「プレミアムな広告枠」を実現したWebメディア企業。Vox Mediaは、コンデナストの再来か?

若年層のテレビ・新聞離れが進むなか、米新興Webメディア企業Vox Media社の勢いが増している。ライバルのバイラルメディア「BuzzFeed」と比較して、オーディエンスの規模は劣るが、Vox Media社が運営するメディアの理知的なコンテンツは、次世代のプレミアム層となる「若年者層」におけるミドルアッパークラスを魅了しているからだ。

Vox Media社は、編集部とは分離したネイティブアドの制作部門を持ち、コンテンツマネジメントシステム(CMS)を広告主へ開放するなど、斬新な営業戦略を実施。広告業界は、雑誌『Vogue』『GQ』など、プレミアムな広告枠で有名な雑誌を刊行する出版社コンデナストのWebメディア版だと、熱視線を送っている。

評価額は8億5000万ドル

Vox Media社は2015年7月下旬、米ケーブル・テレビ大手コムキャストグループのNBCユニバーサルから2億ドル(約240億円)の出資を受けた。この取引で、Vox Media社の評価額は8億5000万ドル(約1030億円)に達した。ただし、「ワシントン・ポスト」の推計では、Vox Media社は2014年に5000万ドル(約60億円)の売上を計上したものの、この規模はライバル「BuzzFeed」が達成した売上の半分ほどに過ぎないという。

しかし、広告バイヤーはVox Media社の将来性を疑わない。彼らはVox Media社がまさに最上級のコンテンツを提供し、ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた若年者層)にリーチする、最先端のパブリッシャー・プラットフォームだと信じている。「Vox Mediaは現代のコンデナスト」と、メディアエージェンシーMECのデジタルコンテンツ戦略部門のマネージング・パートナーであるギアン・ラベッキア氏は表現した。

営業基盤構築におけるVox Media社の動きの速さには目を見張るものがある。世間では営業は泥臭い人間関係と営業部隊の大群によって成り立つ、長くつらい仕事のままだ。しかし、Vox Media社はセールスフォースオートメーション(営業プロセスの自動化)などを活用し、従業員450人のうち営業部員75人にとどめている。米「ハフィントンポスト」と「ビジネスインサイダー」の営業部員もまた75人と63人と同程度だ。

デジタルエージェンシーDigitasLBiの最高投資責任者であるアダム・シュラハター氏は「彼らはブランドを魅了しながら、成長を続けている。それだけでなく、個性に満ちた意見、視点、そして紙媒体とは完璧に異なる流通モデルで、現代のパブリッシャー・ビジネスを作り上げてきた」と語った。

広告バイヤーによると、Vox Media社の強みは広告主の主要なターゲットであるジェネレーションY(1975年~1989年生まれの層)もカバーする能力だという。すぐれた編集力やスムーズな購読体験をもたらす独自のコンテンツマネジメントシステム(CMS)「Chorus」も、また強みのひとつだ。これらよって、Vox Media社は多額の広告を打つことで知られるスポーツ用品大手のナイキ、電機大手のサムスンらの動画広告を引き受けることができる。

消費意欲高い若年層が読者

「Vox Mediaは媒体としてスケールに欠けるが、ミレニアル世代と密接につながっていることが、広告主を喜ばせる」とラベッキア氏は語った。「Vox Mediaは、ほかのメディアと異なる広告を提案できる。ディスプレイ広告ではなく、より作りこまれたコンテンツ型広告(ネイティブアド)だ」

ジェネレーションYが求める滑らかなユーザー体験を提供し、CMS「Chorus」の開放が広告主の利益を担保する。広告主は「Chorus」を利用してネイティブアドを打ち、その効果を計測することができる。それは業界では異例のことだ。

米デジタルエージェンシーMCDパートナーズのマネージング・パートナーであるデイビット・イーストマン氏は「『Chorus』へのアクセスを与えることでブランドを魅了する『秘密情報』を提供している」と語った。

Vox Media社は急速に成長を遂げている。8つの 自社メディア(「SB Nation」「Vox.com」「The Verge」「Eater」「Racked」「Polygon」「Curbed」そして新たに獲得した「Re/code」)のユニークユーザー(UU)は、5410万超に上るという(今年7月)。デジタル市場調査企業comScoreによると、UUは前年同期比で37%も伸びた。

Vox Media社と他新興デジタルメディアのトラフィック(月間ユニーク数)比較、2015年6月。左上タブ「percent change」で前年同期(14年6月)からの伸び率。Vox Media社は14年7月からの比較。

媒体のスケールに課題

しかし、アドバイイングでは規模が問題となる。ベンチャーキャピタルが後援するメディアとの熾烈な競争のなか、Vox Media社は「ビジネスインサイダー」や「Vice」に先んじた。一方、「ハフィントンポスト」(9200万UU/月)、「BuzzFeed」(8000万UU/月)には遅れをとる。

Vox Media社のメディアは、ニッチのコレクションといえるだろう。自社サイトのうち5媒体の月間ユニークユーザーは1000万弱。これはVox Media社が雑誌のように、広告ターゲットを絞り込んでいることを裏付ける。

Vox Media社の売上拡大計画は、新しいネイティブアド制作部門「Voxクリエイティブ」と、通常のものよりインパクトの強いディスプレイ広告を通して、広告主のために改良されたキャンペーン提供することがポイントだ。しかし、Vox Media社のスケールはライバルに比べて小さい。

前出のLBiのシュラハター氏は「Voxがモバイル・ファーストでありソーシャル拡散型の新しい仕組みを築こうとしている間、ほかのメディアは必死に真似をしている。ミレニアル世代はVox Media社以外の選択肢もたくさん持っている」と語った。

「Voxはもっと大声を出す(オーディエンスを拡大する)必要がある」と、MECマネージング・パートナーのラベッキア氏は分析した。

Lucia Moses(原文 / 訳:岸本実希)