アドブロック問題は「不毛ないたちごっこ」なのか?:各メディアの対応まとめ

広告が目障りだから、見えないようにブロックする。広告をブロックする読者はサイトの売上に貢献しないから、見られないようにブロックする。ユーザーとサイトの間で、そんな堂々廻りのような事態が起きています。

いわゆる広告ブロック(アドブロック)は昔から存在しましたが、AppleのiOS 9以降、特に注目を浴びはじめました。いまやスマホアプリでもWebブラウザでもさまざまな広告ブロックが提供されており、世界的にこれをめぐる議論がおこなわれています(アプリは有料のものも多く、広告だけでなくウィジェットなどもブロックできたりします)。

読者の4割が広告ブロック?

少し昔では2010年、テックメディア「アルス・テクニカ(Ars Technica)」の読者のうち4割がWebブラウザに広告ブロックを入れていたという話がありました。もちろんこの割合の高さは、テック関連を扱うメディアのため、読者のITリテラシーが高いからという理由でした(今後もメディアのジャンルによって、広告ブロックの利用率は分かれると思います)。これに対して、「アルス・テクニカ」側は有料登録すると、広告がなくなるというメニューを提供しましたが、こうしたカウンターはユーザー目線ではなかったのかもしれません。

現在、広告ブロックをめぐる状況はどのようなもので、メディア側はどのように考えているのでしょうか。

打開策はネイティブ広告と課金

もっとも有名な広告ブロックのひとつに「アドブロック・プラス(Adblock Plus)」があります。現在ではダウンロード数10億回を記録しており、今年はじめのダウンロード数が5億回だったことを考えると、飛躍的な急増です。モバイルアプリも1000万回ダウンロードされており、PCでもスマホでも広告をブロックする動きが定着しつつありそうです。

こうした影響はとても大きいようで、オプティマル(Optimal)の調査によれば、米国デジタル広告の損失が今年は38億ドル(約4200億円)、2020年には120億ドル(約1兆3000億円)になるのだとか。加えて、アドビ(Adobe)とページフェア(PageFair)の調査によれば2015年、世界で約220億ドル(2兆4000億円)の損失があるとしています。ここでは、米国における広告ブロックの利用が、現在の4500万人から2020年には1億人へと増加が予想されており、売上へのダメージはまだまだ大きくなりそうです。

米国だけではありません。ヨーロッパにおける大国でも30%前後のユーザーが広告ブロックを導入しています(前述のアドビとページフェア調査)。広告ブロックは世界的に広がっているのです。

今年のページフェアによる最新調査では、世界で4億人以上がスマホにおいて広告ブロックを利用しているという結果でした(世界のスマホ人口は19億人)。しかし、デジタル調査企業グローバル・ウェブ・インデックス(Global Web Index)社の34カ国を対象にした調査では、37%がモバイルデバイスで広告ブロックを利用していることがわかりました(現在利用していなくても将来的に利用することに興味を示すユーザーも一定数いたようです)。冒頭で紹介したように、iPhoneやiPadでも広告ブロックが利用できるようになったことで、特にモバイルでの利用者数の増加が予想されます。

2015年8月にオランダメディアの取材に行った際、ひとつ印象に残っていることがあります。現地で4つのメディアや機関に話を聞いてきたのですが、いずれのインタビューでも広告ブロックに言及していて驚いたことを覚えています。各インタビューではネイティブ広告で市場を開拓するか、課金のみで攻めていくのか、という主に2つの選択で議論が分かれていました。

課金のみで収益を上げるメディアについては、記事を1本ずつ購入できるプラットフォーム「ブレンドル(Blendle)」や有料会員制で約3万人を集めた「コレスポンデント(De Correspondent)」などは課金の可能性を切り拓きつつ、世界(英語圏)にもチャレンジしている新興企業で、広告ブロック、さらにいえば広告に頼らないジャーナリズムの実現に力を注いでいるようでした。

