NYT、購読者1000万人達成のため「解約率」に向き合う

紙面とデジタルで合わせて300万人以上の有料購読者数を誇るニューヨーク・タイムズ(The New York Times)では、いま、デジタル購読者からの収益が紙面広告の収入を上回っている。だがこれは通過点にすぎない。同社は購読者数1000万人をめざしているからだ。

目標達成のために、同社は消費者向けビジネス寄りの思考をはじめている。なかでも大きな変化は、戦略の重点を新規購読者の獲得から既存購読者の維持へシフトしていることだ。

これは、同社のカスタマーレベニュー部門シニアバイスプレジデント、クレイ・フィッシャー氏の仕事だ。同氏は、2年前の入社以来、既存購読者の維持をめざす仕事の担当者を従来の約3倍となる25人に増やし、消費者マーケティングの専門家を銀行や小売など新聞以外の業界から迎え入れた。現在100人規模のチームを率いる同氏によると、具体的な数値は公表していないが、売上と解約率は改善されたという。「我々は確かに大きな目標を抱いており、それを達成する力もある。より深いエンゲージメントを行う読者を獲得していく」と同氏は述べた。

新規獲得コスト削減が目的

ニューヨーク・タイムズはすでに多くの購読者を獲得しているため、その維持に重点を置くことは当然だ。パブリッシャーが既存購読者の維持を求めるのは、解約する読者の穴を埋めるためのコストが大きいからだ。パブリッシャーの課金システムをサポートするデジタルメディア向けビジネスプラットフォーム、ピアノ(Piano)によると、パブリッシャーの解約率(チャーンレート)は通常10%ほどだが、もっと高い場合もあるという。

「解約率が年30%である場合、30%分の新規購読者を獲得したとしても、購読者数は同じレベルにとどまる。解約率を半分に引き下げることができれば、新規購読者の獲得がより大きな成長につながる」とパブリッシャーコンサルタント会社チーミングメディア(Teeming Media)の創業者、ドリアン・ベンコイル氏は述べた。短期的に見ると、維持は新規獲得よりもコストがかさむ場合がある。だがプロダクトを改善することで解約率を下げた場合、長期的には新規獲得コストの削減にもつながると同氏は指摘した。

解約率抑制のための戦略としては、さまざまな手段を取ることができる。そう語ったのは、ピアノ傘下の雑誌トラフィック(Traffic)の編集長、パトリック・アッペル氏だ。Amazonプライムなどのプロダクトとのセット販売や、契約期間をより長くするのもひとつの手だ。ピアノの調査によると、年間購読は月間購読よりも平均解約率が高いが、月間購読は年間購読よりも解約の機会が多いため、2年単位で見ると、平均的な年間購読は、同等価格の月間購読に比べて2倍の価値があると同氏は述べた。

具体的な解約率抑制施策

ニューヨーク・タイムズのビジネスモデルでは、既存購読者の維持のための仕事は、新規購読者を獲得したその日からはじまる。同社の10人規模のチームが、契約開始から90日以内の新規購読者にメールを送り、同社の報道内容や新しいプロダクトについて伝える。サイトには、特定のセクション、著者、記事のおすすめを表示する画面上部のリボンなど、新規購読者のみに表示される機能が用意されている。

また同社は、購読者限定のイベントの実施や、同社イベントへの早期アクセスも提供している。たとえば、カナダ首相ジャスティン・トルドー氏のトークイベントや、ワシントンD.C.にある報道博物館ニュージアム(Newseum)や国際スパイ博物館などでの臨時討論会を挙げることができる。「新規購読者が、まったく新しい世界に足を踏み入れたかのような気持ちになれるようにしたい」とフィッシャー氏は語った。

解約率を下げるには、解約のリスクが発生する場面の特定も必要だ。そのためにニューヨーク・タイムズは、既存購読者の維持の専門家を雇い、サイトの訪問頻度や記事の閲覧頻度が低下しはじめた購読者を検出するシステムを導入している。頻度低下が検出されると、再エンゲージ作戦が実行される。たとえば、資金を投じて同社の記事をFacebookのユーザーフィードにより多く表示させたり、新規購読者の獲得や既存購読者の維持で大きな役割を果たすことがわかっているサービスジャーナリズムやインタラクティブコンテンツを宣伝したりする(ニューヨーク・タイムズは新規購読者にリーチするためにFacebookを使っているが、自社サイトへのアクセスを望んでいるため、Facebookがユーザー囲い込みのために導入した「インスタント記事」から撤退している)。

カスタマーサービスも改善

ニューヨーク・タイムズは、カスタマーサービスについても消費者中心のアプローチを行っている。同社は社内の対応力を向上させるために、新聞の配達ミスなどの丁寧な対応が必要な状況のための専門家を雇っている。またカスタマーサービス専門家6人から成る社内チーム「ラーニング・ラボ」を設置し、そこで改善策の市場実験や市場展開を実施している。

「丁寧な対応が必要な場面では、弊社の社員に対応させたい」と、フィッシャー氏は語った。「かつては、テンプレート通りのメールを送るだけだった。だが、いまでは、専門家チームが状況を把握して対処し、問題解決のためにより積極的に取り組んでいる。配達そのものを完全にコントロールすることはできないとしても、購読者への対応には改善の余地がある」。

LUCIA MOSES(原文 / 訳:SI Japan)