メディアとジャーナリズムの未来は、営利と非営利の「中間」にある? その3つの新潮流とは

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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2014年から2015年にかけてメディアにとって重要なトレンドがいくつもありました。

たとえば、ネイティブ広告や動画(広告)、プラティッシャー(プラットフォームとパブリッシャーの2面性をもつ存在)、分散型メディアなどは代表例と言えるかもしれません。ただ、これらの大きなトレンドに隠れて地味ながらも重要なトピックがあります。今回は、営利メディアと非営利メディアの境界が交わるような取り組み――寄付や課金、クラウドファンディング、奨学金――を紹介したいと思います。

起業家・スタートアップがつくる非営利メディア

eBay創業者のピエール・オミダイア氏が立ち上げた「ファースト・ルック・メディア(First Look Media)」。立ち上げを発表した2013年の時点で、営利のテクノロジー企業と非営利のジャーナリズム組織でメディアをつくると公言していたユニークな事例です(オミダイア氏自身が5000万ドルを投資しています)。

そのファースト・ルック・メディアが2014年2月に立ち上げたのが「インターセプト(The Intercept)」でした。エドワード・スノーデン事件の報道で活躍したグレン・グリーンウォルド記者率いる編集部がNSA(国家安全保障局)による盗聴活動の実態を伝えていくという非営利メディアです。長期的なミッションは「体制側を監視するジャーナリズム」を生み出すこと。資金力を武器に息の長い調査報道メディアを目指しているのです。

その後もファースト・ルック・メディアはグローバル・ニュース・コミュニティ「レポーテッドリィ(reportedly)」をローンチ。Twitter、Facebook、インスタグラム、Reddit、Mediumなどの(ソーシャル)メディアを用いて、分散型時代の速報ニュースメディアづくりをおこなっています。

次に、「コンテントリー(Contently)」というライターと企業をつなぐネットワークサービスの動きを紹介します。企業のコンテンツマーケティングの需要の高まりから、サービス自体も注目を集めているのですが、2014年7月には「コンテントリー・ファンデーション(Contently Foundation)」という財団まで立ち上げていました。

「コンテントリー・ファンデーション」のエディターには、新聞「ニューヨーク・ポスト」で長年、調査報道記者を務めたブラッド・ハミルトン氏を迎え、広告ではなく良質なコンテンツのある世界を目指す企業として、フリーランスのジャーナリストらが調査報道や長文記事を発信する場所をつくろうというのです。いまのところ、司法制度や養子縁組など社会問題を掘り下げる記事が何本か掲載されています。

新旧メディアが設置するフェローシップ制度

近年フェローシップ制度を設置するメディア企業が増えています。BuzzFeedは2014年10月にコロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールと共同で 「BuzzFeedニュース/コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール 調査報道フェローシップ(Columbia Journalism School Investigative Reporting Fellowship)」という調査報道に向けた1年間のフェローシッププログラムを立ち上げています。

2015年1月、このフェローシッププログラムにメリッサ・セグラ氏が選出されました。同氏はタイム社「スポーツイラストレイテッド(Sports Illustrated)」で12年間ライターとして経験を積んだ人物。まだ投稿は3本ですが、1年間でどのような成果が出るのか楽しみです。

これに続いてBuzzFeedは、ライターのフェローシップ「BuzzFeedエマージングライターフェローシップ(BuzzFeed Emerging Writers Fellowship)」をはじめています。将来有望な若手ライターの育成を目的としたもので、2015年4月に募集を開始、10月1日まで応募可能でした。4カ月のプログラムを通じて、教育的・資金的な支援をしていくというものです(フェローに選ばれると1.2万ドルが与えられます)。

BuzzFeedと並んで注目メディアとして挙げられることの多いVice Mediaも2014年12月に基金というかたちでジャーナリスト支援をはじめると発表しました。タッグを組むのは、メディアやジャーナリズム支援を積極的に行うナイト財団。50万ドル規模の基金をニューヨーク市立大学大学院(起業家ジャーナリズムがあることでも知られる)に設立し、なかなか報道されない事実やトピックを新しい読者に向け、新しいストーリーの伝え方で発信していくようです。

Vice Mediaが配信するニュースサイト、「Vice News」ではイマーシブ(没頭型)なコンテンツにも力を入れていることから、VR(仮想現実)時代のジャーナリストの育成を目指すのではないかという見方もあったものの、選出されたのはイタリア、ジンバブエ、シカゴのジャーナリスト4名。各ジャーナリストは、世界の廃棄物の移動をインタラクティブマップで表現するプロジェクトやジャーナリストのマッチングサービス、アフリカ向けのニュースサイトなどに取り組んでいます。

新興メディアだけでなく、ニューヨーク・タイムズも奨学金を設置しました。フェローシップの名前は「デイビット・カー・フェローシップ(David Carr Fellowship)」。これは、同紙で長年メディア動向を伝えるコラム「メディア・イクエージョン(Media Equation)」を連載していた故デイビット・カー氏の思いを引き継ぎ設けられたものです。

カー氏はニューヨーク・タイムズの動きを1年間追ったドキュメンタリー「Page One: Inside the New York Times」でも取り上げられるほど、メディアジャーナリストの代表格といえる人物でした。このフェローは、ニューヨーク・タイムズのなかで2年間記者・ジャーナリストとして働くというプログラムになっており、2015年12月で募集終了、2016年の初めにはフェローが選ばれる予定です。

クラウドファンディング活用や特集記事への課金

ハフィントンポストは寄付や課金に近いところで、ライターやメディアのプロジェクトを支援できる「ビーコン(Beacon)」というサービスを用いてクラウドファンディングを実施しました。白人警官が黒人少年を射殺した事件を発端として、暴動・混乱が拡大する米セントルイス郊外ファーガソン地区の継続的な報道をおこなうためです。

目標額を4万ドル(約400万円)に設定した結果、650人以上の支援者から4.4万ドルのサポートを受けました。「ファーガソン・フェローシップ(Ferguson Fellowship)」という奨学金制度のもと、ファーガソン地区を報道するマライア・スチュワート記者の取材活動に充てられ、13本の記事を公開することができています。

雑誌としても有名な「エスクワイア」は、一部記事において期間限定で寄付や課金をおこなっています。たとえば、2014年9月11日にはワールドトレードセンター(世界貿易センター)から落ちていく男性を収めた写真と記事「THE FALLING MAN」にて寄付を募りました。この記事は2003年の初出以来、2000万人以上に読まれています。過去の特集記事をよいタイミングによって、課金のハードルを設けてみるのはおもしろい取り組みだと思います。

このように、営利メディアがただ単にトラフィックを獲得してマネタイズをどうするのかだけでなく、社会にとってメディアを通じてなにをしたいのか、どう向き合うのかを考えている取り組みが増えることは増えていくでしょう。なぜなら、新聞の販売・広告収入が落ち込むなかで、ウェブ媒体はいかに調査報道や次世代のジャーナリストの育成を担うことができるのかが、しばらくは重要なテーマであり続けるからです。

written by 佐藤慶一
photo by Thinkstock / Getty Images