YouTube、激化するインフルエンサー獲得合戦に最新兵器:ロンドンスタジオが新装開店

「YouTubeスペース・ロンドン」が8月16日、再オープンを迎えた。YouTubeが最新の技術をつぎ込んだ、ユーチューバーのための制作スタジオだ。

1万人以上のチャンネル登録者を抱えるクリエイターであれば、このスタジオの防音室でVR動画や360度動画を撮影し、無料の専用編集室で作品を仕上げることができる。ここはYouTubeが世界9カ所に設置した同種のスタジオのひとつで、欧州では最大の施設。オンラインタレント発掘競争における同プラットフォームの最新兵器でもある。

翌17日のオープニングスピーチで、YouTubeの欧州ディレクターを務めるベン・マッコーエン・ウィルソン氏は、「想像できないほど高価な」機材を投入した目的はただひとつ、才能を育てることだと話した。その才能こそが、YouTubeをユーザー10億人超までに成長させたロケット燃料なのだ。

「この設備は、優れた才能の持ち主たちに対して、我々が彼らを愛しており、我々のプラットフォーム上で引き続き関係を構築していってほしいと願っていることを伝えるための大きな合図だ」と、ウィルソン氏は来場客らに語った。

強力なライバルとの競争

とはいえ、リニューアル前の「YouTubeスペース・ロンドン」がトッテナムコートロードに開設された5年前から、状況は大きく変わった。各ソーシャルプラットフォームの動画参入が相次ぎ、いまやYouTubeはFacebook、Snapchat(スナップチャット)、Twitterといった強力なライバルとの競争にさらされている。

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「YouTubeスペース」の1階。建物全体の照明が動画撮影に最適化されている

ソーシャル動画情報企業バースト・インサイツ(Burst Insights)の共同創業者、サイモン・ビビー氏によると、YouTubeは長い間「買い手市場の思考」でいたが、いまやインフルエンサーになるのはかつてないほど容易になったという。

「YouTubeには、(競合と)同じような、若い世代とのブランド親和性がない。若い世代にとってYouTubeは、友達が居着いている場所ではないし、モバイル機器で最初にリーチする場所でもない」と、ビビー氏は指摘する。

クリエイターの引き抜き合戦

一方、クリエイターたちもほかのプラットフォームから勧誘されている。ブルームバーグ(Bloomberg)によると、Twitterの新しい動画広告プラットフォーム「アンプリファイ(Amplify)」は、クリエイターに売上の70%を提供しているという。「アンプリファイ」でコンテンツパートナーシップ責任者を務めるマイク・パーク氏はすでに、YouTubeのタレントたちとつながりのあるYouTube内部関係者たちを採用してきた。

Facebookも多数のコンテンツクリエイターに報酬を支払い、ライブ動画などの映像を作らせている。「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」が発掘した 文書によると、Facebookはすでに、レイ・ウィリアム・ジョンストン氏やエリーズ・ストラチャン氏といったYouTubeのスターに220万ドル(約2億2000万円)を支払い、Facebook上での動画制作を促しているという。

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YouTubeスペースの吹き抜けのスタジオ

YouTubeのコンテンツはいまや、プラットフォーム各社のネイティブな動画フォーマットによって、活躍の場を失いつつある。「FacebookとTwitterはかつて、タイムラインにおけるYouTube動画の再生をサポートしていた。だが現在、YouTubeのリンクを投稿するなら、ペナルティを受けるようなものだ」と、マーケティングエージェンシー、ソーシャルチェーン(Social Chain)のスティーブ・バートレット最高経営責任者(CEO)は説明。

YouTubeの動画を投稿すると、サムネイルをクリックしてプラットフォームの外に出なければならないため、「バイラルな広がりが断ち切られてしまう」のだ。だが、自動再生されるネイティブ動画なら、その場で閲覧してすぐに共有できる。

「忘れられたプロダクト」

バートレットCEOの見方では、YouTubeの全盛期はだいたい1年前。いまやプレゼンの場では「忘れられたプロダクト」だ。代わりに、競合プラットフォームのリーチが広告主の興味を引いているという。

「そう遠くない過去、YouTubeは動画の再生回数を稼ぐ最良の方法だった。だが、その後、ブランドのKPI(重要業績評価指標)達成のために、その地位は押し下げられてきた。Facebookで10万『いいね!』を獲得するほうが、YouTubeのチャンネル登録者10万人を獲得するよりもはるかに簡単だ」。

YouTubeとしても、黙って見ているわけではない。制作スタジオを開設し、映像制作機器からオーディエンス獲得方法の講義まで、一切を提供することに加え、有料登録サービス「YouTube Red」向けに、YouTube育ちのタレントが出演する映画やテレビ番組を買っている。また、モバイル機器からのライブストリーミングなど、新機能も続々と発表。これもすべて、ユーチューバーたちにYouTube上でアクティブでいてもらうための取り組みの一環だ。

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ユーチューバーがファン向けにグッズを販売するショップも併設

強みは熱心なコミュニティ

YouTubeにあってFacebookに(少なくとも現在は)欠けているものは、熱心なコミュニティだ。ユーチューバーのアレックス・ブリナード氏によると、インフルエンサーたちはオーディエンス獲得のためにFacebookなど、ほかのプラットフォームも使っているが、YouTubeをメインチャンネルとして確保しているという。同氏は、英国YouTubeコミュニティに関するニュースサイト「テンエイティ(TenEighty)」の共同編集者を務めている。

「YouTubeでは、私のチャンネル登録者のおそらく15~20%が、私の動画を視聴する」と、ブリナード氏は語る。「一方、私がFacebook(ページ)で獲得しているのはわずか4000『いいね!』だが、その50%は動画を見るだろう。リーチについてはFacebookがはるかに上だが、コミュニティを構築する点ではまだまだだ」。

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VR機器とモーションセンサーで3D描画できるアプリを試す様子

加えて、YouTubeのエリートたちは依然として、同プラットフォームで活況のプレミアムコンテンツに関して高い料金を要求できる。

ユーチューバーはほかのプラットフォームとも契約を結び、そこでもオーディエンスを伸ばしている。それでも、YouTubeスペースはVR動画や音楽ビデオの撮影予約でいっぱいだ。

「インフルエンサープラットフォームとしてのYouTubeの落日を目の当たりにしているとは思わないし、そうした状況は今後も起きないかもしれない」と、ビビー氏は話す。「YouTubeのリーチは疑いようもない。それでも、インフルエンサーは現在、プラットフォームを問わないようになってきている。金銭的に、そうならざるを得ないのだ」。

Grace Caffyn(原文 / 訳:ガリレオ)