プラットフォーム時代、中小パブリッシャーの悲哀:広がるメディア格差をいかに乗り越えるか?

Googleでは、モバイルページの高速化イニシアチブ「AMP(アンプ:Accelerated Mobile Page)」を開発するにあたり、大手パブリッシャーを集め、彼らのニーズをヒアリングした。ニューヨーク・タイムズなどの大手は、独自のコードをAMPへの貢献として供出。当然ながら大手パブリッシャーにとって都合のいいコードだったわけだが、それがAMPフレームワークに取り入れられた。ある意味、パブリッシャーがプラットフォームの一部を成したことになる。

しかし、すべてのパブリッシャーが平等なわけではない。FacebookやGoogleなど、プラットフォーム側が便宜をはかる必要性を感じている大手パブリッシャー以外は、こうしたイニシアチブの方向性に意見を述べることもできず、蚊帳の外から動向を見守るのみだ。プラットフォームの地殻変動は、大手だけでなく小規模パブリッシャーにも平等に影響するが、弱小メディアに発言力は無い。

2015年、Facebookのインスタント記事やSnapchat(スナップチャット)の「ディスカバー(Discover)」プラットフォームのローンチ時にも、参加パブリッシャーとして、ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、BuzzFeedなど、十分なリソースを有した有名メディアばかりが名を連ねていた。大手メディアが有するオーディエンスが、プラットフォームに好かれる一因だ。プラットフォーム間でも、ユーザーの滞在時間を巡って競争があり、すでに大規模な読者層を持つメディアを引き入れると有利になる。中小のパブリッシャーは、有名大手の後を必死に追わなければならない。

「膨大なトラフィックを生成するGoogleやFacebookの世界には、誰でも当然参入したい。その方策をなんとか考えるのはパブリッシャーの仕事」と、お笑い動画サイト「ファニー・オア・ダイ(Funny or Die)」のマーケティングSVP兼ソーシャルメディア統括マネージャであるパトリック・スターザン氏は述べている。

相手にされない中小パブリッシャー

プラットフォームによるホスティングとコンテンツの収益化。それ自体は、結構なことだ。しかし、パブリッシャーには、コンテンツ作成という「一番金のかかる仕事」が残されていることには変わりない。それに、コンテンツはパブリッシャーが差別化を図れる部分でもあると、プレミアム媒体社の業界団体「デジタル・コンテント・ネクスト(Digital Content Next)」のジェイソン・キントCEOは述べている。

プラットフォームを絡めたビジネスの問題は、広告セールスやコンテンツの見せ方などの部分でコントロールが失われるため、業績を長期的な視点で予想することが難しくなる点だ。業績予想ができなければ、独自の編集コンテンツへの投資も難しくなる。

「オープンなWebでは、オーディエンスに何を見せるか、パブリッシャーが決めることができた。どう差別化を図るかも自由だった」とキント氏。「しかし、金がかかる場所にリソース投入が必要で、しかも配信方法にたいした自由がきかないとなると、リスクが大きすぎる」。

パブリッシャーの格差は、複数の視点で明らかになる。そのひとつが、大手の交渉力だ。ニューヨーク・タイムズなら、Googleの方から、どんなニーズがあるのか、と聞いてくる。大部分のパブリッシャーは、Googleにメールしても返信してもらうことすら難しい。

「プラットフォームでは、可能な限り規模を大きくしたがっている」と、「Medium (ミディアム)」に移転したアウル・ネットワーク(The Awl Network)のパブリッシャーであるマイケル・マーカー氏は述べている。「プラットフォーム側にも、大手メディアと協業するインセンティブがあるのだ」。

専用コンテンツにもコストが必要

プラットフォームに特化したコンテンツ作成にかかるコストも、メディア間格差の要因だろう。とはいえ、確かにプラットフォームによっては、参入に必要となる作業量が少なく、すぐに恩恵を受けることができるものもある。たとえば、コストの面でも、Appleの「News」アプリや、Google AMPを採用するうえでの初期費用は少ない。Appleでは、とくに中小パブリッシャーが簡単にプラットフォームに出稿できるツールを導入しているし、Facebookのインスタント記事もすべてのパブリッシャーが利用できるようになり、WordPressからの出稿プロセスが簡単にできるプラグインも用意された。

「FacebookとGoogleでは、中小パブリッシャーの参入が容易になるよう、障壁の解消に努めている」と、ゴーカー・メディア(Gawker Media)の事業開発VPであるライアン・ブラウン氏は述べている。ゴーカー・メディアのCEO、ニック・デントン氏はかつて、Facebookに多くを頼る事態を懸念していたが、いまではすっかりインスタント記事を受け入れている。デントン氏は、アドテクに飲み込まれるよりはFacebookに繋がれたほうがいいと、諦めの境地に達したとも見られる発言をしている。「結局、オーディエンスがいる場所に、我々の方から出向かねばならないとわかった」と、ブラウン氏。

