YouTube、独自動画シリーズで「テレビ広告費」獲得を狙う

YouTubeは、広告主に対してスポンサーシップと番組にブランドを組み込む機会を提供することで、テレビ広告につぎ込まれる予算を自社に引きつけようとしており、無料で視聴できる動画シリーズを増やしている。

2017年5月に行われた広告主向けイベント「ブランドキャスト(Brandcast)」でYouTubeは、同プラットフォーム上で無料視聴できる、7つのオリジナル長編動画シリーズに資金提供を呼びかけた。ふたつの情報筋によると、YouTubeがこれらのシリーズに予定している広告費は、1エピソードあたり50万~100万ドル(約5000万〜1億円)だという。この額は、HBOやAMCで放映されるオリジナル番組のようなケーブルテレビの「プレミアムな」番組には届かないにしても、通常の番組広告費には匹敵する。

滑り出しは順調

シリーズ開始の発表以来、YouTubeはスポンサーシップと番組にブランドを組み込む機会を広告主に販売することに追われている。YouTubeは9月第4週に、女優でコメディアンのエレン・デジェネレスが司会を務め、毎日放送される昼のトーク番組「エレンの部屋(The Ellen DeGeneres Show)」の舞台裏を見せる「エレンズ・ショウ・ミー・モア・ショウ(Ellen’s Show Me More Show)」を発表した。この番組は14週続く予定で、米国ではアウトドア用品のエルエルビーン(L.L.Bean)と映像制作会社STXエンターテインメントが、オーストラリアでは韓国のヒュンダイ(現代)自動車がスポンサーになっている。

YouTubeの広告付きオリジナル動画シリーズとしてはこれまでに、ライアン・シークレスト制作・演出による歌唱コンテストシリーズ「ベスト・カバー・エバー(Best.Cover.Ever)」の独占スポンサーにジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)が決まっているほか、歌手デミ・ロヴァートのドキュメンタリー「シンプリー・コンプリケーティッド(Simply Complicated)」の独占スポンサーに、美容ブランドのアルタ・ビューティー(Ulta Beauty)がなっている。どちらのシリーズも2017年秋以降に公開予定だ。

YouTubeのオリジナル動画シリーズに広告を出すことは、決して安い買い物ではない。YouTubeから売り込みを受けたあるメディアによると、「エレンズ・ショウ・ミー・モア・ショウ」の広告パッケージの価格は幅広く、最低額が50万ドル(約5000万円)、「全部買い」なら150万ドル(約1.5億円)だったそうだ。ほかの情報筋の話では、オリジナル動画の広告パッケージの価格はさらに高額である可能性もあるという。

価格に関して、YouTubeはコメントを拒否している。

あえてトレンドを逆行

Googleのエージェンシー開発担当マネージングディレクター、ジョン・ニコレッティ氏は次のように語る。「近頃のエミー賞受賞作品を見ればわかるが、サブスクリプションサービスやケーブルテレビのプレミアムチャンネルで、広告のない新シリーズが続々登場するなかで、本当にたくさんのブランドが、新しくてわくわくするやり方でコンテンツを支援することに強い関心を寄せている。だから我々は、彼らと手を組んでこのトレンドを逆行させることにした」。

YouTubeによる広告主への宣伝文句には、番組と同時に流れる動画インベントリー(在庫)へのアクセスのほか、番組の形式に応じてカスタマイズできる、番組内部でのさまざまなブランドの組み込み機会が含まれている。こうした取り組みのなかには、番組内でのカスタムな要素、ブランド品を使ったセットの使用などが想定されている。YouTubeはさらに、広告主に対して番組インベントリーを通じた最低限の「声のシェア(share of voice)」も提供している。これは、新しい番組では最低数のインプレッションを保証することが困難なので考え出されたことだ、とある広告バイヤーは説明した。

YouTubeは以前から、テレビ広告予算をもっと多く自社に引き寄せようとしてきており、広告付きオリジナル動画シリーズの制作は、その取り組みの一環だ。長年テレビ業界で活躍し、いまはYouTubeのオリジナルコンテンツ部門を率いるスザンヌ・ダニエルズ氏は、2017年夏に開催された世界的な広告イベント「カンヌライオンズ(Cannes Lions)」でこの考えの基本を表明していた

「プリファード」との違い

YouTubeから売り込みを受けたメディアバイヤーのひとりは、匿名を条件にこう話してくれた。「これは、Hulu(フールー)に近づこうとするGoogleの取り組みだ。YouTubeらしい番組を、トップクラスのタレントを使って作りたい、ということなのだろう。ただ、プレミアにはいろいろな段階があるので、この点を考慮しなくてはならない」。

TV広告費を追い求めるYouTubeのもうひとつの大きな動きは、エンゲージメントの高いYouTube人気チャンネルを選出して広告を表示するプログラム「Googleプリファード(Google Preferred)」だ。3年前に開始されて以来、Googleプリファードのインベントリーを購入する米国の広告主は毎年30%以上増加している。Googleプリファードは現在、20の市場で利用できる。

Googleのニコレッティ氏は、「Googleプリファードの幅広いラインナップと、こうした広告付き番組が提供するブランド統合の機会は、マーケターが非常に魅力的だと感じる強力なコンビネーションだ」と述べる。

広告バイヤーたちは、Googleプリファードには約8000のチャンネルがあると見積もっているが、数の多さがナビゲートを難しくする可能性もあるし、広告主が気持ちよく広告を出したいと思うプロ制作の番組がすべてのチャンネルにあるわけでもない。その意味から言って、質の基準をある程度満たすオリジナル番組を作ることは、YouTubeにとって理にかなったことだ。

エージェンシーの見立て

アドエージェンシーGSD&Mのアソシエイトメディアディレクターを務めるマリアンヌ・ラッシュ氏は、「トップクラスのタレントが関わり、YouTubeが直々に投資しているという安心感がある」と語る。「つまり、守られた安全なコンテンツか、一般的で(ユーザー生成による)安いインフルエンサーコンテンツかという選択肢が得られるわけだ」。

「これが利益につながることは間違いない」と、同じく匿名希望の別の広告バイヤーは言う。「彼らは遊びでこうしたコンテンツを作っているわけではない。広告を出してもらう対象を作っている。これらの番組は、販売を目的に特別に作られている」。もちろんそれは、広告主が購入せず、テレビ広告から予算をYouTubeへ振り分けない、という意味ではない。

ホライゾン・メディア(Horizon Media)のエグゼクティブバイスプレジデントで、デジタル投資のマネージングパートナーであるサラ・ベーハー氏は次のように話す。「エレンであろうとデミ・ロヴァートであろうと、人々がYouTubeで動画を視聴して時間を過ごしていることは事実だ。広告主として誰にリーチしたいかによって、どこに目を向けるべきかを決める必要がある。その意味でYouTubeは、全体的な動画ミックスの一部として、テレビ広告用の予算を振り分けるべき場所になるだろう」。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)