いまやメディアそのものを飲み込みはじめた巨人・Facebook :唯一無二のグローバル拡散インフラ

情報消費からソーシャルメディアが欠かせなくなっている。

グローバルな情報拡散のインフラとなったFacebookが、デジタルメディアに持続可能な収益源を提供するようになるのか。Facebookが繰り広げるGoogleやAppleとの激しい競争が、世界的な情報拡散をいかに変え、デジタルマーケティングへどのような影響をあたえるのか。2016年は無数の分かれ道から、そのひとつが選び出される年になりそうだ。

そのひとつのいい例が、BuzzFeedのFacebook動画ブランド「Top Knot(トップノット)」だろう。Webページではなく、FacebookページとFacebook動画から情報を拡散する。BuzzFeedの媒体だと知れる要素はほとんどない。分散型とは少し異なる「Facebook一点張り」のメディアだ。

「Top Knot」のテーマは、女性のヘアアレンジに的を絞っている。メディア名の意味は、若者の間で流行する「お団子ヘア」を指し、制約は「頭のてっぺん(Top)をまとめる(Knot)」という点だけ。日々さまざまな方法が編み出される、若者の流行だ。

「Top Knot」は2015年10月初旬にローンチされたばかりだが、11月にはFacebookページのページビュー(PV)数で上位にランクイン。「いいね」数120万超、通算2億ページビューを叩きだした。再生回数100万回を超える動画が多くあり、上記の「5人の女性に変身する1人の男性(1 Man Transforms Into 5 Women)」は1200万回超の再生回数に獲得している(参考:ウォールストリートジャーナル)。

たった数カ月で成功するFBメディア

「Top Knot」に先立って、2015年夏にBuzzFeedは、レシピ動画ブランド「Tasty」をリリースしていた。こちらも類を見ないほど成功した「Facebookメディア」になった。2015年10月時点でFacebookページの「いいね」数は1800万超、ページビューは累計12億だ。Facebookページビュー数で姉妹メディアの「BuzzFeed Food」と「BuzzFeed Video」も3位、4位とその背中を追いかけるが、両者のビュー数を足しても「Tasty」のそれには届かない。(参考:ビジネスインサイダー

20〜60代まで万遍ない利用者層を持つ日本最大のレシピサイト「クックパッド」レシピ動画(下動画)と比較すると、「Tasty」は若者に焦点を絞って制作されていることがわかる。

なにしろ「Tasty」はスマートフォン最適化を徹底。そのままタテ方向で視聴しやすい正方形に近い形だ。それに対して「クックパッド」は、これまでの標準にならって「16:9」の規格を採用している。

「クックパッド」が採用する旧来の規格だと、スマホで見やすく視聴するには、全画面表示させた後に、スマホをヨコに倒さなくてはいけない。このたった2行程の追加すら敬遠されかねないのが、スマホ時代だ。

ちなみに「Tasty」と「TopKnot」の共通点は、早送りで数十秒から最長でも3分ほどでハウツーを伝えることだ。主要オーディエンスであるミレニアル世代(16−35歳)、ジェネレーションZ(15歳−)は短尺動画を好む。

動画共有アプリ「Vine」のビデオはわずか6秒。動画をパッと観て、すぐさまほかのコンテンツに飛び移るという動きを彼らは繰り返しているのだ。

FBへの過重投資ではないのか?

ここで、なぜBuzzFeedはそこまでFacebookに入れ込むのか、という疑問が持ち上がる。

分散型メディア(Distributed Media)の戦略としては、プラットフォーム側が提示する条件が難しくなく、それぞれの配信が干渉し合わない限り、より多くのプラットフォームに自社コンテンツを流通させるほうがいい(分散型メディアに関しては、スマートニュース執行役員の藤村厚夫氏のブログに詳しい)。

逆に、ひとつのプラットフォームとだけ取引することは、メディア側の交渉力を弱くする。メディアはテクノロジーとプラットフォームとの折衝に精通した人物がのどから手が出るほど欲しいのが現状だ。このため、「Top Knot」や「Tasty」などの「Facebook一点張り」は極めてリスキーに思える。

「メディアに利益を分配する」

これに対して、「ビジネスインサイダー」が主催したカンファレンスで、同誌記者からこの点を質問されたBuzzFeed CEOのジョナ・ペレッティ氏はこう語っている(記事1記事2)。

「理由のひとつとして、Facebookがグローバルで、BuzzFeedもグローバルなことだ。そこで、グローバルのオーディエンスを楽しませるビジュアルコンテンツを製作できる機会があるとわかっている」

 

「約3年前に我々が理解したことのひとつはフードとライフスタイルの情報は、人々が本当に好きでシェアしたがることだ。(中略)われわれは定期的に実験を繰り返す多数のジェネラリストを抱えている。(中略)チームのなかにはFacebook動画に夢中になっている人たちがいる」

記者からFacebookがパブリッシャーに明確な収益方法を提示しないことや、リーチを稼ぐために資金をつぎ込まなくてはいけないことを指摘されると、ペレッティ氏はこう答えた。

「Facebookは1年前まで動画機能を持っていなかった。いまや数百億の視聴をBuzzFeedや広告主に提供している」

 

「プラットフォームの戦略がメディアの戦略とマッチしていないとき、何かが起きると思う。プラットフォームはときに『メディアたちがコンテンツを作ってほしくない。セレブのような個人が作ればいい』と言う。(中略)しかし、Facebookに関しては、ニュースフィードは、我々が製作するニュース、情報、動画、画像、テキストを人々が消費する方法として、とても支配的になっている。もしコンテンツ製作費が高騰すれば、この種のコンテンツを生み出す唯一の方法は、人々に(コンテンツ製作という)ビジネスを確立させることを認めることだ」