別のプラットフォームでは、コンテンツ展開に必要な作業量が多く、この点でも、資金力のあるパブリッシャーが有利になる。Snapchatには、独自の出稿システムがあり、バーチカルビデオ(タテ型動画)や若年層のオーディエンスといったプラットフォームの特徴に合わせて、コンテンツのカスタマイズが必要になる(または推奨される)。Snapchatの「ディスカバー」セクションに参加しているパブリッシャーでは、日々フレッシュでユニークなコンテンツを供給すべく、8人以上のチームを組織しているという。しかし、多くのパブリッシャーは、こうしたリソース展開を聞いただけでも、「うちでは無理」と及び腰になる。

「いまは、自社チームの強みをしっかり自覚しなければならないときだ」と、オンラインマガジン「スレート(Slate)」プレジデントであるキース・ヘルナンデス氏は述べる。「Snapchatに経験がない場合、それでは経験者を雇おうか、というわけには、なかなかいかない。収益目標を達成しなければならないという現実がある。何を強みとしてやっていくか、慎重に選ばなければならない」。

動画だって簡単には作れない

動画もパブリッシャーの格差を反映するエリアだ。動画枠に対する広告主の需要は大きいが、質の高い動画を作成し、プラットフォームごとにカスタマイズするにはコストと手間がかかる。Snapchatのバーチカルビデオは音声つきの自動再生、Facebook動画は無音の自動再生なので、パブリッシャーは、字幕をつけるなどの工夫をして、ニュースフィードをスクロールするユーザーの注意を引かなければならない。

「Snapchatは、ちょっとだけ試してみる、というわけにはいかない。本気を出さなければ手に負えないプラットフォームだ」と、ゴーカーのブラウン氏。動画については、「採算を考えると、コストを回収できるだけの閲覧数を達成しなければならないが、製作コストは高くつく」という。

こうしたプラットフォームには、新規のオーディエンスにリーチできる機会があるが、広告媒体としてどれだけの可能性があるのか計測するには、パブリッシャーがネット調査会社のコムスコア(comScore)に有償で依頼し、新規プラットフォームにおける評価を行ってもらわなければならない。これも弱小プレーヤーにとっては障壁となる一因だ。

そして広告という課題

イベント、eコマース、定額制、メンバーシップといったエリアからの収益多角化を目指すパブリッシャーにとっても、広告は依然として主要な収益獲得モデルだ。大手パブリッシャーは、交渉力に加え、複数プラットフォームでの広告販売にかかる負荷を吸収できるだけの営業戦力も有している。広告バイヤーにとって必須である読者層の大きさについては言うまでもない。

「分散型オーディエンス」が、パブリッシャーのマネタイズ能力よりも速いスピードで成長している現在、メディアにとってはやりにくい時代となっていると、デジタル出版プラットフォームのレベルマウス(RebelMouse)創立者兼CEOであるポール・ベリー氏は述べた。しかし、ベンチャーの後押しがある大手パブリッシャーは、オーディエンス拡大に全力投球している。中小のパブリッシャーとは違い、収益の心配は後回しにして、見返りがあるかまだわからないプラットフォームに賭けるだけの余裕があるからだ。

エミリー・ベル氏は、「ニュースの終焉:ジャーナリズムを飲み込んだFacebook」という講演において、プラットフォームはパブリッシャーにとって諸刃の剣であると指摘している。Appleの「News」アプリは、パブリッシャーの配信オプションを増やした。これはいいことだ。しかし同時に、このテクノロジー最大手は、パブリッシャーが自社サイトで表示する広告をiPhoneユーザーがブロックできるようにした。ありがたくない話だ。

ベル氏が指摘するように、デジタル広告価格の下落とアドブロックに対する自衛策として、パブリッシャーは記事の体裁をした広告を売るようになった。ここでも、大手のパブリッシャーに利がある。ネイティブ広告は手間がかかるうえに製作費が高くつき、巨大オーディエンスがなくては、大きな収益も見込めない。

強みを活かした戦略

リソースに限りがあるパブリッシャーでは、プラットフォーム戦略は「どこで勝負するか」にかかってくる。アウル・ネットワークでは、ブランデッドコンテンツに注力し、プロダクションの質とオーディエンスの信用を活かし、大型キャンペーンで成功を収めている。

コンテンツに関して言えば、もっと多くのポッドキャストと、オリジナル動画を作りたいそうだが、すでにアウルのコンテンツにマッチしているインスタント記事や「Medium」といったプラットフォームに注力してきた。「現実に目を向けると、我々はひとつのプラットフォームのために、10人で構成されるチームを5つも抱える余裕はない」と、マーカー氏は語る。

「ファニー・オア・ダイ」では、なんでも屋的な人材を雇って多角化を試みている。「外勤も内勤も両方こなし、Periscope(ペリスコープ)だろうとSnapchatだろうと、すぐに切り替えて動画を作れるようなスタッフに、多くの作業をやってもらっている」と、スターザン氏は述べている。

ニュースサイトの「サロン(Salon)」では、長文形式の記事をインスタグラムやSnapchat用に使い回す方法を考えるだけのリソースがない。リソースを追加する余裕があるとしたら、政治記事や動画グループに回したいという。編集長のデビッド・デイリー氏は、「優先度が高くない部分は容赦無く切り捨てていかなければならない」と述べている。

Lucia Moses(原文 / 訳:片岡直子)
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