ページビューは死んだ。その先にある「新指標」を模索する、新興・大手メディア

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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新しいメディアが次々と生まれ、新しい広告のあり方も議論されるなか、なかなか変わらないものが「指標」です。ページビューをもとにした広告モデルで収益化を図るメディアが多いこともあり、それ以外の重要な数字を継続的に見ることは難しいのかもしれません。それでも海外ではいくつかのメディアやプラットフォームが、積極的に新しい指標づくりと普及に努めています。

新指標「アテンション時間」がもたらすもの

『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』著者のイーライ・パリサー氏が2012年に創業した「Upworthy(アップワーシー)」という新興バイラルメディアがあります。パリサー氏は「フィルターバブル」を提唱した人物としても知られています。フィルターバブルとは、検索エンジンやソーシャルメディアのアルゴリズムによって、ユーザーが自分の嗜好に沿った情報ばかりを得てしまい、視野が狭くなってしまうのではないか――と、懸念される、現代のインターネットにおける問題のひとつです。

そこで「Upworthy」では、自分の嗜好の外側にある(多様な)情報が届くようにと、動画のキュレーションというアプローチを用いました。つまり、シェアの力によって、アルゴリズムによる情報の取捨選択を超えて、重要なトピックに目を向けてもらおうというのです。

結果、創業から1年強の2013年5月に3000万ページビューを突破。「ハフィントン・ポスト」や「ビジネスインサイダー」などの有力新興メディアを差し置いて、史上最速で成長したメディアとも呼ばれました。ところが、読者はクリックを誘発するようなタイトルに慣れ、敬遠するようになったのです。そこでページビュー数を喧伝するのではなく、エンゲージメントを追求する姿勢にシフトしていきました。

ページビュー以外の指標として据えたのは「アテンション時間(Attention Minutes)」でした。2014年から「Upworthy」では「アテンション時間」について言及し、サイト全体とコンテンツごとの2つの数字をチェックしはじめました。特に後者では、動画がどれくらい再生されたのか、マウスの動き、どのブラウザのタブが開かれているのかなどを測定。2014年2月の段階では、総アテンション時間が「700万分」だったとのことです。

当初は、解析ツールGoogle Analyticsのデータを用いていましたが、2014年6月にはアテンション時間についてサンプルコードを公開。データ分析プラットフォーム「Parse.ly」でも導入が決まるなど、普及が進んでいるようです。アテンション時間という指標はユニークですが、すでに広告効果を証明するのにしっかりと活躍しています。

たとえば、2014年のネイティブ広告プログラム「Upworthy Collaborations」の売上は1000万ドル超でした。ネイティブ広告と通常コンテンツを比較したところ、ネイティブ広告のほうが3.5倍閲覧され、2.9倍のアテンション時間を獲得した、というデータも発表されています。加えて、ブランドイメージが15〜25%ほど上がり、ネイティブ広告の多くが50万閲覧数、10万エンゲージメント(シェア、いいね!、コメント)を獲得していることも分かっており、新指標の設定で広告のあり方がどのように変わるのかにも注目したいです。

「Medium」が導入する指標「Total Time Reading」

「Upworthy」と同じく「時間」に注目するのが、コンテンツプラットフォームの「Medium」です。Bloggerを開発し、Twitterを共同創業したことでも知られるエヴァン・ウィリアムズ氏が立ち上げたこのプラットフォームでは、「TTR」(Total Time Reading)をいう指標を策定しています。コンテンツを読むことに費やした時間を見ることで、エンゲージメントを重視しているのです。同時に、ページビューやユニークユーザーといった旧来の指標のカウンターとして位置づけています。

そもそも「Medium」は、バナーディスプレイ広告がなく、没頭できるプラットフォームです。そのため、ページビュー当たりの売上といった概念が薄く、時間に着目するのは自然なのかもしれません。

そうは言いながらも、「Medium」は順調に成長しています。ウェブサイトアクセス分析ツールSimilarWebでの計測値によれば、月間訪問数は3840万を記録。ダッシュボードをのぞくとわかりますが、「Medium」では閲覧数、読了数、レコメンド数の3つを計測しており、よくあるブログツールとは異なる設計となっています。

