アルゴリズムの支配は ジャーナリズムの落日を招くのか?:ガーディアン編集長の嘆き

アルゴリズムとプラットフォームによって支配されたニュース・パブリッシング業界。「ガーディアン・ニュース・アンド・メディア(Guardian News and Media)」の編集長であるキャサリン・ヴァイナー氏が予測する業界の見通しは暗い。

毎年行われる、イギリスの広告業界団体ISBAの昼食の集いの基調講演で、ヴァイナー氏が会場を埋めるシニア・マーケターたちに向かって話したのは、テクノロジーとプラットフォームの台頭がいかにパブリッシング業界を変え、そして広告に費やされるお金の流れを変えたかということだった。

講演のなかで彼女は、最近のロイター(Reuters)によるレポートに言及。人々がどうやってニュースを消費しているかについて明らかにしたこのレポートでは、人々のニュース情報源としてFacebookが主流となっていることを指摘している。

「人々が何を読むのか、またパブリッシャーがどうやったら利益を出せるのかという点において、ソーシャルメディア企業は圧倒的な影響力をもつようになった。Webの出現によって配信先が世界に広がったというパブリッシャーの挑戦はいつのまにか、いかに人々が留まり・費やす時間を最大化するかに腐心するプラットフォームへの対抗策に取って代わってしまった。広告主やプラットフォームにとっては、これは良いことかもしれないが、ニュース業界にとっては深刻な懸念となっている」と、ヴァイナー氏は語る。

ニュースは質よりドラマ性?

そうした状況はニュースにとって、クオリティや真実よりも、どれほど多くの人にシェアされるかという点で、商品価値が問われるようになっていることを示す。ニュース業界においてはジャーナリストも広告主も同じ競争に巻き込まれているのだ。プラットフォームのニュースフィード上で見てもらう、という競争である。

Facebookは2016年6月末、パブリッシャーがシェアした投稿よりも友人や家族がシェアする投稿を優先して表示するようにアルゴリズムを調整した

「謎に満ちていて、常に変わる、未知のニュースフィードのアルゴリズムによって支配される争いを、ジャーナリストは戦い抜かなくてはならない」と語ったヴァイナー氏はまた、業界全体がプラットフォームに従うような状況に陥ったと付け加えた。「私たちは途方に暮れている。その理由のひとつは、シリコンバレーのビジョンやルールをまるっきり受け入れてしまったからだ」。

ソーシャルメディア上で採用されているフィルター機能は、読者にとって「反響を生みやすい部屋」を作ってしまったという。自分と似たような声だけが何度も届き、自分とは異なる意見や事実から読者が切り離されてしまうことを許してしまう状況だ。これはFacebookだけでなく、Whatsapp(ワッツアップ)やViber(バイバー)といったチャットアプリですらそうなっている。こういった状況は、イギリスのEU離脱国民投票をめぐって明らかになったように、事実ではなく作り話があたかも事実であるかのように定着してしまうことを許してしまう。

Facebookはニュース企業なのか

「Facebookは自らをニュース企業とは一義的には捉えていないうえに、我々、パブリッシャーからニュース企業と認識されたくないような姿勢を取っているように思える。しかし、その議論は実際にはもっと複雑な問題だ」と、ヴァイナー氏は指摘する。

ガーディアンも含めたパブリッシャーが規模を拡大するのを、GoogleやFacebookが助けたことは認めながらも、その結果が収益には必ずしも結びついていないとヴァイナー氏。「イノベーティブなジャーナリズムのためには、新しいビジネスモデルが必要だ」。

以下にヴァイナー氏のスピーチのポイントをまとめた:

ペイウォールに反対ではない

このような厳しい状況にありながらも、クオリティの高い信頼のおけるジャーナリズムを社会は強く欲していることに関して、ヴァイナー氏は確信をもっており、それに対価を払う意志があると考えている。その証拠に同氏が参照したのが、ブレキシット(Brexit:英国のEU離脱問題)関連の報道だ。6月にはガーディアン初の10億ページビューを達成し、1700万人がサイトを訪れ、13万1000のコメントが残された。

2016年6月末にヴァイナー氏が投稿したポストは、ガーディアンによる報道、特にブレキシットのような大きなニュースに対する、より詳しい報道を支援してくれるよう、読者に毎月の定額募金に参加するようお願いするものであった。ガーディアンはこれまで常に、ペイウォールを導入しない、オープンなジャーナリズムを旗印にしてきた。その点は変わっていないとヴァイナー氏は主張したうえで、これまでよりも少し柔軟性をもって取り組むだろうと発言した。

「現時点では、読者に利用料を要求するよりは、ジャーナリズムを支援する寄付金を募る方が良いと考えている。ペイウォールに問答無用で反対、というわけではないが、まずほかの選択肢をすべて探求するべきだと思う」。また、読者に寄付を募る試みは、これまで非常に上手くいっているというが、詳細の数字は公表されなかった。

虚偽の情報は収益を生む

不正確な情報がソーシャルメディア上で広まるスピードは痛ましいほど速い。パリでおきた同時多発テロひとつをとっても、虚偽のニュース記事やビデオがまたたく間に広まった。そのため、ニュースの事実確認プロセスが強化された。ヴァイナー氏のスピーチではもちろん、ガーディアンといった信頼できるニュースメディアが虚偽のニュースや間違った情報を正す役目を担っていると話した。

しかし、虚偽のニュースについてヴァイナー氏が指摘するのは、ソーシャルメディアを使っている個人のユーザーによるコンテンツだけではない。ナショナル・レポート(National Report)といったニュースメディアも、エボラ出血熱に関して、感染者に関する間違った情報や怪しい情報源によるコメントなどを記事として発表していたと指摘する。「どうもこういった虚偽と疑われるようなのニュースは収益を生む、効率的なビジネスとして成り立っているようだ。コンピューターではなく人間が判断を下す世界において、アルゴリズムによってコントロールされた広告がますます普及することで、ブランドは気づかずに虚偽の報道を支援していることになる」と、会場にいる広告主に投げかけた。

ただし、ジャーナリストが常に正しいわけではない。デジタルに関係なく人間である以上、さまざまな理由で失敗を犯す。しかし、デジタル時代においては、ウソやウワサも、事実と同じくらい広く読まれてしまうのは確かだ。しかも、多くの場合はウソやウワサの方が事実よりも過激で、人々の興味をそそるものであり、結果としてよりたくさんシェアされてしまうことがある。そんな側面をヴァイナー氏は嘆いた。「世界中にウソが飛び回ってしまう可能性が常にあることの責任は、誰がとるのか?」と、同氏は語った。

Image from Michael Brunton-Spall
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)