Facebook帝国時代:巨人の一挙一動に翻弄されるパブリッシャーたち

2016年4月初旬、バイラルサイト「リトル・シングス(LittleThings)」は、ニューヨーク出身の16歳の歌手リリー・グリーンのパフォーマンスをライブ配信していた。同社の最高経営責任者(CEO)を務めるジョー・スペイサー氏は、6000近い人々がすでにアクセスしつつあると満足気に述べる。この16分間の動画は、ライブが終了したあとでも同日中に、3万6000回ほど視聴されているはずだ。「オーディエンスは、このようなコンテンツを渇望している」と、同氏は語る。

だが、「リトル・シングス」は、そこから得られる恩恵をすべて手にできるわけではない。同サイトにおけるすべての動画をあわせて、月間3億回という動画視聴回数を誇っていても、その3分の2はFacebook配信によるものだからだ。今回の動画は、現在Facebookがもっとも力を入れている「Facebook Live」で公開された。だが、同社が手掛ける、ほかの多くの取り組みと同様に、Facebookの関与がどういうものになるのか、長期的にそれがパブリッシャーにとってプラスに働くのかなどを知るすべはない。それでも、パブリッシャーは、この流行に参加せざるを得ないように感じている。

これが、プラットフォーム時代といえる現代に、パブリッシャーが直面している現実だ。そして、プラットフォームの頂点に立つFacebookは、パブリッシング事業にますます入れ込んでいる。4月に開催された年次開発者会議「F8」で、Facebookはメッセンジャーアプリ向けのボットプラットフォームをリリースし、パブリッシャーなどの企業がユーザーとやりとりできるようにした。そのほか、読み込みが高速なモバイル向け「インスタント記事(Instant Articles)」を全パブリッシャーに開放するだけでなく、Facebookプラットフォームでライブ動画を配信する一部のパブリッシャーには制作資金を提供することまで行っている。

ユーザーの滞在時間を伸ばし、再訪率を高めるために、Facebookはパブリッシャーのコンテンツを必要としている。そして、一方のパブリッシャーは、こうした依存度の高まりを利用できる方法を見つけ出そうと躍起だ。企業構造を変えても、それを成し遂げたいと思っている。

「リトル・シングス」は、快適なライフスタイルを提案する情報サイトだが、完全にFacebook頼みの状態にある。同サイトは現在、動画分野へ注力しており、そのために10人の従業員を雇用した。今後、さらに5人を補充して、従業員を計85人にする計画を立てている。スペイサー氏は、バイラルメディアの「BuzzFeed」が「Facebook Live」で、バズを起こした実験動画を引き合いに出して、「我々はナショナル・ジオグラフィックではないが、だからといって、スイカを爆発させるようなことはしたくない」と、述べた。

先行投資に見合う収益はどこに

似たような例はほかにもたくさんある。ニュースメディアの「マッシャブル(Mashable)」は最近、動画を増やすという方針転換の一環として30人を解雇した。総合スポーツメディア「 ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)」は、Facebookやインスタグラムなどに配信するオリジナルコンテンツを制作するために、35人体制のソーシャルチームを組織しようとしている。CNNやVox Mediaなど、ほかのパブリッシャーは、自社プラットフォームでの配信を管理するために、専任チームを雇った。いまだボットチームに関する事例はないが、それも時間の問題だろう。だが、プラットフォームの夢を追いかけても、それで収益を生み出せるという保証はないばかりか、オリジナルコンテンツやほかの機会に対する先行投資が必要になる。

ここのところFacebookなどのプラットフォームが、以前よりも要望を聞いてくれるように思えるので、いまはパブリッシャーにとっては蜜月時代のように思えるかもしれない。Snapchat(スナップチャット)は、パブリッシャーが記事を配信するコンテンツセクション「ディスカバー」をブランドの目に触れやすくしてくれた。Facebookは、パブリッシャーがインスタント記事で広告を販売するチャネルを増やしてくれている。Appleは、ニュースアプリ「News」の宣伝に力を注いできた。

だが、それにもかかわらず、パブリッシャーはまだ、見返りが定かでないまま、プラットフォーム向けに多くのコンテンツを制作している。Facebookはいまだに、パブリッシャーが動画をマネタイズできるビジネスモデルを用意していない。

たしかに、インスタント記事として記事を公開することによって、パブリッシャーは読者に、簡潔で読み込みが速い体験を提供できるようになる。理論の上では、これによって読者が再訪問する可能性が高まる。だが、Facebookが広告の条件を管理しているうえに、パブリッシャーは、記事の閲覧時間や以前に訪問したサイトなど、そのプラットフォームを利用する読者に関する情報をほとんど得られない。

プラットフォームに従う以外ない

とはいえ、おそらくパブリッシャーに選択肢はほとんどないだろう。こうしたことすべてが起きている背景において、既存および新興のパブリッシャーは、デジタル広告の料金が低下しているというのに、コンテンツ制作資金の捻出方法をめぐって不安定な状況に置かれているからだ。パブリッシャーは当然ながら、eコマースサブスクリプション収益イベントによって広告への依存度を低くしようとしている。だが、それらを有効な収益源にすることに成功しているパブリッシャーは、ほとんどいない。パブリッシャーがプラットフォームに従う以外の選択肢が見い出せないのも、不思議ではない。

Vox Mediaでグローバルマーケティングを率いるジョナサン・ハント氏は、次のように語る。「自分たちにとってもっとも居心地のいい場でブランドにアクセスする人が増えている。我々からすれば、そういう場にいないということは、見てもらえないことを意味し、関心を持ってもらえなくなるリスクがある」。

結局のところ、パブリッシャーとは、単独では巨大プラットフォームに対する影響力をほとんどもたない企業の寄り合い所帯だ。パブリッシャーは不可欠な存在になるために投資できるが、Facebookがどういった投稿に見返りを与えるかを変更することに決めたら、いつでもそうした状況が変化しうる、という真の懸念がある。

変わり続ける状況に最善を尽くす

生活情報サイトを運営するアバウトドットコム(About.com)のCEOであるニール・ボーゲル氏が恐れているのは、そういった現実だ。同氏は次のように述べている。「完全に動きがとれない状態だ。ほかの者もそうであるはずだ。なにしろ、オーディエンスとの間に、これらすべてのプラットフォームが存在するのだから」。

アバウトドットコムは弱い立場にある。トラフィックの3分の2は検索に由来する。同社のCEOを務める3年間に、ボーゲル氏は、GoogleやFacebookのせいでトラフィックが失われるのを目にしてきた。同氏にできるのは、その理由を憶測することだけだ。「エンゲージメントが変動しても、彼らがアルゴリズムを変えたこと以外、理由がわからない。理由を見つけ出して投資しても、状況が変化する恐れがある」。

だが、ほかのパブリッシャーと同様に、ボーゲル氏には、プラットフォームの要求に対応し、変化が生じる場合があれば、それに備えるよう最善を尽くす以外に選択肢はない。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)