顧客体験の向上こそが、パブリッシャーの未来を切り拓く:欧米大手らによる議論の顛末

UX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉は10年以上まえから使われているが、近年はCX(カスタマーエクスペリエンス)という言葉も広く認知されるようになった。簡単に定義すれば、UXはソフトウェアやWebサイトなど、個別のプロダクトにおける体験を意味し、CXは顧客とのタッチポイントすべてを含むサービス全体の体験を示すという。

そんななか、CXの向上が業界でいま声高に叫ばれている。サブスクリプション型ビジネスモデルはメディアのCXに影響を与える一部だ。このモデルを積極的に導入し、成功事例となっているヨーロッパのパブリッシシャーといえば、フランスの日刊紙「リベラシオン」オランダのニュースサイト「デ・コレスポンデント(The Correspondent)」だろう。

9月29日と30日、バルセロナでパブリッシャーやマーケターを対象にしたイベント、Cxense Experience Europe 2016が開かれた。セッションにて、「ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)」のシニア・バイス・プレジデント、ジョン・オドナバン氏とノルウェイの大手メディアグループ企業、ポラリス・メディア(Polaris Media)のCFO、パー・オラフ・モンセス氏らがパブリッシャーの未来について語った。ユーザーのコンテンツ消費は成長し続けており、広告収入がベースになっている現在のマネタイズは、CXの向上によって変化すると議論。その内容を以下にまとめる。

広告収入vs. サブスクリプション

広告収入だけに頼ったメディア運用は今後変わる。パブリッシャーの収益モデルの基盤はいずれサブスクリプション型になるだろう。ノルウェイでは、サブスクリプションモデルが安定している。個人のデータを蓄積できることも大きな利点のひとつだ。現在、多くのパブリッシャーは広告収入がベースとなっているが、状況は変わるはず。サブスクリプションの真価は、日々のPVの安定性、カスタマーとの近い関係性、そしてそこから得るデータにある(ユーザー理解のため、データ蓄積は収益と同じくらい重要)。

大手プラットフォーム依存

FacebookとGoogleはフレネミー(友を装う敵)だ。この2大プラットフォームにだけ頼ってはいけない。どのパブリッシャーもFacebookのインスタント記事とGoogleのAMP(Accelerated Mobile Pages)をとりあえず使ってはみているが、ストラテジーがないままに使っていては意味がない。

Facebook 動画については、その規模感とオーディエンスサイズは非常に大きい。しかし、実際の広告収益はバランスに見合っていない。パブリッシャーはビジネスモデルを見つけるべきだ。プラットフォームと結婚するのではなく(メディアの成長を全面的に頼るのではなく)、データと結婚するべき(データを読み解いてプラットフォームを上手に活用すべき)。動画に対する戦略設計とその実践は誰にとっても難題だ。

プログラマティック依存の弊害

プログラマティックはたいてい、質の悪い広告枠がある場所という認識がある。こうした経緯から、アドブロックはパブリッシャーにとっては不可避の現象だ。それを解決するためには、メディアへの信頼感をユーザーにもってもらうことが大前提。そのうえでも、デジタル領域におけるCXのチャンスは大きい。もっとパーソナライズされた技術やサービスが求められている。また、パブリッシャー業界でもモバイルファーストがあたりまえになっていることは常識である。素早いロード時間はPVを生む。

チャットボット活用のメリット

複雑な質問を投げかけられるように改善し続けている。いずれ主要なUXソースになるだろう。チャットボットはユーザーに自由を与え、広告によりオーディエンスの目を向けさせ、複雑な質問にも対応できる。質問応答型のサービスは、Amazon EchoのようなQA形式でも普及していくだろう。

今後、消費者全員がテクノロジーを手にしたとき、パブリッシャーはどのように差別化すべきか?

同じ値段で同じような商品が売られているとしても、ある老舗ブランドの顧客体験がほかとは違う特別なものであることを消費者に理解されていれば、そこで差別化が出来る。それこそ、CXの向上が求められるようになるだろう。

Written by 中島未知代
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