ところで、さきほどの「Upworthy」の場合、指標と広告についてセットで触れました。「Medium」は現状、ネイティブ広告を展開していませんが、スポンサードメディアというかたちで収益化を実現しようとしているところです。たとえば、デザインをテーマにしたメディア「Re:form」ではBMWを、旅をテーマとしたメディア「Gone」ではマリオット・インターナショナルをスポンサーに迎え、編集記事を定期的に投稿しています。

「Medium」が立ち上げるメディア(スポンサード含む)には編集者がついているため、コンテンツの質も高く、長文であることも珍しくありません。良質なアイデアやストーリーが集う場として、「Total Time Reading」という指標がどのような効果を生み出しているのか。データや分析が公開されることを期待したいです。

「フィナンシャル・タイムズ」が時間に着目した背景

ここまで紹介したメディアとプラットフォームはどちらも新興ですが、大手メディアも動いています。代表的なのは、2015年7月に日本経済新聞社が買収した「フィナンシャル・タイムズ」です。

「フィナンシャル・タイムズ」は2014年5月、実験的にCPM(インプレッション単価)ではなく、CPH (cost per hour)をもとに広告を販売することを発表しました(引き続きCPMモデルも販売しています)。広告がどれだけ長く見られたのかに焦点を当てるというのです。

ウェブ解析プラットフォーム「Chartbeat」とタッグを組んだこの取り組みは、ビューアビリティ(Viewability)の問題に対するアプローチの構築という意味合いもあります。2014年末のGoogleによる調査によれば、ディスプレイ広告のうち、56.1%がビューアブル*なインプレッションではない、という結果が発表されています。

*目視可能なインプレッション=広告面積の50%以上が画面に1秒以上連続して表示されているもの

「フィナンシャル・タイムズ」が時間に目を向けたのには、ほかにも理由がありました。それは、類似のビジネスメディアとの比較において、読者が「フィナンシャル・タイムズ」に6倍の時間を費やしているからでした。たとえページビュー数が少なくとも、指標を変えるだけで媒体に新しい角度から価値をもたらすことも可能になるのです。

実際、2013年秋にCPHに基づいた広告販売をテスト。エネルギー関連企業のBPやコンピュータ大手のIBMなど10のクライアントが参加し、合計で100万ドル以上の売上増加を記録したとのことです。また、「フィナンシャル・タイムズ」では100%のビューアビリティで5秒以上見られた広告に関して料金を請求するメニューとしているので、クライアントにとってもメリットは大きいでしょう。この実験的なシフトが「フィナンシャル・タイムズ」はもとより、ほかの大手メディアにどんな影響を与えていくのかも長い目で見ていきたいです。

クリックしたものを読んでいるとは限らない?

最後に、多くのメディアにおいて指標と広告モデルは連動しています。これまでユニークユーザーやページビューを主軸に置いていたことで、バナーやディスプレイ広告が盛んでした。しかし、単なるインプレッションやコンバージョンではなく、エンゲージメントやブランディングを高めたいとき、アテンション時間のような指標を置くことは理解するに難くないでしょう。

今回紹介した「Upworthy」や「Medium」、「フィナンシャル・タイムズ」以外にも、先述の「Chartbeat」もアテンションウェブという考え方をたびたび表明しています。たとえば、同社CEOは「TIME」への寄稿で、ウェブコンテンツや広告に関する4つの神話を紹介しています。

「クリックしたものを読んでいる」「より多くシェアされるほど、より多く読まれる」「ネイティブアドは救世主」「バナー広告は機能しない」というものが神話だとしています。それぞれ意外な印象を持つかもしれませんが、これもアテンションウェブに着目したからこそでしょう。

「ページビューは死んだ」と何度言われても、いまだに重要視されるのはページビューであるケースが多くあります。メディアとブランドの新しく豊かな関係性を築くためにはどうすればいいのか――。技術的な進歩やデータの収集・分析によって、時間を中心とした新しい指標が生まれ、浸透していくのではないでしょうか。

(佐藤慶一)
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