唯一無二のグローバル拡散インフラ

実際、FacebookはBuzzFeedに対して、世界規模のバズ供給のインフラを提供している。ソーシャルメディアのおかげで、世界は確実に小さくなっており、情報拡散メカニズムの新しいグローバル化と言える。

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上図はBuzzFeedのデータブログから引用した。「犬の飼い主によくある31の特別な感情(31 Special Feelings That Every Dog Owner Is Familiar With)」という投稿が、いかに時間差で世界に拡散していくかを同社データサイエンティストのアニタ・ムロートラ氏が分析したものだ。

「犬の飼い主に〜」は最初、2015年2月初旬にニューヨークで掲載。同じ英語圏の英国、シンガポール、豪州、インドには2日以内に到達し、バズが起きた。ほぼ同じタイミングでフランス語に翻訳されたが、フランスでは不調。しかし、2月下旬ポルトガル語、スペイン語に翻訳され、欧州の両国だけでなく、好調なブラジルを含む南米で拡散した。記事のリーチは北米、南米、欧州、豪州、東南アジア、インドという広さだ。

とはいえ、メディアにとって必ずしも恩恵だけがあるわけではない。トラフィック面でFacebook依存が深まると、自社サイトの管理力を失うことになる。さらに、Facebookがネット広告事業を着々と育てる一方、メディアは紙を失い、デジタルでもがくことになり、収益性はもろいままだ。

デバイスを持たないのが弱み

若年層を中心に情報消費の主体はモバイルに集中し始めている。新興国、途上国で「爆発」が起きており、2020年には世界人口の8割(約50億人)がスマートフォンを保有するとの予測がある。新興国では幅広い年齢層がデスクトップを経由せずモバイルではじめてインターネットに出会うのだ。

ここへの一手が、ニュースプラットフォーム「Instant Articles(IA)」だ。IAはモバイルに注力した、「通常のモバイルWebの十倍速く記事を読める」サービス。Facebook内にメディアの配信インフラを整え、それを提供する代わりに広告料を折半する。つまり、Facebookはコンテンツ消費と媒体の広告ビジネスを自社プラットフォーム内に囲い込もうと目論んでいるわけだ。

IAは2015年12月までに北米のほか、中韓台香、インド、東南アジア、オセアニアでサービスが活用されている。このアジア太平洋地域は人口30億人超、世界経済で最も伸びている地域だ。Facebookは同様のモバイル向けニュースプラットフォームを展開しようとするGoogle、Appleにリードしているかに見える。

しかし、Facebookは情報取得の下流であるデバイス、スマホのOSを握っていない。世界のスマホの約8割はアンドロイド、残りのほとんどはiOSだ。Google、Appleがこの部分を握りしめている。

IDC: Smartphone OS Market Share 2015, 2014, 2013, and 2012 Chart

Facebookはこの部分に神経をとがらしてきた。「ジ・インフォーメーション(The Information)」によると、Facebookは水面下で、Googleがアンドロイドのアプリストアである「プレイストア」からFacebookアプリを排除する可能性に備えてきた。排除されれば、ユーザーはアップデートが難しくなる。

Facebookは秘密裏にエラーを起こし、数時間の間アプリに「人工的な故障」をもたらすようにして、アンドロイドユーザーの忍耐力をテストしていた。数年前に行われたテストの目的は、Facebookアプリを消去する限界点を確認することだった。Facebookは限界点を越えなかった。「人々はFacebookを訪れ続ける」とその情報筋は話した。

GoogleはFacebookがプレイストアのルールを侵したため、アプリを排除すると圧力をかけ、Facebookがアプリに関する注文を即座に飲んだ経緯があった。ただ、Facebookが新しいアプリをアンドロイド環境でテストする際には、Googleは特別に支援したこともあるという。

同記事によると、Facebookの上層部はGoogleプレイからアプリが取り除かれないように努力を尽くしてきたが、抜け穴を見つけたことで小康を得ている。プレイストアの外で手動でアプリをアップデートする方法を発見したのだ。最近はFacebookアプリ内でGoogle Mapsではない、ほかの地図サービスを利用するようにする方法を模索している。

実機へのプリセットに関してはいまのところ盤石だ。スマホ世界1位サムスンのほか、スマホ世界3、4位のファーウェイ、シャオミもプリセットしている。プリセットにはGoogleは干渉できない。

Google、Appleに猛追の余地

これらからGoogleとAppleにはFacebookのコンテンツ流通網にプレッシャーをかけられる余地がある。Googleはアンドロイドをもち、「ネクサス」でデバイスの生産に踏み込んでいる。Appleはスマホ、タブレットの強力なデバイスとiOSを握り、マーケティング的に価値の高い層をつかんでいる。

2016年はGoogleの「Accelerated Mobile Pages(AMP)」とAppleの「News」がIAに対抗し、三つ巴になる年だろうか。

2015年のメディアプラットフォームをめぐる動き

5月 Facebook「Instant Articles(IA)」をリリース

9月 Apple「News」をリリース

10月 Google「AMP」の2016年ローンチを発表

12月 IA、インド、中韓台香、東南アジア、オセアニアにサービス拡大

Written by 吉田拓史
Image form Andrew Feinberg / Flickr