データ指向型パブリッシャー、CMGはなにを成し得たか?:「その製品は、途方もなく売れている」

ライフスタイル専門パブリッシャーのクリーク・メディア・グループ(Clique Media Group、以下CMG)が読者のデータにより重点を置く方針を決定してから、3年あまりが経つ。ミレニアル世代とZ世代(ジェネレーションZ)の女性をターゲットとする同社はかつて、本格的ではない方法で自社コンテンツのパフォーマンスを分析していた。だが同社CEOのキャサリン・パワー氏は、共同創業者のヒラリー・カー氏とともに思い描いてきたように、パブリッシャーとしてライフスタイルのトレンドを読者に伝え、それに合致するプロダクトの購入を促していくには、より徹底的なデータ指向型の企業をめざす必要があると考えた。

決断の成果は出つつある。同社は現在、ロサンゼルスを拠点として270人の従業員を擁する。同社のオーディエンス分析チームは、2015年時点では社員2人とインターン1人しかいなかったが、いまでは10人に増えた。今年6月には同社初のショッピングアプリをリリースし、そこで取得したユーザーの検索・購入データをブランデッドコンテンツ制作、コマース、プロダクト開発の各チームの業務に活用している。10月、米小売大手のターゲット(Target)と共同開発したアスレジャーブランド「ジョイラブ(JoyLab)」を発売。ターゲットが自社のプロダクト開発でパブリッシャーと提携するのは、これがはじめてだ。

CMGは6月、シリーズCのラウンドで、グレイクロフト・パートナーズ(Greycroft Partners)やAmazonなどから1500万ドル(約17億1000万円)の資金を調達。9月、コンシューマーブランド部門を立ち上げた。2020年には実店舗型の小売業者を通じて、ビューティ、ファッション、ハウスウェアブランドを市場に送り込む予定だ。

データをもとにプロダクト開発

「単にメディア事業のほかにも収益源を持ちたいのではなく、有意義なブランドとプロダクトを作り上げたいと強く望んでいる」とパワー氏は語った。

CMGは多くのデジタルネイティブのパブリッシャーとは異なり、むやみに広告のリーチ規模を追求してはいない。同社所有のパブリッシングブランドは、「フー・ワット・ウェア(Who What Wear)」「バーディ(Byrdie)」「マイドメーヌ(MyDomaine)」「カレッジ・ファッショニスタ(College Fashionista)」の4つ。comScoreによると、これらのサイトにおける2016年の月間平均ユニーク訪問者数は、560万に上ったという。CMGは、オンサイト、SNS、メールマガジンをすべて合わせた月間ユニークユーザー数は3000万としている。

広告のリーチ規模の代わりに同社が重視していることは、オーディエンスからできるだけ多くの情報を得て、広告収入を増やし、将来的には収益の大半を占めるほどに成長するコンシューマーブランドを作り上げることだ。そのために、同社は、プロダクトコンセプトに関する議論から、ある特定の服のシルエットに関するグループインタビューまで、あらゆる場面で読者を関わらせている。

「我々はまずこのコミュニティからデータと意見を集めてプロダクトを作り、次にそのプロダクトをオーディエンスに向けて市場へ送り出している」とパワー氏は語った。

多岐にわたるデータを入手

CMGはいくつかの場所からユーザーデータを入手している。サイトの検索履歴やアクセスログの分析データのほかに、最近リリースしたフー・ワット・ウェアのショッピングアプリから、購入履歴や統計データを集めている。CMGによると、アプリのダウンロード数は6月以来、2万4000に上るという。

CMGはまたFacebook上で、CMGのそれぞれ異なるサイトと連携している4つの非公開グループから、オーディエンスデータを取得。ストーリーテリングのアイデア発掘から、週ごとに開催するグループインタビューまで、あらゆることに役立てている。さらに、ソーシャルメディアでの言及度調査ツールを使って、どんなファッション、美容、家庭用品関連のトレンドがSNSなどで話題になっているかを調べている。そのうえ最近は、自社のインフルエンサーネットワーク「INF」のメンバーに依頼して、インスタグラムでストリートスナップを発表している写真家のうち、ニューヨーク・ファッション・ウィークの期間中のトレンドを追うのに便利なアカウントの一覧を作成している。

CMGは、同社の読者にだけではなく、2016年に買収したインフルエンサーネットワーク、カレッジ・ファッショニスタの編集者や参加者にもアンケートを実施している。また同社のサイトを一切読んでいない女性グループをも調査対象に含めることで、プロダクトの適正な価格帯を把握しようとしている。

収集されたデータはすべて営業、プロダクト開発、コンシューマーブランド、編集の各チームにフィードバックされる。編集チームは毎週コンテンツ戦略レポートを受け取り、コンシューマーブランドは隔月のレポートで潜在的な成長分野に関する情報を得る。

スピーディにアウトプット

チームは、データを素早くアクションに反映する体制を取っている。CMGの編集チームは、データを受け取ったその日のうちに、ホットトピックやトレンドのプロダクトに関する記事を複数公開できるという。同社の広告制作チームは、ブランデッドコンテンツの制作中でも、キャンペーンのトーンやディレクションの変更に対応可能。コンシューマーブランドチームは、3カ月以内にプロダクトのアイデアをメーカーに渡す。ただし、コンシューマーブランドのプロダクトを市場に送り込むには、通常は1年かかるそうだ。

その規模とスピード感は、コンシューマープロダクト業界では決定的に重要だ。CMGが2016年前期からターゲットで販売してきたフー・ワット・ウェアのアパレルラインの場合、同社はコレクションを絶えず刷新し、毎月少なくとも10を超える新しいプロダクトをターゲットの販売サイトで売り出す必要がある。プロダクトはトレンドに沿いながら、シーズンにふさわしいものでなければならない。

売上の詳細についてはCMGもターゲットも公表していないが、ターゲットの広報担当者によると、フー・ワット・ウェアのプロダクトは「途方もなく売れている」といい、その売上は両社が提携に際して出していた予測値をはるかに上回るという。

新しいマネタイズ戦略

CMGほど膨大な量のデータをブランドに提供できるパブリッシャーはまだ多くはないが、増えてきている。

「メディアブランドがプロダクト開発に参画することは、次第に当たり前になってきている」と語ったのは、トレンド予測とクリエイティブ戦略の専門家、ロザンナ・ロバーツ氏だ。「すでにオーディエンスを獲得しているからには、それに基づいて収益化を図るのは当然だ」。

そのため、CMGもこのままではいられない。同社CEOのパワー氏は、フー・ワット・ウェアの成功にもかかわらず、現在開発中のコンシューマー・ブランドのなかにこそ最大のビジネスチャンスを見出していると語った。現段階ではそのブランドの詳細は明かせないが、同社の主要なエディトリアルブランドとは関係がないという。パワー氏は、自社の主要ブランド向けの商品開発ではなく、これまでとは違うものをめざしていると語った。「消費者は、きちんと考え抜かれた、とくに自分たち自身のためにデザインされた体験やプロダクトラインを求めている。それを裏付けるデータが、我々にはある」。

Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)