メディア向け新技術でファンと繋がる、バイアコムのやり方:よりリッチなUXを求めて

ピクチャ・イン・ピクチャ:事前に編成された音楽ビデオと、音楽に合わせて踊る視聴者のライブストリームを統合。

米国と英国、オーストラリアで働く米メディア複合企業バイアコム(Viacom)の従業員らは7月14日、ある実験のために集まった。彼らの目的は、オーストラリアのMTVで放送する1時間の音楽ビデオ集に、音楽に合わせて踊る人々を次々に切り替えて映すライブストリームを埋め込むこと。これをすべて、テレビ画面で実現させるというのだ。

この実験には、世界3カ所のオフィスで働くバイアコムの従業員30人の参加が必要だった。たとえば英国の調整室では、50本のライブストリームをモニターして、音楽ビデオと一緒に映すのにふさわしい動画を選ぶ作業が続けられた。真夜中にオーストラリアでオンエアされたこの実験は、明らかに一発勝負だったが、MTVの親会社であるバイアコムにとって意義深いものとなった。

Webとテレビをライブで統合

「視聴者が目にしたのは初歩的なものであり、テレビのエレガントな1時間ではなかった」と語るのは、バイアコムのエグゼクティブバイスプレジデントとしてマーケティング戦略とエンゲージメントを担当するロス・マーティン氏。「何がエキサイティングかと言えば、まずは、放送に至るまでの舞台裏の作業。そして、ストーリーを伝える新手法を開拓するために、世界に散らばったオフィスの間で協力して実施することだ」。

マーティン氏は、特定の名称やプロジェクトに触れずに、バイアコムグループ内の4つのネットワークが現在、Webのライブ動画を組み込んだ新しい番組フォーマットを開発中だと述べた。同グループのネットワークには、MTV、ニコロデオン(Nickelodeon)、コメディ・セントラル(Comedy Central)といった歴史ある若者向けネットワークも含まれる。ライブ動画の活用は、同社が注力する主要分野であり、一定の集約化が求められる分野でもある。

その役割を担うのはバイアコム・ラボ(Viacom Lab)だ。この小さなチームは、マンハッタンのミッドタウンにあるバイアコム本社のエンジニアとデザインの専門家を合わせた5人で構成されており、今回の音楽ビデオ実験の陣頭指揮を執った。実験はスムーズに行われ、マーティン氏は手応えを感じて満足した。それは、将来バイアコムが、Webのライブ動画とテレビを利用して「違うこと」ができるという確信だ。

協働スペースを目指す

「世界の誰もが、スマートフォンやコンピュータ、それにタブレットから、ライブストリーミングを四六時中行っている」とマーティン氏は語る。「我々がこれまで模索してきたのは、ソーシャルなWebに存在するそうした行動を解き放ち、直線的に番組編成されるテレビへと持ち込む方法だ」。

もちろん、設置されて2カ月のバイアコム・ラボが関心を抱いているのは、Webとテレビをライブで統合することだけではない。バイアコムが年内に3倍の規模にする予定の同チームは、バイアコムのメディアブランド各社の従業員が参加して、それぞれのプロジェクトを開発できる協働スペースになることを目指している。

「(バイアコムのメディアブランドのほうが)主導権を握って、ラボが作業を補助する分野がある。逆に、ブランドには探求する余裕がないため、ラボが主導権を握る分野もある」とマーティン氏は語る。

「原則はファン最優先だ」

バイアコム・ラボは、外部のクリエイターも招いている。現在は、英国の神経科学者ビュー・ロット氏や、アニメーション技術を手がける新興企業フリッカーラボ(FlickerLab)の共同創設者たちなど、3人の駐在クリエイターがいる。

ロット氏は、「トレイシズ(Traces)」という拡張現実(AR)プラットフォームを開発中だ。これを利用すると、世界のあらゆる場所に、動画や音声や写真を満載した「仮想バブル」を残すことができる。いっぽうフリッカーラボは、ファンがアニメーションをすぐに作成してソーシャルメディアに投稿できるようにする技術に取り組んでいる。バイアコムは、どうすればフリッカーラボを利用してファン生成コンテンツをテレビに取り込めるかに注目している、とマーティン氏は説明する。

バイアコム・ラボの他の提携先には、GIFアニメの検索サイトを運営するジフィー(Giphy)とシティア(Citia)も含まれる。ジフィーとの提携は、GIFアニメを作成してバイアコムの番組から配信するためだ。

シティアはモバイルパブリッシングプラットフォームで、これによりパブリッシャーは、動画や写真、テキストコンテンツを扱うスワイプ可能なカードを作成して、オウンドプラットフォームやソーシャルプラットフォームに投稿できる。これらすべてを合わせると、バイアコム・ラボは25を超えるプロジェクトを手がけている。

「原則はファン最優先だ。そうでないなら実行しない」とマーティン氏は語る。

ビジネスチャンスを探る目的も

とはいえ、バイアコム・ラボで進行しているすべての実験には、バイアコムが、映画やテレビ、デジタルメディアの先にある新たなビジネスチャンスを探る目的もあった。

一例を挙げよう。ともにバイアコム傘下の米映画会社パラマウント・ピクチャーズ(Paramount Pictures)とケーブルチャンネル「ニコロデオン(Nickelodeon)」が制作した映画『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』の公開に先立ち、バイアコムは「タートルの隠れ家(Turtle Lair)」のレプリカを作った。このアイデアは、パラマウントとニコロデオンから生まれたものだ。

両社はバイアコム・ラボのチームと協力して、30日でこのセットを設計して組み立てた。ニューヨーク市に作られた隠れ家は、民泊マッチングサイトのAirbnb(エアビーアンドビー)に5月14日から6月3日まで登録され、ものの数分で予約が埋まった。

Airbnbに登録された「ミュータント・ニンジャ・タートルズの隠れ家」(360度動画)

「最高のネイティブ・アドだ」とマーティン氏は自賛する。「我社にとって、ファンを最優先しながら会社の収益を伸ばせる将来のビジネスモデルは何だろうか? これは真のビジネスチャンスだ」。

常に欠かせないビジネス視点

すべてのプロジェクトは、バイアコムが所有するメディアブランド向けか、独立した事業向けかにかかわらず、スタート時からビジネスの視点が向けられる。

マーティン氏によると、第1回のアイデア会議には、バイアコム・ラボの事業計画および戦略担当バイスプレジデントが出席するという。ただしこれは、事業性よりも面白さが勝るようなアイデアが、育つ機会を与えられずに却下されるという意味ではない。

「宇宙にロケットを打ち上げるとしたら、最初にいくつかテストして、実際にうまくいくことを確認したいはずだ」と、マーティン氏は最後に語った。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)