プッシュ通知の乱用、パブリッシャーはどう捉えるべきか?:それは「典型的な共有地問題」だ

パブリッシャーたちは早々に、モバイル「通知」の威力を理解した。スマートフォンユーザーをコンテンツに引き戻すことができるからだ。しかし、同時にメディアは、プッシュ通知の使いすぎに注意すべきだろう。

スタートアップスタジオ兼ベンチャーキャピタルのベータワークス(Betaworks)の元パートナー、アンドリュー・マクラフリン氏は、「これは典型的な共有地問題だ。モバイルロック画面上での振るまいが悪いと、すべてが駄目になってしまう」と語る。

好奇心の対象だった通知機能は、この5~6年でトラフィックとエンゲージメントの大きな源泉になった。ニューヨークタイムズ(The New York Times)では、適切なプッシュ通知のおかげで記事の1日のトラフィックの60%が通知からのものになることもあるという。

2016年のオリンピックや米大統領選の期間中は、USAトゥデイ(USA Today)からガーディアン(The Guardian)まで、さまざまなパブリッシャーがアプリの普及を拡大する方法としてプッシュ通知を活用した。また、ミレニアル世代向けのメディアであるMic(マイク)や、ワシントン・ポスト(Washington Post)などのパブリッシャーは、通知経由でサイトにやってきた読者のほうが滞在時間が長いと報告している。

プッシュ通知が抱える問題

とはいえ、プッシュ通知はまだ非常に歴史の浅い分野であり、パブリッシャーの手引きとなる最善策が存在しない。1日に送信してよい通知の数について絶対的な規則を設けているパブリッシャーはほとんどいない。そして、多くのパブリッシャーが「プッシュ通知によってユーザーに情報を提供し続ける」という曖昧な課題に直面するなか、使いすぎを防ぐ歯止めはほとんど存在しない。

マクミラン氏は、「パブリッシャーはバランスを考慮しようとしている。しかし、プッシュ通知の影響力は、パブリッシャーによる決定だけに委ねられるものではなく、ユーザーによる選択にも委ねられている」と語った。

もちろん、効果的なインターネットマーケティング戦略がすぐに乱用されるようになるのは、いまにはじまったことではない。さらに、AppleとAndroidの最新OSで、プッシュ通知にテキストや動画など、あらゆる種類のリッチメディアを埋め込めるようになり、すぐに乱用されることになりそうだ。新しいコミュニケーション方法すべてにいえることだが、関連性と価値が不可欠であることは間違いない。

USAトゥデイの親会社でもあるガネット(Gannett)のモバイル製品マネージャー、レイラ・シディーク氏は、「我々は通知を添え物だとは見なしていない。それ自体が記事でありコンテンツだと考えている」と語る。

やり過ぎを気に病む幹部たち

しかし、あらためて、ユーザーのモバイルロック画面に表示されるかどうかは、パブリッシャーが決められることではない。モバイルマーケティング分析企業カフナ(Kahuna)のデータによると、ニュースのモバイルアプリは、プッシュ通知のオプトアウト率がどの業界よりも高く、ファイナンス、旅行、ゲーム、eコマースなどのアプリを上回っている。

また、望ましい通知の頻度や話題が人によって異なることをパブリッシャーはわかっているものの、適切なバランスを見つけるためにできることは、試行錯誤するしかない。通知して欲しい話題を読者に選んでもらったとしても、何が読者を不快にさせるのかを予想するのは非常に難しい。2016年の大統領選後、Micの新しいiPhoneアプリなどに、リベラル寄りだと批判する星ひとつの評価があふれた。MicのiPhoneアプリは、通知する話題を事前にユーザーが選択するようになっており、またユーザーの80%近くが通知をオンにしているにもかかわらず、同社幹部はやり過ぎがあったことを非常に気に病んでいた。

Micの最高戦略責任者、コリー・ハイク氏は、「当社のアプリは、プッシュ通知の製品なので、(通知が)干渉的になり過ぎないことに非常に警戒している。寄せられたフィードバックはしっかりと検討した」と語った。

ユーザーは調整行為を好まない

プッシュ通知はその到達範囲を拡げつつもある。ブラウザーのChromeとFirefoxはこの1年半のアップデートで、あらゆるパブリッシャーが読者のブラウザに通知を送信できるようになった。Safariも通知が可能だがデスクトップ版だけであり、読者のiPhoneのロック画面に入り込みたいパブリッシャーは、通知サービスを提供する企業アーバン・エアシップ(Urban Airship)を使ってAppleの「News」を経由する必要がある。

モバイルと同じようにデスクトップへの通知を行いたい場合、データを見つけるのは困難だ。とはいえ、パブリッシャーは読者に対して多大な要求をしているのかもしれない。たとえば、Chromeにガーディアンの機能拡張を追加すると、読者は60種類を超えるコンテンツに自動的にオプトインされる。また、FOXニュース(Fox News)の機能拡張を追加すると、毎時間のようにコンテンツが届くかもしれない。

こうして入ってくる通知は、設定メニューでスイッチを切り替えるだけでオン・オフのカスタマイズをできることが多い。しかし、読者はどんなプッシュ通知なら受け取るかを時間をかけて設定するのを好まないことは、データから伺える。カフナの共同創業者であるアダム・マーチック氏は、「好みの選択を設定することを求めるたびに、ユーザーを失うことになる。(適切なバランスにするために)18種ものオプション設定とダイヤルを自ら調整することを読者は望んでいない」と語る。

プッシュ通知は綱渡りのようなもの

ブラウザへのプッシュ通知がどれくらい広く採用されているかは、明確にはわからない。どのブラウザも通知機能におけるパブリッシャーの利用状況を提供していない。しかし、いずれのパブリッシャーも綱渡りのような思いをしている。ガーディアンUS(Guardian US)のモバイルイノベーション研究所のサラ・シュマルバッハ氏は、「気に入らないプッシュ通知をWebで受け取るやいなや、ユーザーは通知をオフにするだろう」と語る。

プッシュ通知を断ったユーザーに戻ってきてもらうための明確な方法は、ほぼ存在しない。

最後の問題は、パブリッシャーではなくプラットフォームだけが解決できる問題なのかもしれない。Betaworks(ベータワークス)の元パートナー、マクローリン氏は「こうした責任の大部分は実際のところOSメーカーにあるはずだ」としたうえで、プッシュ通知の体験そのものはOSメーカーによってもたらされると言及。さらに同氏は、「プッシュ通知は(パブリッシャーが利用できる)もっとも強力なものではないかと考える」ともコメントした。

しかし、「だが同時に、プッシュ通知はともすればすぐに邪魔物と思われてしまう可能性があり、関心のないものから過剰なコミュニケーションの波をユーザーに押し寄せるおそれがある」と語った。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)