれの媒体のプロダクションに任せているが、オーディエンス開発、デジタル戦略やビジネス展開など、すべての媒体に有効に使えるものは本部に集中化させている。

将来的にCMSは、各媒体を通して記事の共有が容易にできるように設計されるが、コンテンツの共有は強制ではなく、あくまでも、人員削減を目的としたものではないとウォーレン氏は強調する(最近報告された株の買い占めにより、トリビューンパブリッシングはすでに人員削減を始めていて、企業の現状を考えると、このような心配事をするということは当然だ)。

「それぞれの市場については、各媒体の編集者がいちばん良く知っている。そのため、私は顧客との取引の機会をすべて媒体の運営部に委ね、中枢にあるインフラの整備で彼らの支援をする」と、ウォーレン氏は話す。

モバイルを最重視する

現在ほぼすべてのパブリッシャーに当てはまるように、トリビューンパブリッシングのデジタルオーディエンスも急成長している。2015年10月のユニーク訪問者数は4900万人にもなり、その半数以上はモバイル機器からのアクセスだ。モバイルユーザー数はデスクトップよりも早いスピードで成長しており、モバイル対策の仕様へ迅速に変更せざるを得なくなっている。

ウォーレン氏は、モバイル関連の経歴をもつ役員を雇用し、新たな商品開発ではCMSをモバイルフレンドリーにする策を講じている。組織にモバイル機器を最優先する文化を根付かせるためだ。「もし商品の再デザインの話があるとすれば、私はモバイルバージョンのデザインを最初に見たい」とウォーレン氏。

自社サイトでのマネタイズ

現代のパブリッシャーは、いかにオーディエンスがいる場所にリーチできるかが重要になる。しかし、パブリッシャーはプラットフォームへと配信するだけではなく、自社サイトでマネタイズする術も考慮しなければならない。利益も考慮しなくてはならない。

プラットフォームへ配信を行うだけでなく、自社サイトでマネタイズする術も考慮しなければならない。自社サイトに訪問してもらうことで、オーディエンスのブランド体験をよりコントロールしやすくなり、広告でのマネタイズにも繋がるからだ。

トリビューンパブリッシングの場合、有料購読によってサイトでのマネタイズを活性することができる。そのため、Appleの「News」アプリに参加したものの、配信する記事を限定して、1カ月で10記事の配信のみにとどまった。また、若いオーディエンスをあまり持っていないためか、Snapchatのアカウントも運用していない。

ウォーレン氏は、オーディエンスはプラットフォーム上でパブリッシャーの存在にあまり気づかないという。しかし、それは単にブランドが明確にされていないだけだ。同氏は、そのようなプラットフォームに頼るのではなく、「閉ざされたプラットフォームに留まるべきではない」と、自社サイトの復活を掲げている。

Lucia Moses(原文 / 訳:BIG ROMAN)
Image from Adam Jones, Ph.D.(Wikimedia Commons)