各メディアの対応

さて、広告ブロックの普及はメディアにとって新しい壁となっているのでしょうか。「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」は今年2月、CEO自らが有料購読者ではない広告ブロックの利用者を訪問できないようにするかもしれないことを示唆していました(その後実験的に開始)。米DIGIDAYなどが報じているところによれば、同メディアには70万人ほどの読者が広告ブロックを利用しており、無視できる数字ではありません。

「フォーブス(Forbes)」や「GQ」など著名なメディアでも同様の施策を取り入れています。「ワイアード(Wired)」は今年2月に、サイトをホワイトリスト化するか、週額1ドルの有料版に登録しなければ、記事を閲覧できなくなると発表するなど、あちこちで対応が見られます。今後もメディア側が広告戦略やビジネスモデルを再考しなければ、ユーザーをブロックする”強行策”に踏み切る事例は増えるのかもしれません。

ここにおもしろい調査結果があります。「インターネット広告協議会」(IAB:Internet Advertising Bureau)と世論調査会社YouGov(ユーゴブ)が2016年1月に発表した調査では、54%の広告ブロック利用者が、メディア側からコンテンツをみるための唯一の方法が広告ブロックをやめることであるとのメッセージがあれば、ブロックの利用をやめるという結果を紹介しています(18~24歳に限れば73%という結果)。

たとえば「フォーブス」ではそのようなメッセージを出したことで、約4割のユーザーが広告ブロックをやめたことを報告しています(参照:The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル))。ほかにも、サイトに個人情報を登録したり、ソーシャルログインしたりすることで広告を出さないようにするという、相打ちともいえる戦略もおこなっているなど、いろいろな対応をしているようです。

ビジネスと倫理の両立

また、「ニューヨーク・タイムズ」は別の性質の問題にも対応しようとしているようです。記事の種類によって、広告を出すかどうかという議論です。

たとえば、シリアスな記事には自主的に広告を表示しないようにしています(基本的に記事右上に広告枠が設けられていますが、こちらの記事にはありません)。よっぽど熱心な読者しか気づかないのかもしれませんが、記事をどのように、どんな気持ちで読んでもらいたいのかを考え、それを邪魔しないように自主的に動いているのは興味深いです。

バイラルメディアやまとめサイトのなかにはどんな話題でもいいからアクセスを稼ぐような印象を受けるものもありますが、こういった取り組みを見ると、メディア企業としてビジネスと倫理をどう両立させるのか改めて考えさせられます。

ただ、欧州委員会では広告ブロックしている読者をさらにブロックすることは違法になりうるという意見も出ています。たしかに、ブロックの連鎖は不毛ないたちごっこのようにも映りますから、各国・地域でどのような枠組みがつくられるのかは注目です。

問われるユーザー体験の向上

そもそも、なぜ商業メディアに掲載されるWebコンテンツの多くは無料なのか? それは当然、企業からお金をもらう広告モデルだからです。前述のアドビとページフェアの2014年調査では、8割の人が広告をなくすためにお金を払うのはイヤだと答えています。改めて、無料で閲覧するという意味や、「タダより高いものはない」という言葉を再考する機会になりそうです。

広告ブロックの利用者が増えるならば、メディア側は質の高いネイティブ広告を提供していくか、広告以外のビジネスモデルを構築するほかないのかもしれません(個人や小規模レベルであれば有料のメールマガジンやオンラインサロンも有効なモデルとなるでしょう)。広告ブロック以前に、広告が視認されていないというビューアビリティの問題も重なってきます。

そのため、今後より一層、ユーザー体験を考え抜くことが求められていくのです。一度うっとうしいと思われた広告フォーマットに好感をもってもらうことは非常に難しいと思います。これから、Googleを筆頭とするプラットフォーム企業、そしてメディア企業に対して、広告ブロックはますます大きな問いとしてのしかかっていくのでしょう。

Written by 佐藤慶一