Slack ボット経由で、仕事ネタの記事をテスト配信:「ハーバード・ビジネス・レビュー」の実験

コミュニケーションツールであるSlackは多くの会社やチームでその地位を高めつつある。それに目をつけた「ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)」は、コンテンツをSlack内に入れ込むことに尽力しはじめた。

「ハーバード・ビジネス・レビュー」は、Slackのアシスタント機能であるスラックボット(Slackbot)を活用。これまでに「ナルシストな上司とどう付き合うか」「社員が退職願を出してきたらどう対応するべきか」といったトピックに関する、200ほどの記事を社員に対して届けてきた。記事は「事例紹介集」や「やるべきこと・やってはいけないこと」などのセクションから構成されており、どれも同じテンプレートに沿った形になっている。こういったセクションごとにサブスクライブする社員に対して、1本ずつ記事は届けられるそうだ。

Slackは理にかなった選択

Slack上のチームのオーナーがボットをインストールすると、チームのほかのユーザーを招待できる。サブスクライバーはメッセージを毎日受け取るか1週間に1度受け取るか、何時に受け取るか、といった設定も変えることが可能だ。

このボットを作ったのは3人編成のチーム。それを率いるのはシニア・エディターであるモーリーン・ホック氏だ。

「Slackを使いはじめて早い段階で私たちが感心したのは、仕事がシンプルになり、生産性が高まったということだ。それは私たちのコンテンツと同じである。そういう点で、Slackは私たちにとって理にかなった選択になっている」と、ホック氏。

ボットはボストンを拠点にする企業ヴァーモンスター(Vermonster)の助けを得て作られた。現時点では一対一のコミュニケーションしか行わないが、将来的にはグループ単位でメッセージを届けることが可能になるかもしれない。「ハーバード・ビジネス・レビュー」の多くのチームでは、社員間でSlackが使われているからだ。メッセージは自動化されているが、ユーザーが「ケース」や「リンク」といったシンプルなコマンドを入力すると、関連するケーススタディを取り出したり、記事全文のリンクを受け取ることができる。

また、ボットに対するフィードバックもメッセージで送ることができるという。

真価はいまだ、手探り状態

メッセンジャーアプリでのコミュニケーションはデスクトップよりも、よりプライベート度合いが増す。そのため、パブリッシャーが活用する場合はプラットフォームに合わせた正しいトーンを理解し、一層気をつけなければならない。凝り固まったものにしたくない一方で、ブランドから離れてしまうのも良くない。「ハーバード・ビジネス・レビュー」が気をつけたのは、ロボットのような印象を与えないことだった。「(ボットに)個性がほんの少しだけあるように感じてほしかった。それもいまの程度だけでよかった」と、ホック氏は語る。

メッセンジャーアプリは、パブリッシャーにとって、いまだ新しい領域である。リーダーと強いコネクションを作るというよりは、記事をユーザーに届けることに使われているため、まだ不明瞭な所が大きい。それでも多くのパブリッシャーたちがFacebookのMessengerやLineといった人気アプリに飛びついた。

「ニューヨーク・タイムズ」と「クオーツ(Quartz)」もSlackを実験的に運用している。「ニューヨーク・タイムズ」の選挙ボットはリーダーたちからの質問に答え、「クオーツ」は先日行われたネクスト・ビリオン・カンファレンス(Next Billion conference)参加者たちのための連絡ツールとしてボットを活用した。加えて、クオーツのジャーナリストたちがアイデアを議論し、登壇者に質問を投げかけるのにも利用している。しかし、Slackのボットをこういう形で活用しているパブリッシャーはまだ少ない。Slackに限らず、メッセンジャーアプリにパブリッシャーが何を期待できるのか、明確な答えを得られてはいないのだ。

「少しだけ試してたくさん学べ」

そのため、「ハーバード・ビジネス・レビュー」が彼らのSlack用ボットを試験的なものとして捉えているのは自然だ。Slackはまだ、人々にコンテンツを目にしてもらうためのプラットフォームに過ぎない。そして、ニュースを得たりコミュニケーションをするためのプラットフォームの数は増え続けている。Slackボットに関して具体的なゴールは設定されていないが、ホック氏のチームはどれくらいの人がボット経由で講読し、利用するのかデータを得ることになる。一般的に、コンテンツを頻繁に読むユーザーほど講読をすることが分かっていることからも、このデータの意義は大きい。

「ハーバード・ビジネス・レビュー」のもっとも重要な戦略原理のひとつは「少しだけ試してたくさん学べ」だ。「人々はSlackでのコンテンツとボットを通してどうエンゲージしてくれるのか。何が上手くいって、何が上手くいかないのか。我々のコマーシャルパートナーたちはどう思うのか。こういった重要な質問に答えるための手段として、ボットを立ち上げている」と、プロダクト開発デジタル戦略マネージングディレクターであるエリック・ヘルウェグ氏はいった。

「ハーバード・ビジネス・レビュー」は、現時点で活用しているプラットフォームを越えてボットをプロモーションすることは行っていない。しかし、ユーザーの行動パターンが見えてくるに従って特定の会社にコンテンツを届けるサービスをはじめるかもしれない。また、いまはユーザー全員が同じコンテンツを受け取っているのが現状だが、サイト上のコンテンツから興味があるものを検索できるようにボットを変更していく可能性もある。Slack上のボットが学んだことをほかのプラットフォームのボットに活かすことも不可能ではないだろう。

「助走をしっかりとしている状態だ。試験的なものとして扱っている」とホック氏は語った。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)