FBに頼らず高収益をあげる、とあるテックサイトの考え方:「デジタルトレンズ」のセオリー

テック系メディア「デジタルトレンズ(Digital Trends)」は、つい2カ月ほど前までには、それほど広く知られたサイトではなかった。だが、コンデナスト(Condé Nast)が1億2000万ドル(約125億円)で買収の交渉していると「re/code」が報じたことで、一躍注目の的となった(交渉は成立せず、どちらもコメントを出していない)。

アメリカのメディア業界の中心といえばニューヨークだが、「デジタルトレンズ」の拠点は、そこから遠く離れたオレゴン州ポートランドだ。今年で創立10周年を迎え、多くのパブリッシャーたちがビデオ戦略やFacebookの動向を巡って四苦八苦しているなか、そんな現象にとらわれることなく、堅実に黒字収益をあげてきた。

「デジタルトレンズ」はいまも成長している。現在では100人の従業員を抱え、コムスコア(comScore)によると、7月のユニーク訪問者数は1140万人になるという。これは前年比で、11%の増加だ(多くの小規模サイトがそうであるように、Googleアナリティクスのトラフィックは、これよりももっと大きな数字を見せており、過去30日間のユニーク訪問者数は2570万人となっている)。

利益率26~30%という実績

コムスコアによる数字では、「デジタルトレンズ」はテック系ニュースメディアの分野で10番手に位置する。その上位は、「パーチ・ネットワーク(Purch network)」「CNET」「バージ(The Verge)」「USAトゥデイ(USA Today)」「ヤフーテック(Yahoo Tech)」「ビジネスインサイダー(Business Insider)」による「テックインサイダー(Tech Insider)」あたりだ。

「デジタルトレンズ」は今年3000万ドル(30億円)の収益を予測しており、純利益は800〜900万ドル(約9億円)に達するという。2016年のパブリッシャー業界においては利益率26~30%というのは健全な数字である。

「利益を上げることは、常に我々が目指すことであった。戦略的でないといけないし、失敗するにしても素早く失敗するべきだ」と語るのは、マーケターでありダン・ガール氏とともに同サイトを立ち上げたイアン・ベル氏だ。ガール氏は元マイクロソフトのエンジニア。彼らが同サイトを立ち上げたのは、テクノロジーへの個人的な興味からだという。

なぜ成功できたのか?

Facebook上のトラフィックを追いかけ回すのではなく、「デジタルトレンズ」が追求したのは、Google活用の熟達と、自動車とガジェットのレビューページへ訪問者の3/4を流入させることだ。新製品の発売からユーザーが製品を使わなくなるまでのライフサイクルを網羅することで、これを達成している。

まず、新製品の発表についての紹介、そして実際に使用してみたレビュー、次に付属アクセサリーのオススメ紹介、さらには古くなった製品のリサイクル方法までを、順にレポート記事化していく。この戦略によって「デジタルトレンズ」は、ファンを作った。

1回の訪問あたりに読まれる平均ページビュー数は2から3.5。シミラーウェブ・データ(SimilarWeb data)によると、この数字は「CNET」、「バージ」、「Ziff Davis Tech(ジフデイビス・テック)」といった、テック系レビューサイトと比べても高い。

「私たちは、人々が製品についてリサーチしているときに繰り返すパターンを特定した。ほとんどの人は、ひとつの情報源から情報を得るのではなく、いくつものサイトを訪ねている。多岐にわたるオーディエンスの需要に応えることができれば、彼らとのタッチポイントは増え、サイトを何度も訪れる理由が増える」と、ベル氏は語る。

プラットフォームとの付き合い方

とはいえ、「デジタルトレンズ」がFacebookやビデオを完全に無視しているわけではない。小規模なビデオチームを抱えており、そこが週に40本のビデオを制作。サイトで掲載する記事数は1日に75本を越えることと比べると、その規模の小ささが分かる。しかし、予算が許す範囲で今後はビデオの数を増やしていくという。

彼らは、現在FacebookやReddit(通称・米国版2チャンネル:ユーザーがニュースや画像のリンクをスレッド投稿しあう)、そしてダイレクトのトラフィックを増やそうとしており、それによってGoogleへの依存度を減らそうと考えている。一方で、オーディエンスとのダイレクトなつながりが強いことを広告主に示したい。今年の新規クライアントには、デル(Dell)、シェビーボルト(Chevy Volt)、そしてホーム・デポ(Home Depot)などが名を連ねた。

編集長のジェレミー・キャプラン氏は「Facebookのトラフィックを成長させることに、私は意欲的だ。Googleだけでオーディエンスとつながるのは難しい」と述べた。努力の成果は現れてきている。「デジタルトレンズ」のトラフィックの15%が、ダイレクトにサイトへ来ているという。これは2年前の4%に比較すると、大きく向上している。

「デジタルトレンズ」はまた親近感のある文体を狙っており、ただ製品を紹介するだけではなく、製品の面白い特徴を楽しむ情報を届けている。彼らが最近制作したビデオは、NFLの年間ルーキーに選ばれたマーカス・ピーター選手が、同じくNFLのマーショーン・リンチ選手がサイドラインから野次を飛ばすなか、フィットネスウォッチを四苦八苦しながら試着するというものだ。こうしたユーモアを大事にしていることが分かる。「我々は誹謗や中傷ということにとても敏感だ」とベル氏。

弱点は広告への依存度

「デジタルトレンズ」に弱点は存在しないのだろうか。ひとつ指摘できるとしたら広告への依存度の高さだ。カスタム広告のセールスに集中してきた「デジタルトレンズ」だが、その販売利益の75%は、カスタム広告の要素を含んでいる。

対してeコマースによる収益は10%ほどだ。ほかサイトでは製品のレビューとサイト上での製品の購入ボタンがシームレスに実現されていることが多いが、「デジタルトレンズ」はその点、それほど収益を上げていなさそうだ。

「レビューサイトを運営している以上、『政教分離』を実現しなければいけない。我々の編集コンテンツを妥協しないといけないほど、収益において(eコマースは)重要ではない」とベル氏は語った。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)