SSPとDSPの兼業をやめ、専業化に向かうアドテク企業

アドテク業界に、「フォーカス」という概念が定着しはじめた。アドテク企業はこれまで、パブリッシャーとメディアバイヤーの両方をクライアントにすることで膨大な利益を上げてきた。しかし、透明性を求める声が高まるにつれ、どちらか一方を選んだ方が得策だと考える企業が増えている。

トレマービデオ(Tremor Video)は2017年8月、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)をタプティカ(Taptica)に5000万ドル(約55億円)で売却することに合意した。シングテル(Singtel)傘下のアモビー(Amobee)は、サプライサイド事業を2016年にたたんだ一方、DSPのターン(Turn)を2017年2月に3億1000万ドル(約340億円)で買収した。サイズミック(Sizmek)は2017年7月、DSPのロケットフュエル(Rocket Fuel)を1億4500万ドル(約159億円)で買収すると発表した。この買収は、デマンドサイド専門として最大級の在庫を構築するというサイズミックの計画の一環だ。

フォーカスの流れ

サイズミックの最高成長責任者を務めるマイク・キャプリオ氏は、「アドテク企業が、売り手と買い手の両方との取引から、専業に移行することは、デジタルメディア業界の進化と成熟の表れだ」と言う。「トレマーがDSPを売却したことは、透明性とフォーカスをめざす流れが生んだ連鎖反応の最新事例といえる」。

トレマービデオDSPのCEO、ローレン・ウィーナー氏も、アドテク業界ではいま、フォーカスが重要になっていると認める。DSPとサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)は、目指すものが競合関係にある。前者は、できるだけ低価格で価値の高い広告を手に入れようとする一方、後者は、価値の低い広告にできるだけ高値をつけようとする。

エージェンシーのクレーマー=クラッセルト(Cramer-Krasselt)でメディアアナリティクス担当最高責任者を務めるクリス・ウェクスラー氏によれば、広告主はアドテクを信頼していない。長年、ベンダーの不透明なテクノロジーと高い手数料のカモにされ続けてきたからだ。ウェクスラー氏のチームは、全米広告主協会(ANA)が2016年に発表した、透明性に欠けるプログラマティック取引に関する報告を受けて、現在はDSP専門の企業とだけ提携しており、さらに、メディア契約の監査を増やしている。クレーマー=クラッセルトがブランドのために購入する広告在庫(プログラマティックのみならず、さまざまなチャンネルを通じて購入したもの)のうち、30~40%が監査を受けているが、2年前は20%にすぎなかったという。

「以前は、ベンダーが黙って二重請求してくることもあった」と、ウェクスラー氏は述べる。「ひとつの企業が売り手と買い手の境界線をまたいでいては、検証のしようがない」。

ビジネスの効率化

専業化のもうひとつのインセンティブが、ビジネスの効率化だ。イールドボット(Yieldbot)は2017年7月、社員の約30%を解雇し、シカゴとロサンゼルスにあった国内販売拠点を閉鎖したが、これは「デジタル=フィジカル連携」プロダクトにフォーカスするためだと、同社のCEO、ジョナサン・メンデス氏は述べた。

「FacebookとGoogleがアドテクの約7割のシェアを占め、残りの3割をめぐって多数の企業がしのぎを削っている」と、メンデス氏は述べる。「アドテクが複雑化すればするほど、明快さが重要になる。4つの事業を抱えているが、どれもうまくいっていないような企業を買収したがる人などいない」。

ただし、話はそう単純ではない。エージェンシー「マレンロウ・メディアハブ(MullenLowe Mediahub)」でメディアサイエンス担当シニアバイスプレジデント兼ディレクターを務めるダン・デービス氏のチームは、DSP専門企業との提携のもと、透明性向上をはかっている。だが、SSPとDSPの両方のソリューションを備えた企業と提携することは、エージェンシーにとっても有益だという。パブリッシャーとの直接のつながりを利用して、価値の高い広告在庫を安価に入手できるからだ。

「SSPとDSPを兼業する企業は、自社の財務上の理由のためにインベントリー(在庫)を埋めなくてはならず、内部に利害対立を抱えている」と、デービス氏は言う。「しかし、ほとんどのエージェンシーは以前から、両方のソリューションをもつ企業と提携してきた。DSP専業の企業を選ぶという贅沢ができるとは限らない」。

いまは売り手が優勢

投資家についていえば、収益が上がっているあいだは兼業企業への出資を続けると語るのは、投資銀行デシルバ+フィリップスのマネージングディレクター、ジョン・マシューズ氏だ。

「いまのところ、売り手にフォーカスする方向が優勢のようだ」と、マシューズ氏は述べる。「買い手側に関しては、将来的に動画、オーディオ、モバイルなどに特化していく兆しが見えない。買い手側は、顧客のニーズに応じたオールラウンダーになるだろう」。

一方、調査会社ピボタル(Pivotal)のシニアアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は、SSPにより商機があると見ている。アドテク企業は低価値の広告在庫を収益化することで高いマージンを生み出すことができるうえ、パブリッシャーの取り分を調整することも可能だ。そのため、SSPの方がより早くキャッシュフローを確立できる可能性が高い、というのがウィーザー氏の見解だ。

「買い手側の問題は、手数料が比較的少額であることと、アドテク企業に利益がもたらされるような価値をデモンストレーションできる機会に乏しいことだ」と、ウィーザー氏は言う。「状況をさらにややこしくしているのは、Googleが売り手としても買い手としてもあまりに巨大な存在で、そのアドテクビジネスに財務上の透明性がないに等しいことだ」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)