テレビ局としての「こだわり」を捨てたABCニュース。そのYouTube戦略とは?

米テレビ局大手ABCニュースは、さまざまなプラットフォームで自社の動画コンテンツを展開し、「テレビ離れ」を起こす若年層における視聴者拡大を目論んでいる。「BuzzFeed」や「Vice」など、ネット上の動画コンテンツで先行する新興メディアに対抗するため、今後はデジタル版向けのコンテンツづくりに注力するという。

ABCニュースのYouTubeチャンネルは、再生回数が累計15億回以上。動画の多くは、もともとテレビコンテンツとして制作されたもので、YouTube向けに自社で再編集したものだ。

「興味深いことに、我々がテレビ視聴者用に製作したコンテンツは、YouTubeの視聴者たちにも響く」と、ABCニュースでデジタル部門長を務めるコルビー・スミス氏は話した。「重要なのはパッケージングと流通戦略だ。コンテンツのタイトルが正しくつけられているか、人々が探しやすいようにコンテンツが製作されているのかを確かめなければならない」。

この戦略は成功している。実際、ABCニュースのYouTubeチャンネル登録者数は150万人。月間視聴者数は最近でも顕著に増加している。スミス氏が就任した2015年1月、YouTubeの月間視聴者数は平均で約2000万人だったが、同年8月には初めて1億人を突破したという。

さらに、ABCニュースはミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた若年層)にリーチを広げようとしている。8月度の米インターネット調査会社comSocreのデータによると、ABCニュースのYouTubeチャンネルは、アメリカ国内の18歳から34歳の約120万人のユニークデスクトップ視聴者にリーチしているという。

しかし、若年層の視聴者が好む、新興メディア「Vice」のYouTubeチャンネル登録者数は、630万人以上だ。その規模の差は、いまだ歴然としている。

すべてに最適化しない:コンテンツごとに配信先選ぶ

とはいえ、ABCニュースが注目しているのはYouTubeだけではない。コンテンツの配信先として、自社サイトの「ABCNews.com」、Yahoo!での「Good Morning America」、Hulu、Facebookなども挙げられる。すべての動画プラットフォームを合計すれば、2015年の1月から10月中旬までで12億回以上も視聴された。2014年の同時期と比べると、22%の伸びだ。

スミス氏によると、成功の秘訣は「すべてのプラットフォームへ同じように対応する」配信戦術を避けたことだと話す。「パブリッシャーにとって、包括的な配信戦術なんていうものはないと分かったことが、我々の最大の進歩だ」と、彼は言う。「我々が配信するすべてのコンテンツには、それぞれのプラットフォームに最適な戦術を施す」。

これは、プラットフォームが異なれば、求められるコンテンツも異なるということだ。たとえば、Huluにはテレビ番組のフォーマットが最適であると分かった。しかし、Facebook、モバイル、テレビアプリなどでは、デジタルスタジオが作成するオリジナルコンテンツの方が求められるという。

ABCニュースはコンテンツが配信される場所の状況に順応することを重視している。たとえ配信先が、YouTubeやFacebookのような第三者サービスであってもだ。「正直に話すと、動画を自社プラットフォームにアップロードする前に、ときどきFacebookにのみアップロードするときもある」と、スミス氏は話した。

元YouTube役員がデジタル展開を指揮

ABCニュースデジタルには、かつてYouTubeで役員を務めたテリー・ハールバット氏が率いる視聴者開拓チームがいる。スミス氏によると、パブリッシング業務のすべてはハールバット氏が統括し、ソーシャル部隊、自社系サイトの部隊やSEO部隊など、さまざまな専門部隊を監督している。「我々が目指していることは、すべての配信の決断を1つのチームが担当することだ。編集部からコンテンツをもらい、そのコンテンツを正しいタイミングで正しいユーザーへ届けるのだ」と、スミス氏は語る。

先を見据えるABCニュースは、デジタルプラットフォーム用の動画を強化しようとしている。目標は過去の12カ月間で作成したコンテンツの数を、次の12カ月間で50%増やすことだ。これがABCニュースが、ダン・シルバー氏を雇った1つの理由である。シルバー氏はスポーツ専門テレビ局ESPNでエミー賞を受賞したドキュメンタリー番組「30 for 30」を製作した、エグセクティブ・プロデューサーだ。

「我々の時間は限られている」と、スミス氏は語る。「我々がいま本気で投資しているのは、(デジタル版用の動画を製作する)デジタルオリジナルコンテンツ部隊だ」。今後はテレビ用に製作した動画にこだわらないということだ。

Sahil Patel(原文 / 訳:小嶋太一郎)
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