ボットブーム、定着する前に「息切れ」か?:まだ第1バージョンという見方も

半年ほど前、マイクロソフト最高経営責任者(CEO)のサティア・ナデラは、「ボットは新しいアプリ」だと宣言した。だが、多くのテック系の宣言と同様、定着する前に息切れしている。ナデラの言葉には、真実が含まれているものの、厄介な部分も多く残されており、戦略的にボット利用は回避されているところも多いようだ。

それに、これまでのところ、大半のメディア企業にとってボットは未来であり、現在ではないかもしれない。ライブ動画、分散型コンテンツチーム、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、人工知能(AI)と同じように、ニュースパブリッシャーはこれまで急いでボットを開発し、FacebookのMessenger(メッセンジャー)、LINE、Kik(キック)などのメッセージングプラットフォームにコンテンツを投入してきたが、期待外れの結果となっている。

RSSリーダーに毛が生えた程度

「ユーザー体験のデザインでとりわけ困難なのは、人が求めるものと必要とするものの区別だ」と、シリコンバレーのベンチャー企業、トゥルー・ベンチャーズ(True Ventures)のデザインパートナーであるジェフ・ビーン氏は語る。

「大企業の電話口にインタラクティブな音声応答システムが出ると、みな嫌な思いをするものだが、そんなシステムを高級そうに見せかけただけのチャットボットが多すぎる。『残高を照会する場合は、「残高照会」と言うか、数字の1を押してください。振り込みを行う場合は……』といった具合だ。こうした状況ではほぼすべて、ボタンを押すシンプルなメニュー型インターフェースの方がいい」。

この1年のあいだに、メッセージングの世界には、目が回るほど大量のボットが出現した。FacebookのMessengerには5万以上のボットが存在している。LINEのビジネス向けアカウント「LINE@」に登録した企業のうち、300万社以上がボットの開発をめざしているという。そのなかで、ニュースパブリッシャーが運用しているものは少数に留まり、大半は一般的なスレッドでやり取りしている。

そこでのボットの役割は、その日のニュースをユーザーに提案することだ。候補になるのは、「トレンドになっている」記事か、シンプルに特定プラットフォーム向けにキュレートされた記事。つまり、未来的なAIを約束されたのに、実際はRSSリーダーに毛が生えた程度の代物だったというわけだ。

「まだ第1バージョンに留まっている」

「多くの人がただ単に、できるだけ大量のコンテンツをプッシュしようとしている。(各プラットフォームの)何がユニークで特別なのかということを考えていない」と指摘するのは、コンテンツレコメンドサービス企業アウトブレイン(Outbrain)の戦略的イニシアティブ担当ゼネラルマネージャー、コリン・ドゥーディ氏だ。同社は、米ニューステレビ局CNNを含むトップパブリッシャー数社のためにボットを開発している。「パブリッシャーの大多数で、内部の関心は『自社の資産をいかに有効活用できるか?』ということに留まっている」。

ドゥーディ氏によると、アウトブレインはまもなく、提携パブリッシャーのために新たなボットを複数リリースする。これらのボットは、第一波のボット群よりも高度になり、さらにカテゴリーとコンテンツに特化したユーザー体験をもたらすという。

ただし、大勢がボットから連想するのは、複雑な対話や、読者とパブリッシャーコンテンツを結ぶ深いつながりだろう。現実はまだ、それとはかけ離れているかもしれない。「思うに、我々はまだ第1バージョンにとどまっており、今後まだ数バージョンを重ねる必要がある」と、ドゥーディ氏は明かす。

この現状は、パブリッシャーやボット開発企業のせいだけでなく、ユーザーも含め、さまざまな要因がある。くだけた対話に必要な自然言語処理は、どのプラットフォーム上に構築するかに関係なく、まだ存在しない。多くのパブリッシャーには、ボットがパブリッシャーコンテンツを深く掘り下げるのに必要なメタデータ、分類方法、インフラが不足しているのだ。

「自社が保有するものを把握することと、自社が配信しているものを理解することが必要だ」と、CNNの最高製品責任者を務めるアレックス・ウェレン氏は指摘する。

奏功しているLINEの取り組み

まだ前進が必要だが、明るい材料もある。LINEは、ニュースパブリッシャーのプロモーションにとりわけ熱心に取り組んできて、それが奏功しているようだ。

米経済紙の「ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」は、半年もしないうちにLINEで100万人の購読者を獲得し、現在は購読者数が270万人に達している。CNNの場合は、フォロワーが200万人に迫り、参入したばかりの米週刊誌「タイム(TIME)」は、1週間で12万5000人以上のフォロワーを新規に獲得した。

LINE以外でも、パブリッシャー特有の成功例がある。その大半は、特別な機能を提供するボットだが、そうした機能はニュース性が高いものとは限らない。たとえば、ミレニアル世代向けニュースサイト「ミック(Mic)」の「ディスオアダット(DisOrDat)」ボットは、スタッフが作成した質問をユーザーに送り、好みのものを二択で選んでもらう。

「Facebook、それともTwitter?」「クリントン、それともトランプ?」「ポルシェ、それともランボルギーニ?」といった具合で、回答したあとにそれが多数派か少数派かを示す。「ディスオアダット」には、ユーザーが選択肢について何も知らないような場合に、ミックの記事へのリンクを提供する機能もある。このボットの登録者は、最近100万人を突破した。

disordatbot_inline

ブラック・チャイナを知らないユーザーへ自社記事を推薦する「ディスオアダット」

インタラクションがカギになる

「ボットの本質は、情報つきのエンターテインメントであり、それはミックが得意とするところだ」と、ミックの最高戦略責任者(CSO)を務めるコリー・ハイク氏は語る。「我々が思うに、勝機は情報とエンターテインメントの中間あたりにあるが、インタラクションがカギになるのだろう」。

一方、スポーツメディアのザ・スコア(theScore)は、チームとゲームに特化したプッシュ通知をユーザーに提供し、FacebookのMessengerでオーディエンスを増やすことに成功してきた。そうした機能は長年、熱烈なファンがダウンロードするスポーツアプリでは定番だったが、関心度が比較的低いファンを定期的に利用するユーザーへと変えるのに有効だとわかってきた。このボットがユーザーに送信した最新情報は、9月最終週だけで200万件以上、過去5カ月間では800万件にものぼる。

めったに強調されないが、業界の誰もが、ボットについて強気な姿勢を保っている。ユーザーと共有できるようになる情報とデータの種類が、この先増え続けるからだろう。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)
Photo by Microsiervos(CreativeCommons)