FT が刷新する「データ可視化」へのアプローチ:グラフはページを飾る手段ではない

英経済紙「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times:FT。2015年7月日本経済新聞社が買収)」は、自社で作成するグラフに本腰を入れはじめた。

FTは2015年9月、データ可視化担当エディターという役職を新設。着任したのは、英国家統計局で働いていたアラン・スミス氏で、それまでニュース編集室で働いたことはない人物だ。スミス氏を迎えたことで、ニュース編集室に求められるスキルも変化することになった。

スミス氏は米DIGIDAYのインタビューで、FTにおけるグラフの役割について、確固とした信念をいくつか語った。一例を挙げるなら、グラフはテキストだけのページを飾る手段ではないというものだ。

「たいていの場合、グラフは最初の数段落に掲載すべきだ。そこで基本情報を説明しておけば、対応する文章をさらに分析的にできる」とスミス氏は語る。「これらのグラフィックは、記事の一部の理解を促す助けとして活用できる。さらに、記事とグラフの内容が重複しないようにしたい。いずれはグラフを、焦点をより絞り込んだものにして、その数を減らすつもりだ」。

スミス氏の入社から10カ月。今回は、FTがデータ可視化へのアプローチをどのように変えているのかを紹介しよう。

ツールとワークフローを変更

FTのグラフィックチームはそれまで、プラットフォームに合わせて編成されていた。印刷グラフィック、オンライングラフィック、インタラクティブグラフィックごとにチームがあるという具合だ。スミス氏の入社時は、広義のグラフィックチームに14人が在籍していたが、同氏はそれ以降、ひとりも採用していない。その代わり、地図製作者、編集に携わる統計専門家、インタラクティブデータジャーナリスト、イラストレーター、印刷とオンラインのグラフィックデザイナーらを集約して、中核チームを作ったのだ。

「プラットフォーム別に複数のチームを編成すると、ほぼ確実に、同じような業務がそれぞれに発生する」とスミス氏は話す。だが実際は、プラットフォーム横断でリソースを活用できる場合も多い。「『このグラフは印刷には向かないから、オンラインで公開しよう』といったケースがある。違いは、そのデザインにどうアプローチするかだ」。

チームは、新たに「D3」と呼ばれるツールを使って効率化も図っている。D3はオープンソースの可視化ライブラリで、これを使うと、さまざまなバージョンのグラフィックを一度に作成できる。D3によるグラフィックは、印刷やオンライン、ソーシャルメディアでの利用も容易だ。

たとえば、米国における1971年以降の世帯収入の変化を示す目的で、チームはオンライン記事で使うGIFアニメのグラフを作成した。FTは2本の記事を公開したが、このグラフを付けた「米国にみる中産階級の没落:中核層が世帯の半数に縮小」のページビューは、グラフなしの記事の2倍にのぼった。さらにスミス氏によると、このグラフのツイートは、FTでは2015年でもっとも反響が大きかったという。GIFを作成するのに数日かかったが、コードを1行追加するだけで、簡単に印刷用とソーシャルメディア用に転用できた。紙面向けに一から作り直す必要はなかったのだ。

米国における世帯収入の変化を示すグラフ(紙面)

ソーシャル用のグラフィックを作成

FTによるソーシャルメディア活用の目的は、新しい読者を引きつけて、さらに深い分析に誘導するための入口にすることだ。グラフィックが自己完結型であれば、ソーシャルでもうまく機能する。

日本の高齢化に関する比較的目立たない記事は、必ずしも広範な関心を呼ぶものではないため、FTは最初からソーシャルメディア専用のグラフ動画を作成して、より興味深いいくつかのデータを強調した。「日本は急速に高齢化する人口学的時限爆弾を抱えており、これは特に厳しい移民政策を取っているとどうなるかを示している」とスミス氏は述べる。「この動画だけで、はるかに広範な関心を呼ぶストーリーになっている」。

FTは2016年になるまで、Facebook上の動画再生50万回を一度も達成していなかった。しかし2016年5月には、Facebook専用に作成した2本のデータ可視化動画が累積80万回を超えた(オンライン動画の調査・分析会社であるチューブラー・ラボ[Tubular Labs]によると、FTの動画全体の平均は2万5000回)。2本のうちの1つはかなり作り込まれた動画で、日本が新たな大地震に襲われたらどうなるかを解説しており、FT上のさらに詳しい分析記事にリンクしている。もう1本は、作成に数時間しかかかっていないFacebook専用の動画で、ブラジルを4つのグラフで紹介している。スミス氏によると、Facebookを利用する多くのブラジル人が視聴したことが成功の理由で、2016年のリオ・オリンピックに合わせた話題性も追い風になったという。

ブラジルの動画は、新たにリリースしたFacebook向けシリーズ「The Day in Four Charts」のひとつだ。グラフィックスチームはこのシリーズで、特に重要な4つのストーリーをグラフで紹介している。スミス氏とグラフィックスチームが気づいたのは、このシリーズで、ブラジル動画のようなストーリーアーク(章仕立ての構成)の動画が、特に大量の再生回数を稼ぐということだ。これに対して、4つのランダムなグラフで構成する動画は再生回数が比較的少なかった。

「チャート・ドクター」の開始

FTデジタル版購読者の70%は企業アカウントであり、FTはビジネス層の読者向けに、スピーチのヒントやセールストークの上達法などいくつかのツールを提供している。スミス氏は5月から、FTがどのようにグラフィックにアプローチしたかを、毎月のコラム「チャート・ドクター(The Chart Doctor)」で読者と共有することにした。

第1回の記事では、「グラフはすべて、5秒で理解されるように作るべきだ」という神話を打破することを目指し、若手医師のストライキと政府の姿勢を説明する詳細なグラフを作成した。第2回の記事は近日公開予定で、FTが読みにくいグラフをはるかにわかりすく改良した方法を紹介する。

「こうした記事は、我々が何をやっているかを読者に紹介するだけでなく、我々がやっていることを社内でアピールすることにもなる」とスミス氏は話した。

「若手医師の契約:現行 vs 政府の立場 vs 英国医師会(BMA)の提案」と題されたグラフ。すべてのグラフが5秒で理解できるわけではない。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)