出版社は いかに動画をビジネスにするべきか?:「マーサ・スチュアート」メレディスの場合

現在、多くのパブリッシャーにとって、ビジネス上の課題は「動画」だ。

アメリカの総合出版社、メレディス(Meredith)も例外ではない。ライフスタイル雑誌「マーサ・スチュアート・リビング(Martha Stewart Living)」やガーデニング雑誌「ベター・ホームズ・アンド・ガーデンズ(Better Homes and Gardens)」のほか、16種類の料理、育児などの雑誌を手がける同社も動画へのシフトに力を入れている。

パブリッシャーが動画へのシフトに熱心なのは、高い広告料を獲得できるからだ。また、Facebookなどのプラットフォームが、フィード上で優遇してくれることも要因となっている。現在、メレディスは、1カ月に500本のオリジナル動画を制作し、8000万ユニークビューを獲得しているという。2015年に制作したオリジナル動画の数は3000あまりだったので、2016年の制作本数は激増している。

いかに生産性を高めるか

「我々は、1カ月に多くの動画を制作する体制が出来ている」と、メレディスで動画担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるメリンダ・リー氏は語った。とはいえ、動画制作はコストがかかるため、各パブリッシャーはもっと効率的な方法を探している。

メレディスの場合は、制作体制をできるだけ一元化するやり方を選んだ。同社の従業員3754人のうち、30人が一元化された動画専門チームに所属。チームは、プロデューサー、カメラマン、エディター、エグゼクティブプロデューサーという構成だ。エグゼクティブプロデューサーのなかには、フィットネスやエクササイズなど、複数の雑誌で流用できる動画の制作にあたる人たちもいれば、「マーサ・スチュアート・リビング」、育児雑誌の「ペアレンツ(Parents)」、「ベター・ホームズ・アンド・ガーデンズ」といった主要雑誌を専門に担当する人たちもいる。

このアプローチの狙いは、制作する動画の数をできるだけ増やしながら、各雑誌ブランドに適した動画を制作するためだ。動画チームは各雑誌の編集部と緊密に連携し、編集スケジュールをにらみながら動画で使えるアイデアを考え出す。その後、彼らは自らのアイデアを雑誌編集チームに披露するが、それらが各雑誌ブランドにフィットしているかどうかを最終的に判断するのは編集チームとなる。

動画制作もデータが重要

リー氏によれば、データが動画専門チームの仕事に大きな役割を果たしているという。データを見れば、特にホリデーシーズンには、料理の動画、なかでもレシピ動画が重要な柱であることがよくわかる。この種のレシピ動画はもっとも人気が高く、すでに1年後までの予定が組まれている状況だ。

たとえば、マジック・チョコレート・シェル・アイスクリームバーの動画は、1800万ビューを獲得。また、同社で初のFacebookライブ動画となった、マーサ・スチュアート氏が自宅キッチンで「大好物のクリスマスクッキーを焼いたり、転がしたり、カットしたり、飾り付けしたりしている」動画は、トータルで100万ビュー以上を獲得した。

もうひとつの柱は感謝祭だ。リー氏によれば、パンプキンパイやマッシュポテトのレシピ動画は欠かせない。動画専門チームが複数の異なる企業ロゴを用い、何通りもの方法で撮影し、複数の雑誌で利用できるようにしている。

ただし、料理動画のなかには、ブランド間で流用できないものあると、リー氏は語る。たとえば、「家事を楽にするためのレシピをヘルシーフードの雑誌『イーティング・ウェル(EatingWell)』で公開することはない。そんなことをしても効果がないからだ。我々はブランドを熟知しているスタッフやデジタルディレクターの協力を得ながら、どのような記事が好評なのかを調べ、その結果を元に動画を製作している」。

メレディスのデジタルデスクトップ動画が獲得したビューの数(出典:コムスコア[comScore]、単位:百万)

新しいライブ動画も好調

Facebookのライブ動画についていえば、メレディスは専任のチームを抱えていない。その代わり、プロデューサー全員が自らライブ動画を制作できるようにしている。そのうえで、「ベター・ホームズ・アンド・ガーデンズ」、ウェディング雑誌「マーサ・スチュアート・ウェディングズ(Martha Stewart Weddings)」、フィットネス雑誌の「シェイプ(SHAPE)」など、ほとんどの雑誌ブランドで実験を実施。1週間に5~10本のライブ動画を制作している。

動画の長さは10分未満から1時間超までさまざまだ。メレディスがこの8カ月間で制作したライブ動画の数は、合計で76本になる。また、スマートフォンのカメラで撮ってみたり、テレビ番組品質のカメラを使ってみたり、さまざまな撮影手法を試してきた。撮影場所はニューヨークとデモインにある同社のスタジオ。現在、3番目のスタジオをシアトルに計画中だという。

ライブ動画のひとつの例としては、「シェイプ」用にフィットネストレーナーのホーリー・リリンガー氏が、マンハッタンでフィットネスのグループトレーニングを指導した様子を、去る6月6日(米国時間)に配信した。メレディスはライブ動画の平均視聴者数を一切公表していないが、このリリンガー氏の動画は12万5666ビューを獲得している。

この数値は、コンデナスト(Condé Nast)やハーストマガジン(Hearst Magazines)など、ほかのパブリッシャーが配信しているフィットネス動画のビュー数と同程度だ。また、「ベター・ホームズ・アンド・ガーデンズ」は先月、3台のカメラを使って「7月のクリスマス」と題したDIY企画の短いライブ動画を配信し、3万3239ビューを獲得している。

ニューヨークにあるメレディスのスタジオの内部

課題はROI(投資対利益)

低予算で気楽に見られる動画コンテンツと、高価な撮影機材やスタジオを使った動画コンテンツのバランスを見つけることが、メレディスに求められている検討課題だと指摘するのは、IHSマーキット(IHS Markit)でブロードバンドメディア担当シニアディレクターを務めるメディアアナリストのダン・クライアン氏だ。

同氏は、メレディスの動画が獲得しているビュー数を、ケーブルニュースを上回る「実に素晴らしい結果」だと評する一方で、マーサ・スチュアート氏の出演する動画は広告バイヤーにとってかなり高額だと指摘する。

「メレディスの課題は、適切なコンテンツの組み合わせを見つけ出し、オーディエンスがパブリッシャーに求めているものと、十分な見返りを期待できる投資とのバランスを取ることにある。この分野では、そのような課題が多く残されている」と、同氏は述べ、あらゆるパブリッシャーがFacebookのライブ動画に参入している事実について言及した。

新技術も積極的に検討

プラットフォームから収益を上げる意味では、メレディスはマーサ・スチュアート氏のライブ動画に目を向けている。掃除関連の動画で「アーム・アンド・ハンマー(Arm & Hammer)」の商品を登場させたり、パンの作り方の動画で「ケリーゴールド(Kerrygold)」のバターを登場させたりしたように、ライブ動画で商品を利用することを考えているのだ。

また、リー氏によれば、メレディスは仮想現実(VR)動画や360度動画にもチャレンジしているという。

「完璧ですぐに効果を発揮するライブ動画のフォーマットは、まだ存在していない。我々は、自分たちがどのようなストーリーを伝えたいのかと、オーディエンスがそのストーリーをどのように伝えてほしいと思っているか、という問いのあいだに立って模索している」と、リー氏は語った。

Jemma Brackebush(原文 / 訳:ガリレオ)