クッキーまでも利用制限される、欧州パブリッシャーの憂鬱:「eプライバシー規則」の要点

メディアが欧州連合(EU)の新しいデータ保護法「一般データ保護規則」(GDPR)に注目してきた一方で、パブリッシャーはもうひとつのプライバシー関連法案「eプライバシー規則(ePrivacy regulation)」(通称EUクッキー法)にも不安を抱いている。

現行法よりもはるかに厳しい規制を課すeプライバシー規則の法案に対しては、EU参加国の多くのパブリッシャーが懸念を表している。5月、英フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)、英ガーディアン(Guardian)、英テレグラフ(Telegraph)、仏ル・モンド(Le Monde)、独シュピーゲル(Spiegel)など12のパブリッシャーは、この法案が成立すると、アクセス解析や広告戦略策定のためのクッキーの使用許諾をサイト閲覧者から得にくくなり、デジタル収益に影響するおそれがあるとした声明を、欧州議会に提出した。

以下に、この法案の主な論点を紹介する。

ブラウザがゲートキーパーになるのか

欧州委員会は、クッキーの使用を許可するかどうかユーザーに尋ねるバナーをなくすために、ユーザーがブラウザの設定でクッキーの使用について選択することを提案している。たとえば、ブラウザでクッキーの使用を認めないように設定していると、ユーザーがサイトを閲覧してクッキーの使用許可を求めるバナーに対して「同意する」と答えたとしても、パブリッシャーはクッキーを使えない。これはパブリッシャーには受け入れられない提案だ。

パブリッシャーとブラウザのあいだで直接コミュニケーションを行う手段がないため、一部のパブリッシャーは対価を求められるようになる可能性をおそれている。たとえばブラウザが、パブリッシャーのサイトをホワイトリストに入れる代わりに、料金を請求するなどの事態が想定される。

「かなり懸念している。ユーザーがデータの管理権限と透明性を取り戻すための法的枠組みについては、全面的に支持したい。だがEU議会で審議されているテーマは、クッキー技術とゲートウェイ管理であり、ユーザーに透明性を与えることではない。ブラウザ優位の制度のもとでは、ゲートキーパーの役割を、ブラウザを提供する組織や個人に渡すことになる。そうした組織や個人の大部分は、米国発であるか、米国のプラットフォームに属している。このせいで、広告を資金源とするオープンで自由なインターネットに、長期的に大きな影響が及ぶかもしれない」と語ったのは、ドイツのメディア企業アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)が刊行する「ビルト」(Bild)のマネージング・ディレクター、シュテファン・ベッツォルト氏だ。

プラットフォームへの影響は

eプライバシー規則法案が成立するとGoogle、Facebook、Amazonなどの企業の損益にどう影響するかが、議論されている。こうした企業の寡占状態を率直に批判してきたドイツのパブリッシャーは、この法案が成立するとパブリッシャーはますます水を空けられることになると主張している。なぜならパブリッシャーはサードパーティのデータに頼っている一方で、Google、Facebook、Amazonはすでにユーザーのログインデータを大量に持っており、製品についてユーザーと直接コミュニケーションできるため、ユーザーのデータ使用許諾を比較的簡単に得られるからだ。

「GoogleとFacebookがデータを収集できる範囲は限定されるかもしれないが、それでもサードパーティのクッキーにより依存しているパブリッシャーと比べると、依然としてはるかに大きなアドバンテージを持っている」と、欧州雑誌メディア協会(European Magazine Media Association)法務部門責任者のクリストフ・フィードラー氏は語った。

米国のプレミアムパブリッシャーによる業界団体、デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)はこれと真逆の主張をしており、GoogleやFacebookがデータを収集して利用できる範囲は「著しく制限」されることになると会報のなかで述べた。GoogleやFacebookは、あらゆる当事者から同意を得ない限り、WhatsApp、Gmail、Messengerなどのサービスで得たデータに基づいて広告のターゲティングを行えなくなるという。メッセージングアプリやメールの収益化については、パブリッシャーはこれら2大寡占企業と直接競合しているわけではない。しかし競合分野であるオンライン広告については、GoogleとFacebookはパブリッシャーと同様の課題に直面するかもしれない。

Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)