「カメラマンはインフルエンサーに仕事を奪われている」:あるファッションカメラマンの告白

デジタルの興隆でファッション業界は変わり続けている。どの役回りも課題に直面しており、カメラマンも例外ではない。

かつてはカメラマンの生命線だった雑誌は、いまや落ち目。カメラマンに支払う予算がないことが多いため、ブランドも代わりにソーシャルメディアのインフルエンサーを活用し、ブランド製品を際限なく宣伝してもらっている。いまではカメラマン自身も、他業種と同じくオンライン環境での影響力を期待され、エージェンシーやクライアントたちが彼らを事前調査する際には、その才能だけでなくソーシャルのフォロワー数も確認することが多いという。

結果、カメラマンは自身のブランドを確立する必要ができた。しかし、その方面で成功をしても適切な報酬が保証されるというわけではない。

業界の裏側を赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、ファッションカメラマンのクリスティーナ・ウィルソン氏に話を聞いた。ウィルソン氏はこの業界で12年以上のキャリアがあり、これまでに『アリューア(Allure)』『ロフィシャル(L’Officiel)』『グラマー(Glamour)』『オープニング・セレモニー(Opening Ceremony)』といった雑誌で撮影の仕事をしてきた。

◆ ◆ ◆

――ファッションカメラマンがもっとも誤解されている点は?

いちばんよくある誤解は、華やかな仕事で、いつもパーティをやっており、いろいろな物をタダで貰い放題だというものだ。実際は、メールに電話、撮影の前準備、ムードボード作り、それにコンピューターを使った作業時間が9割で、カメラを構えるのは1割というところ。クリエイティブな部分は楽しいし、ペーパーワークも苦にはならないけれど、華やかというのは明らかに違う。スティーブン・クライン(米ファッションカメラマンの大御所。マドンナやガガとのコラボが有名)のような人は別だけど。

――仕事はどう変わった?

業界自体が変わった。1980年代から1990年代のはじめは、もっとお金があって華やかだったけれど、いまは予算が本当に厳しい。当時はロングアイランドで富裕層向け雑誌の撮影をすれば、とんでもない日給を貰えた。友人たちみんなにチームとして働いてもらうと、向こうがシェフを呼んでスープを材料の仕込みから作り、手作りのブレッドボウルに入れて振る舞ってくれた。いまやっているように、チートスを食べながらホームセンターから買ってきたもので安っぽいセットをこしらえるようなことはやっていなかった。

――ファッションカメラマンへの支払いはしっかりしている?

現在の業界で数千ドル、数万ドルの未収金がないカメラマンを私は知らない。私の場合は未収金の額が2万7000ドル(約300万円)に達している。朝、目を覚ますと未収金がある相手のリストをチェックするのが日課だ。表紙を含む4回の撮影の料金を払ってくれないクライアントに対しては、集団訴訟まで起こしている。それなのに、このパブリッシャーときたら、そのあいだも飛行機で飛び回ったり新車を購入したりして、いろんな写真をインスタグラムに投稿している。

――ここまでになったのはなぜだと思う?

どこまでなら許されるのかを試し、クリエイティブな仕事を評価しない会社が多い。楽しいパーティ三昧なんだから実際に金を貰う必要などないだろうと考えているのだろう。クライアントの9割は(支払いを保証する)契約書にサインすらしない。

多くの場合、クライアントの成果物を作るのにかかる費用は私が出している。最低でも制作には1000ドル(約10万円)必要なのに、クライアントが出す費用は200ドル(約2万円)ほどだ。もし、このシステムに従わなかったり不満を述べたりすると、ダメなやつだとか、デキないやつだとか思われる。タダ働きできるくらいうまくやっているかどうかを見られるのだ。

――プロのカメラマンの技術に対する評価は下がっている?

インスタグラムと、写真を撮れるスマートフォンの存在が、この業界を大きく変えた。影響力のあるソーシャルメディアやブロガーもだ。質の高いコンテンツの制作よりも、コンテンツを早く作ることの方が大事であり、知り合いに誰がいて誰にコンテンツを届けられるかの方が、実際にどんなコンテンツを制作しているかよりも重要になった。いまやカメラマンも自身のブランドをもたなければならない。みんながソーシャルメディアを手にする前は、そんなことは話題になることもなかった。

――ソーシャルのインフルエンサーに仕事を奪われていると感じる?

数千人規模のフォロワーを抱えるインフルエンサーに仕事を奪われていて、あとでブランドから聞いたところによると、彼らはプロダクトの写真を撮影しなければならないことすらわかっていなかったことを聞かされた。しかし、この業界はそういうものだ。変化するものだし、クライアントの関心はいまはインフルエンサーにある。これについてはどうこう言ってもしょうがない。

――インスタグラムで一定のプレゼンスが必要だという強迫観念はある?

ブランドからのそういう期待は常にあるけれど、それが私自身やブランドにとって何か実益のあるものになるとはまだ思えないので、個人的には気にしていない。インスタグラムでクールでいることを、ブランドが判断材料として気にしているのは間違いない。これにいちばん悩まされているのはモデルだと思う。モデルはフォロワーが多くなければ望みがないからだ。それに対し、カメラマンやメーキャップアーティストは、自分の才能だけでやっていくことも、もしかするとできるかもしれない。

――紙からデジタルへの移行のなかで、どちらを優先したいと思う?

しばらくは、「デジタル出版の仕事なんて絶対にやらない」などといって、ファッション界のみんなと同じように紙に強くこだわっていた。いまでは自分のWebサイトをもっているのだからおかしな話だ。いまは正直、Webの方がいいと考えているし、もう誰も雑誌は買わないと思っている。雑誌に目を向けているのは、雑誌を仕事にしている人たちだけだ。

――業界はそれを受け入れるだろうか?

ファッション界は上の方の人たちがかなりの高齢で、だから業界の動きが鈍い。一度編集長になるとほかに行く先がない。そのため、紙でなければ(仕事をしない)という人はいまだにいるけど、(紙媒体では)誰も仕事が見つからなくなるだろう。

――ファッションカメラマンのコミュニティはどう?

実際のところ、この業界はいまだに白人男性が支配的で、常にほかの人たちよりも先に白人男性に仕事が行く。私たち女性はさまざまな点で底辺に位置づけられているが、何とかやっている女性たちのコミュニティはある。男性は競争意識が非常に激しく、業界における自分たちの支配的立場を守ろうとする傾向が強い。その分、コミュニケーションに消極的で、友好的な雰囲気がない。

――女性であることでクライアントから差別されたことがある?

それはある。クライアントは本当に私の仕事を気に入ったのだけど、仕事は男性とのほうがやりやすいだろうから、私のコンセプトは使うけど男性のカメラマンを雇うことにすると、複数の広告代理店にいわれたことがある。どんな仕事にも起用される、長身でヒゲを生やした取替のきく白人男性が何人も用意されているようだ。

――現場でのとんでもない体験を教えてもらえる?

ダンボ地区の公道の真ん中で、頭がおかしくなったように服を脱ぎ続ける女優を撮影したけど、あれは面白かった。トイレに行ってドラッグをやり、出てきて服をすべて脱ぐというのをずっとやっていた。

それから、使われなくなった空港の滑走路をモデルに歩いてもらったことがあって、マックイーン(McQueen)の変てこな靴を履いていたから走ってはいけないといったのに、そのモデルは走った。そして転倒し足首をくじいたので、病院に連れて行かなければならなかった。後日、このモデルはスタイリストからその靴を作った人たちまで、関係者をひとり残らず訴えようとした。

JESSICA SCHIFFER (原文 / 訳:ガリレオ)
Image by GettyImage