米政権を皮肉る、辞書出版社のTwitter「中の人」の1日:「政治意図はない、我々はただの辞書」

2017年の現在、とある辞書がレジスタンスを率いている。

米大統領選を挟んだ数カ月、辞書や辞典を製作するメリアム−ウェブスター(Merriam-Webster)のTwitterアカウントが面白くなってきた。ドナルド・トランプ大統領と、その政権についてサブツイートしており、皮肉を込めて、冷たく硬い言葉で権力の真実を語っている。

たとえば、大統領側近のケリーアン・コンウェイ氏が使った言葉「alternative facts(オルタナティブファクト:代替的真実)」。その言葉が話題になると、次のようにツイートした。

虚しい*ささやき:現代的な利用法として、「fact(事実)」というのは、実際に存在するものを指すと理解されている。

しかし、このアカウントの背景にいる女性、コンテンツおよびソーシャルメディアマネジャーのローレン・ナチュラーレ氏は、自身がただ公然と政治的になっているわけではないと主張する。この新たな関心事は、奇妙だが同時に刺激的なものだ。だから、「このところ、私たちはとても興味深いことをたくさんしている。そして私たちは政治的ではないので、周りに集まった人たちが後々がっかりしないことを祈っている」と述べる。

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ローレン・ナチュラーレ氏

ナチュラーレ氏は、ただツイートしているだけではない。彼女は辞書サイトのコンテンツ管理も行っている。このサイトは年間500記事を発行しているが、すべて言葉にまつわるものだ。同サイトにはクイズや短めのポッドキャスト、そして「emoluments(エモルメント、報酬)」といったトレンド用語の解説記事などが用意されている。

しかし、同アカウントが注目されているのは、たまたまトレンドになる言葉(つまり検索ワードの上位にくる言葉)に敏感な点だ。大統領選挙前、同アカウントはトランプ氏の「braggadocious(大ぼら吹きの)」の使用法も誤りを指摘修正し、またヒラリー・クリントン氏の「demagogic(扇動的な)」の利用法にも対応するなど、どちらの候補者についても記述していたと、ナチュラーレ氏は語る。

政治的なツイート数が多く見えるかもしれないが、これは意図したことではない。ただ、このところ頻繁にニュースに登場するトランプ氏やコンウェイ氏などが使う言葉を、人々が調べる回数が増えているからだ。

しかし、このアカウントにメッセージ性がないと考えるのは難しい。このような内容のツイートは、特にそうである。

さくら、というのは拍手をするために雇われた人たちのこと。

しかし、ナチュラーレ氏はそこに隠された意図など何もないと言った。「私たちは、ただの辞書だ」。下記に彼女の日常的な1日を紹介する。読みやすさのために編集を加えてある。

◆ ◆ ◆

07:00 am 私にはベッドまでコーヒーを運んでくれる家人がいる。どのようにしてこんな幸運を得たのかは定かではない。私は質問をしない。カフェインを取りながらTwitterをチェック。夜のあいだに何かが起こっていないか確認し、昨夜の投稿がその後どうなったかを見る。

07:20 am チェルシー・マニング氏のニュースが流れた後「commute(減刑)」という言葉がトレンドとなっているので、毎日更新のコーナー「トレンドウォッチ(Trend Watch)」の一部にその件を投稿した。ここで使われる「commute」が「通勤する」と同じ単語なのかどうかわからないという人もいる。我々はこの記事でその疑問に答え、とにかくTwitter上の質問のひとつにも回答する。ここにまた、記事にリンクするチャンスがあるのだ。

07:30 am TwitterとFacebookで「今日の言葉(Word of the Day)」を投稿する。私たちは通常1日に2〜3回はこれを行う。最初の投稿は通常のシェア、そして1日が進むにつれて、それを描くGIFを探す。多くの人は「今日の言葉」を選んでいるのが私だと思っているが、当社には選出担当チームがある。私の仕事はそれに磨きをかけることだ。今日の言葉は「raiment(衣服)」だ。

07:45 am ビジネス用チャットのスラック(Slack)のチェックをできる限り後回しにする。ニュースを追う。私の個人的なTwitterでフォローする人々を追う。しかし、私自身がそこに何かを投稿することは、もうめったにないだろうと思う。

