デジタルメディアを揺るがす、Appleのアンチトラッキング:Safariのアップデートが示すもの

広告業界はAppleに対し憤慨しているが、同社の決定の前には無力だ。

Appleは自社ブラウザのSafariで、トラッキングに制限をかけようとしている。これにより、広告バイヤーがニッチなオーディエンスにターゲティングするのが難しくなっている。このトラッキング制限により、ユーザーのデータプライバシーは保護されるが、一方でサードパーティーのデータにその大半を依存している広告主のコンバージョンやパブリッシャーのCPMは大きく減じる可能性がある。

Appleは9月19日に、SafariのOSをアップデートした。これにより、Webサイトを訪問してから24時間以上経過すると、ユーザーはサードパーティーからトラッキングされることがなくなる。これを受けて9月第2週に、広告業界の6団体が、この制限はインターネット経済に悪影響をおよぼすと、Appleに対して公開文書で抗議を行った。文書は返答を求めていたが、Appleは応じていない。

パブリッシャーにも影響大

Safariのアップデートは、Appleのデジタル広告に対する疑問視を示す一例に過ぎない。2014年に、AppleのCEOティム・クック氏は、Facebookをはじめとする広告によって収益を上げるビジネスモデルを批判した。そして昨年、Appleはモバイル広告プラットフォームであるiAdの運用を停止した。AmazonやGoogleといったテック大手が広告商品によって収益を伸ばしてきた一方で、Appleは1000ドルの携帯電話をはじめとする製品を購入する顧客を集めることに注力してきた。

広告エージェンシーのハッカーエージェンシー(HackerAgency)で北米地域のプレジデントを務めるジュリー・レゼク氏によると、Appleがリターゲティングのデータに制限をかけたことで、広告主にとって特定層のユーザーを探すのが困難になるため、コンバージョンやリーチが低下する可能性があるという。また、それ以外にも2名の広告バイヤーに尋ねたところ、Appleがサードパーティーのトラッキングを制限することで売り上げを伸ばすことが困難になると述べている。そして広告のパフォーマンスが低下することで最終的には需要が減り、CPMが下がることでパブリッシャーにも悪影響が及ぶという。

だが、すべてのパブリッシャーに悪影響が及ぶというわけではない。パブリッシャーのうちでも影響が大きいのは、広告販売の大半をサードパーティーのデータベンダーと、公開のプログラマティック広告に依存しているパブリッシャーだ。収益の大半を直接販売から得ているパブリッシャーへの影響は微々たるものになるだろうと、ネイティブアドのプラットフォームであるゼマンタ(Zemanta)のCEO、トッド・サウィッキ氏は述べる。

まったく意に介さないApple

「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」によって、広告主が広告を購入するWebサイトは、ターゲットオーディエンスが訪れるあらゆるWebサイトからメディアブランドのWebサイトへと移り変わった。それと同様に、Appleによるデータ収集の制限はハイパーターゲティングに依存しないプレミアムパブリッシャーにとって有利に働くだろうと、コムスコア(comScore)のトップパブリッシャー200社に選ばれたとあるパブリッシャーの商品部長は分析する。

デジタルメディア企業ランカー(Ranker)の収益はおよそ9割をプログラマティック広告に依存している。だが同社のCEO、クラーク・ベンソン氏によると、Appleのこの新しい制限が影響するのは、同社の収益のうち若干1~2%にすぎないという。なぜならほかの多数のパブリッシャーと同様、ランカーは独占データを広告主に販売するプライベートマーケットプレイス(PMP)を築き上げているからだ。今回Appleが取り締まっているのはサードパーティーのデータ収集だが、ランカーのPMPはサードパーティーに依存していない。

メディア業界アナリストのレベッカー・リーブ氏は、Appleへの抗議によって、業界団体は業界人たちの利益を守る意思を示したと指摘する。

「だがAppleはまったく意に介していないようだ」と、リーブ氏。理由として、同社はFacebookやGoogle、Amazonと異なり、デバイスの販売によって収益を上げているからだと語る。もしAppleが同社のブラウザ上のユーザーのトラッキングについて変更を望んでも、それを止めるだけの影響力を持つ者は広告業界にはいないという。

「この世の終わり」ではない

AppleはこうしてWeb広告を多少困難にすることでAmazonやFacebook、Googleといった巨大企業と駆け引きをしているのだと、サウィッキ氏は指摘する。だが、Facebookのアルゴリズムの変更とは異なり、Appleの策略でパブリッシャーの主要な収益源が絶たれることはない。ネットマーケットシェア(NetMarketShare)の調査によると、Safariのトラフィックが全体に占める割合は、PCで若干4%、モバイルで29%となっており、その影響は小さい。

「いつものことだが、こういうことがあると業界ではまるでこの世の終わりかのように騒ぎになる」と、独立系アドテクコンサルタントのブラッド・ホルセンバーグ氏。同氏はGoogleのChromeブラウザが音声つきの自動再生広告をブロックすることでインタースティシャル広告に制限をかけた件についても同じだと語る。「この世の終わりにせよ何にせよ、業界自体がよりユーザーフレンドリーなものに進化していく必要がある。インターネット上のユーザーを握っている企業はほんの数社だ。これ(GoogleとAppleの決定)でわかるように、変化はいきなり訪れるものだ。しかもその影響は多岐にわたる」。

Ross Benes(原文 / 訳:SI Japan)