FT、新規獲得を狙って マーケティング支出を3割近く増加:プログラマティックで波状攻撃

イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times:以下、FT)は、収益の増加を狙ってマーケティングへの支出を増やしている。

日本経済新聞社が所有するFTは、1カ月前からふたつの異なるマーケティングキャンペーンを開始。ひとつは、デジタル版に加えて土曜の印刷版を購読できる新しい週末購読プラン。もうひとつは、デジタルエージェンシーのエッセンス(Essence)と共同で展開している「ブラック・アンド・ホワイト(Black and White)」キャンペーンだ。

さらに、FTは「Facts. Truths.(事実。真実。)」と名付けたキャンペーンも追加で実施。そのうえ、読者にフォーカスした第4のキャンペーンを英国の複数の放送局と提携して展開し、放送とデジタルの両方で世界的な取り組みを拡大している。

マーケティング支出が30%も増加

これらをすべて合わせると、FTのマーケティング支出は、個人向けキャンペーンが前年比28%の増加、B2Bキャンペーンが前年比30%の増加となり、この数年でもっとも多くなっている(ただし、具体的な金額は明らかにしていない)。

FTが支出を増やしているのは、収益を伸ばせる絶好のチャンスがあるからだ。ワシントン・ポスト(The Washington Post)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)といった米国のパブリッシャーは、「トランプの時代」がはじまってから購読者を増やしてきた。

英国では、この3月末にEUからの脱退を定める基本条約第50条を発動させるための公式書簡にテリーザ・メイ首相が署名したことで、EU離脱(ブレグジット)の動きをキッカケとする新聞購読者の増加が、新たな盛り上がりをみせている。

ジャーナリズムと同調しながら

ただしFTには、自社のジャーナリズムこそが購読者の増加をもたらすという自覚もある。そこで、ジャーナリズムを前面に出すことで販売を促進すべきだと考え、見込み購読者に絞ったプログラマティックターゲティングを実施しているのだ。

「いま我々が行っているマーケティングは、自社のジャーナリズムに歩調を合わせることをめざしている」と、FTでコミュニケーションおよびマーケティングの最高責任者を務めるダーシー・ケラー氏は語る。「投資を拡大している理由のひとつは、重要なニュースの周辺にチャンスあると見込んでいるからだ」。

ケラー氏は、重要なニュースがある時期に読者から購読契約を獲得しやすいことを認識している。昨年、英国市民がEU離脱の賛否を問う投票を実施した週には、デジタル版購読契約の売上が通常の週末と比較して600%も増加したほどだ。

現時点で、印刷版とデジタル版を合わせた購読者は85万人を超え、デジタル版購読者は前年比で14%の増加となっている。売上の60%を購読料から得ているFTにとって、購読者は間違いなく重要な存在なのだ。

見込み読者を追う波状攻撃

FTがはじめた最新のブランドキャンペーンでは、トランプ大統領やブレグジットのような時代を象徴する記事を取り上げている。ただし、ここでのクリエイティブ資産は、波状攻撃の第1弾にすぎない。これを皮切りに、見込み購読者をWebのあちこちで追いかける。

たとえば、ある人が本記事TOP画像のようなクリエイティブを見ると、マーケティングチームはプログラマティックでその人をターゲットに定め、複数のプラットフォームでFTのコンテンツを表示する。また、上記プログラマティック広告を見た人が、別のサイトやFacebookに移動すると、その人にテクノロジー関連のニュースをおすすめ記事として表示する。さらに、その人がFTのサイトに戻ってきたり、記事を読んだりしたら、FTにとって重要さを増しているツールであるニュースレターの購読を提案することになる。

このキャンペーンのクリエイティブを見た読者は、Webを利用しているときにFTのコンテンツを平均5~6点ほど目にする。「複数のプラットフォームでユーザーにリーチできるなら、エンゲージメントは飛躍的に向上する」と、ケラー氏は語る。

「生活習慣になる必要がある」

FTのこうしたターゲティングは、繰り返し見せることが重要だという長年の信念に基づくものだ。デジタル版の購読料は年間338ドル(約3万7500円)からで、読者にそれほどの金額を払おうと思ってもらうためには、何度も見せることが必要になる。実際、2007年から続けていたメーター制課金をやめた大きな理由がこれだった。

FTはその代わりに、最初の1カ月はわずか1ドルで無制限にアクセスできる方式に切り替えている。「安いとはいえない金額を支払うよう頼むつもりなら、日々の生活習慣になる必要がある」と、ケラー氏は語った。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)