有名スポーツブログの終焉に見る、現代メディア 5つの憂鬱:なぜ「Grantland」は閉鎖されたのか?

米スポーツ専門ケーブルテレビESPNは、2015年10月30日、4年間続いた公式スポーツブログ「Grantland」を突然、終了させた。ESPNの人気パーソナリティだったビル・シモンズ氏によるスポーツ解説と、ポップカルチャーが入り交じったコアな派生サイトだった。

ESPNの人気パーソナリティだったビル・シモンズ氏

ESPNの人気パーソナリティだったビル・シモンズ氏

「Grantland」がわずか4年で終了するのは、予想できなかったわけではない。シモンズ氏が、ESPNを去ることになるというウワサは、すでに知られていたからだ。しかしこのニュースは、たくさんのファンに、そしておそらくは大勢のジャーナリストにショックを与えただろう。

ESPNのような巨大な集合型メディアが、スポーツジャーナリズムを活気づける代名詞的サイトを切り捨てることを、多くの人たちが不当だと感じたはずだ。スポーツジャーナリズムは、大衆を巻き込む大げさなものか、大衆を受け入れない排他的なものか、そのどちらかになることがあまりにも多い。

ESPNがシモンズ氏の契約更新をしなかったことで、強制的に終了となってしまった「Grantland」は、現在のメディア状況について多くを物語っているようだ。今回はそのような経緯に至った5つの背景を紹介する。

1. オーディエンスは少なかった

終了を悲しむ多くの声があるものの、「Grantland」のオーディエンスは非常に多いということはなかった。ESPNのトップページに目立つように掲載され、シモンズ氏という超有名人を起用したにもかかわらず、調査企業コムスコア(comScore)によるとユニークビジター数は、一度も700万人を超えることがなかった。700万人は、ESPNサイトへのデジタルトラフィックの約7.5%にすぎない。流入の大きいところはさらに大きくなれる昨今において、25人以上のスタッフ数を抱えていたWebサイトとしては非常に寂しい数字だ。

2. うんざりする社内事情

シモンズ氏とESPNの決別は、円満さがまるでなかった。ESPNのジョン・スキッパー社長は、5月には「『Grantland』に注力する」と述べていたのに、結局は異なる決定を下したことになる。「Grantland」は、ESPNにおけるシモンズ氏の媒体だといっても過言ではないほど、同氏の人気に頼っていたところはあるはずだ。ESPNとの契約が終了後、シモンズ氏はHBOの番組に移籍し、「Grantland」のスタッフ6人のスカウトにも着手した。

3. 個人ブランド媒体の危険性

もしビル・シモンズ氏がいなかったら、「Grantland」は存在しなかっただろう。同サイトは、同氏とESPNとの最後の契約交渉のなかで作られたものだ。ESPNへ完全に統合されることなく、ESPN帝国内で準自治区のようにして運営されていた。「Grantland」のアイデンティティは、シモンズ氏の強力なパーソナリティを中心に形成され、これにESPNのリソースが組み合わさって大きな力になった。

しかし、人気ジャーナリスト、とりわけ強力なパーソナリティをもつ人物との結びつきは、サイトにとってよいことばかりではない。「ファースト・ルック・メディア(First Look Media)」は、有名音楽誌『ローリングストーンズ』の著名ライターだったマット・タイビ氏と提携してローンチするはずだったブログサイト「ラケット(The Racket)」を巡って、そのことを思い知らされた。運営に当たって、さまざまな両者の不一致があり、結果「ファースト・ルック・メディア」とタイビ氏は決裂。「ラケット」は2014年、ローンチを待たずに頓挫した

デジタルパブリッシャーに向けたメディア「デジタルコンテントネクスト(Digital Content Next)」のCEOで、CBS スポーツ元幹部であるジェイソン・キント氏は、「シモンズ氏は、明らかにあのブランドの大きな支柱となっていた」と語る。また、同氏は続けて「ESPNが、同社の主要ブランドにおいて、ユーザーを逃がすことなく、以前シモンズ氏がいたときと同じように、掘り下げた内容を提供し続けることは不可能ではない」。

4. 最近は、趣味的なプロジェクトの維持が難しい

誰に聞いても、「Grantland」は大きな儲けを出してはなかった。利益が出ていたかどうかは不明で、しかもまだ若いサイトが広告掲載を最小限に運営していたのは印象的だった。カルチャー誌「Vanity Fair」によれば、「Grantland」は2014年に600万ドル(約7億4000万円)を稼いだという。しかし、同年こともなげに10億ドル(約1233億円)の営業利益を達成したESPNからすると、わずかな額だった。

クリエイティブエージェンシーであるディープフォーカス(Deep Focus)のイアン・シェーファーCEOが、5月に米DIGIDAYへ語ってくれたように、ESPNにとって「Grantland」の「優先順位は、はるかかなた」にあった。そのような存在は、厳しい時期になると真っ先に切られることになる。

かつてなら、ESPNのような資金力のあるメディア企業にとって、「Grantland」の儲けの少なさは、誤差の範囲だと見なされただろう。しかし、スポーツイベント生中継契約のコストがうなぎ登りになっている状況に、ケーブルテレビを襲う試練と苦難が相まって、ESPNは現在、緊縮モードに入っている。なにしろ、NFLの試合の放送権獲得のため、年間およそ19億ドル(約2344億円)を支払っているという。ところが、ESPNのケーブル登録者数の数は、他社と比べても急速に減少している。そのため先日、ESPNはスタッフ300人の人員削減を行った。

スポーツビジネスデイリー(Sports Business Daily)」によると、「資金豊富な企業が、優秀な人材をそんなにも大勢解雇しなければならない状況に、多くの人が信じられない」様子だったという。このような時代においては、会社にとって存在する理由がもはやひとつもない、サイドプロジェクトを正当化することは難しい。

5. マス向けでも特定層向けでもなかった

「Grantland」は、NFLの週末の試合の分析と映画批評とが同居できる、ほかにない個性的な試みだと認識されていた。しかし、メディアはいま分岐点を迎えている。ひとつは「BuzzFeed」「ハフィントン・ポスト」「Vox」などのマスサイト。もうひとつは、対象を絞り込んで、特定のオーディエンス向けにユニークなコンテンツを作り出していくサイトだ。

前者は、その規模ゆえに幅広いオーディエンス層向けに生き延びることができる。後者は、その専門性ゆえにプレミアム料金を設定することができる。「Grantland」は、そのどちらにも属さない中途半端な立ち位置だった。

Brian Morrissey (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo by David Shankbone(CreativeCommons)