08:30 am やっとスラックをチェックする。当社ライターのひとり、アモン・シー氏の1日のスタートはおかしいほど早い。しばしば彼は「トレンドウォッチ」の記事を書き上げて、大方の人がデスクにつく前に準備万端整っている。今日はまだ目新しい検索トレンドはないが、「commute」は昨夜につづいてトレンドワードのままだ。ほかにもすでに記事に載せたロングランのトレンドワードもある。例を挙げれば「emolument」「fascism(ファシズム)」「culture(カルチャー)」だ。「sex」「love」「serendipity(セレンディピティ)」のように常に人気の高いワードもあるが、これらについてトレンドウォッチを書くことはない。これはトレンドではなく、基準値だ。

09:00 am 新しい「トレンドウォッチ」がないので、代わりに今日最初の記事「Deep-seated vs. Deep-seeded(深い座り心地vs深い種植え)」を発行する。本で覆われたアームチェアのストックフォトを画像として使う。これに関しては頭を悩ませることはない。

10:00 am オフィスに到着。ニューヨークチームは非常に小規模だ。チーフデジタルオフィサーおよびパブリッシャーのリサ・シュナイダー氏が運営するオフィスは結果重視型なので、我々のスケジュールにはいくらか柔軟性がある。通勤に1時間かかる私にとっては素晴らしいことだ。さらに遠くに住んでいる者や子どもがいる同僚もこれをありがたく思っている。私たちは文字通り、どこからでも働けるので、結局、昔ながらのオフィスにいるより、皆いい仕事ができると思う。

10:30 am コンテンツミーティング。2週に1度開かれるこのミーティングを私はとても楽しみにしている。いつも文字を介しているコンテンツライターと話ができる数少ない機会のひとつだからだ。当社のライターは全員が辞書編集者で、ほとんどがマサチューセッツ州のスプリングフィールドのオフィスで働いているが、折に触れてニューヨークに来てくれるし、逆も然りだ。約1時間かけてライターたちの記事内容を確認し、この週に起こりそうなことについて話し合う。記事戦略ミーティングでは、いつも何か学ぶことがある。今日は「hirsute(毛むくじゃら)」の語源が「horror(ホラー)」だと知った。チャンスがあればすぐ「酔っぱらいのための8単語」の日程を決めると約束しよう。

11:30 am ミーティングで決まった記事掲載予定をコンテンツカレンダーに加える。我々は記事の掲載予定を2週間先まで組むことが多い。Twitterを確認。イタリアのドラマ「ヤングポープ(Young Pope)」のGIFを「今日の言葉」に投稿する。これは「raiment」に都合がいいし、私は「ヤングポープ」のGIFを投稿する口実をずっと渇望していたからだ。

今日の言葉は「raiment(衣服)」

00:35 pm みんな「ヤングポープ」のGIFを気に入ってくれた。

01:00 pm 上司とともに2017年の制作目標ついて話し合い、Twitterをチェック。これはどれも口外できないのだが、素晴らしいものだ! 約束する。

02:00 pm 流行しているものや急上昇しているものがないようなので、ずっと在庫にあった「semantic bleaching(意味の漂白)」についての記事に手を加え、発行する。これは前週に出される予定だったが、「トレンドウォッチ」のためにとっておいた。編集を加える必要があったのだが、その時間がなかったのだ。そして、その編集作業ができた。これは大ヒットだ。

03:00 pm 私的ミーティングのため、ニューヨークのTwitterオフィスに行き、彼らが手掛けているものについて知識を深める。Twitterが自分のコーヒーショップを有している事実に嫉妬しないように努力する。

04:15 pm オフィスに戻り、オバマ氏の最後の記者会見で「sycophant(ごますり)」が検索ワードのトレンドになったことを知る。時間を節約するため、ライターふたりが共同で「トレンドウォッチ」を書くことにする。私はCMSに画像を入れ、1時間後に発行する。

05:00 pm Twitter、インスタグラム、Facebook。ひと晩中コンピュータの前で過ごさなくても良いように、夜遅くのSNS投稿を予約する。もうひとつ、楽しい言葉についての記事を発行し、帰路につく。

11:00 pm Twitterをチェック。念のため。

Shareen Pathak(原文 / 訳:Conyac
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