ユーザーの「アテンション(注目)」をネット広告の通貨に:英経済誌「エコノミスト」の試み

英経済誌「エコノミスト(The Economist)」は、ユーザーの「アテンション(注目)」を「時間」で評価する広告を販売する方針を固めた。従来のインプレッション(表示)とは別の指標を打ち立てようという試みだ。

有料購読と広告販売を組み合わせたビジネスモデルを運用している「エコノミスト」。その広告部門では、グローバル展開しているマーケターに対し、「CPH(Cost-Per-Hour)」広告をアプリとWebの双方で提供している。「CPH」は「読者が広告に注目を払った時間」に発生する費用の指標だ。

同社のデジタルプロダクト営業部グローバル統括部長を務めるアシュウィン・スリダー氏は米DIGIDAYの取材に対し、こう述べた。「ビューアビリティ(Viewability:可視性)はユーザーのアテンションを提供できない。広告の質を少し担保できるだけだ。メディアバイイングがたどる次のステップは『アテンション』を売り買いすることだ」。

「アクティブな5秒以上の閲覧」が請求対象

同社は「5秒以上アクティブな閲覧がされた」ディスプレイ広告のインプレッションに対してのみ広告料金を請求する。「アクティブな閲覧」の定義は、ユーザーがスクロールしたり、キーボードを叩いたり、マウスを使ったりすること。これらを測定するのは、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」のCPH測定も担う、効果測定企業のチャートビート(Chartbeat)と、Facebookのインビューインプレッション(In-View Impression:広告が画面上に現れたインプレッション)測定も手掛けるモート(Moat)だ。

スリダー氏はこう付け加えた。「画面上に現れる(インビュー)のが、5秒間以下のものはすべて『意味のあるアテンション』とはしない」。同社ディスプレイ広告をめぐっては、米インタラクティブ広告協議会(IAB)が提示する、広告ピクセルの半分が画面に現れた基準も満たすと語った。

この動きは、「FT」がタイムベースの広告販売を開始したことを追いかけるものだ。「FT」は2014年時点で、すでに時間ベースの運用方法を発表。エコノミストも歩調を合わせ、デジタル版の全画面型広告で、ユーザーの広告画面滞在時間を最大750時間まで広告主に保証する仕組みを開始。ユーザーごとの滞在時間を加算していく方式で、CPHのたたき台だった。

「FT」のタイムベース広告と差別化

「エコノミスト」と「FT」は、英教育・出版大手ピアソンが保有していた、経営者層を読者に持つプレミアム経済媒体だ。ピアソンは2015年、「FT」を日本経済新聞社に売却、「エコノミスト」の株式50%を伊エクソールなどに売却しているが、両社とも「アテンション取引」を目指す方針は変わっていない。

しかし「エコノミスト」は、自社CPH商品に「FT」とは異なる点を設けた。1回のインプレッションあたりの加算時間は、最大30秒という上限を設定。理由は、「エコノミスト」は速報ニュースに比べ、より深掘りの分析記事に特化しており、読者はより長い時間を費やす傾向があることだ。実際、1訪問あたりの平均滞在時間は7分29秒に及ぶ。週末に訪れたアプリ版の読者に限っては、45分20秒という驚異的な数値を叩き出している(「エコノミスト」調べ)。

スリダー氏はこう説明する。「広告主が1時間の『時間』を購入し、その号ではデータ没入型のインフォグラフィックが掲載され、読者は滞在時間のすべてをそのコンテンツに費やしたとする。その広告は、20分間もスクリーンに収まることになる(1人の読者で広告主が購入した時間の3分の1を使い切ってしまう)。ほかのユーザーへの露出時間を確保するため、『アテンション』を30秒に区切ることにした」。

ユーザーの注意は、ページ下部にある

ビューアビリティ基準の広告売買は、マーケターがメディアに投じた広告費に関する説明責任を求め始めた最近になり、主流になった。料金分の働きをしたいと考えるパブリッシャーならば、ビューアビリティ基準の広告取引を提供しようとするだろう。しかし、スリダー氏はビューアビリティはただのパズルの1ピースにすぎないと信じている。

ページ最上部にある広告は、概してもっとも「インビュー(画面に現れる)」のものと見なされる。そのため、「エコノミスト」のビューアビリティ保証キャンペーンは、すべての広告が最上部に現れるようにし、最適化に務めた。深い分析という編集面での特徴を生かし、もっとも読者をひきつけるコンテンツをページ下部に置くようにしている。こうすることによってCPHが効果的に働くはずだ。「ビューアビリティ、言い換えれば広告掲出の確実性は、ページ上部へ。ユーザーの注意は、ページ下部にある」とスリダー氏は話した。

「エコノミスト」は、時間ベース測定の価値を証明しようと、上位20広告主が実施したビューアビリティ基準のキャンペーンにおける、インプレッション1000回あたりの「アクティブ・ビュー・タイム(ユーザーが能動的に閲覧した時間)」を調査。高いビューアビリティ・レートが、必ずしも読者の高いアテンションに結びついていないことが、調査で判明した(下グラフ参照)。

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赤線=ビューアビリティ、青線=1000回表示におけるアクティブビュータイム(能動的な閲覧がされた時間)。ビューアビリティは広告主(Advertizer)ごとにばらつきがあり、ビューアビリティが高ければ、アクティブビュータイムも高いという相関性は見受けられない。たとえば、Advertizer11のケースでは100%のビューアビリティだが、アクティブビュータイムは65%未満にとどまる。(出典:The Economist Group)

「インプ積み増し」からの脱却策になるか

どんな媒体社も100%のビューアビリティ・レートを提供できない。そのためクライアントからの要望を受け入れるには、インプレッションの積み増しで対応する。これにより、媒体社はビューアビリティ保証のプレミアム料金を課すことができる、というのが最近の傾向だ。しかし、スリダー氏は「ビューアビリティだけに集中することは、広告主がユーザーのアテンションについて妥協することと同義だ」と語った。

「エコノミスト」はCPH導入に際して、大企業のスポンサーを確保。CPMで取引していた広告主も予算をすべてCPHに振り向けたという。

WPP系のメディアエージェンシーMECのシーナン・リード氏はこう評価する。「より多くのメディアがタイムベース測定へと移行するようになるだろう。読者の時間に関して適切な価値付けをすることができ、広告主がより効果的にキャンペーンを打てるようになる」。

デジタルエージェンシーTrueXのジョー・マークィスCEOは、ほかのパブリッシャーがタイムベース・バイイングに焦点を合わすのは歓迎すべきだが、最初の一歩に過ぎない、と語った。「パブリッシャーが、多くのインプレッションを稼ぐことしか考えない状況から、逃れられるようになる必要がある」。

Jessica Davies(原文 / 訳:吉田拓史)*[日本版]編集部で一部加筆した。
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