検索データ活用で、eコマースを軌道に載せたパブリッシャー

フューチャーは50ものブランドを抱えるウェブマガジンのパブリッシャーだ。そのポートフォリオは、家庭用電化製品から音楽、写真など幅広い。さらには多くのパブリッシャー同様、eコマースビジネスにも参入している。

2016年、フューチャーは新たなアプローチ法を導入した。それは、データを綿密にチェックして、ユーザーの商品に対するニーズを判断し、その興味に合致した記事を作成したうえでアフィリエイトリンクをつける、というもの。このアプローチが功を奏し、2016年、同社のeコマースのトランザクション数は110万件と倍増。年間売上額も同社の収益全体の15%にあたる430万ポンド(約5億8781万円)にのぼった。

「検索」を中心にした戦略

フューチャーの事業担当ディレクター、ザック・サリバン(Zack Sullivan)氏は「理論から言えば、読者が読みたいと思う記事や関心度の高いコンテンツを提供すれば、購買意欲は自然と高まるものだ」と述べた。同パブリッシャーのeコマース戦略の主軸は「検索」。テレビ、携帯電話、コンピュータといった高価な商品への関心を測るのに、いまなお有効なアプローチ法だ。同社がいま、検索データを活用しているのはトランザクション数の増加につながるコンテンツを特定するためだ。

コマース業務に投資するパブリッシャーは多いものの、そのアプローチは多岐に渡る。パブリッシャーの多くは編集部が主導する形でコマース業務を管理している。つまり、アフィリエイトリンクなどの商業的な要素は後回しにされることが多い。しかし、フューチャーの場合、データと商業活動の両方がスタートの段階から考慮されている。

「我々は、カスタマージャーニーの重要性、そして購買サイクルのどこに身を置くか、ということの大切さを業界に伝えていきたい」と、サリバン氏は語る。「これはフューチャーのサイトにアフィリエイトリンクを張り巡らせるより、はるかに重要なことだ」。

「高額マージン」の出どころ

この戦略が実際に適用されているのが、フューチャーの消費者家電製品専門サイト「テックレーダー(TechRadar)」だ。テックレーダーで公開されたコンテンツでコマース要素が含まれるものは、おおむね70%にも及ぶ。

フューチャーの技術プラットフォームであるホーク(Hawk)は、Amazonやジョンルイス(John Lewis)、カーフォンウェアハウス(Carphone Warehouse)などの小売業者から45000件ものAPIフィードを収集し、その中から関連性の高いタグを選んでページスクリプトにマッチさせ、競争力のある取引を表示する。コンテンツが提供するサービスのニーズに応じて、200種類ものコマース要素をページに加えることが可能だ。これを用いれば最新のハンドセットに関する記事では価格比較フィードを、消費者向けの商品紹介ページには商品の割引販売情報を表示することができる。

ただ、フューチャーは商品の注文まで請け負うわけではなく、ユーザーを販売業者へと誘導する役割を果たす。同社には2%から数十%の、サリバン氏のいう「高額のマージン」が支払われることになる。

新サイトで新しい取り組み

2週間前、コマース機能を携えたフューチャーは新規サイト「T3 ベビー(T3 Baby)」を立ち上げた。これは、同社が従来扱っている家電製品、音楽、写真といったコンテンツとはまったく異なるものだ。「T3ベビーは、我々がはじめてeコマースのニーズに合わせて制作したサイトだ。このタイプのユーザー向けに、どんなアーキテクチャを構築すればよいか、ということが課題だった」。

子供を授かったばかりの夫婦がどんなワードを検索しているかを調べ、T3ベビーでは買い手に向けたシンプルな商品案内コンテンツを作成している。たとえば妊婦向けの枕5選車用ベビーシート5選ベビーモニター5選といったようなものだ。フューチャーによると、サイト設立初日から商品が売れはじめたという。

「結果は予想を上回るもので、ユーザーが購入を開始するまでスピードの速さには驚いた。しかし、我々は3年かけてeコマースに深くかかわってきたので、ユーザーが何をしようとしているのか把握している。対象は違っても、意図することは同じだ」。今後の展望として、同コンテンツは「ランニング時に使えるベビーカー5選」というように、買い手側のよりニッチなニーズにも対応できるように仕様を整えていく予定だ。

漸進性が高いeコマース

フューチャーのeコマース事業を管理するのは8名の専門チームとeコマース担当ディレクターだ。それに加え、加盟店取引を管理するライセンスチーム、eコマース編集チーム、そして個々のブランド内にいる追加メンバーが業務に携わる。

その一方で、バランスの問題もある。eコマースの優先順位を上げることは、従来のディスプレイ広告事業を縮小することにつながる。ユーザーが商品を購入するためにクリックしても、それは広告ではない。2016年12月、フューチャーはクリスマス商戦での売上獲得をめざし、バイヤー向けの紹介記事を多く掲載し、1日当たりのeコマース取引数は1万件に倍増した。

しかし、eコマースに多くの編集スタッフやオーディエンス獲得のためのリソースを傾けすぎてしまったため「当社が提供した広告のインプレッション数に大きな影響が出てしまった」とサリバン氏は語る。eマースに注力した結果、広告事業がどれだけの打撃受けたのか、正確に把握するのは困難だ。それでも、チームにとっては良い教訓となった。

「現在は全面展開に移行する前のA / Bテストを実施しているところだ。メディアオーナーも、すべての問題を解決する特効薬などないことはわかっている。問題は、複数の収益源を通じて一定の漸進的な利益があるかどうか、ということだ。eコマースは漸進性が高い、利益率の高い製品だ」と彼は加えた。

Lucinda Southern(原文 / 訳: Conyac