いつ音楽ストリーミングはキャズムを超える?:ローンチ5カ月のSpotify Japan

全世界で1億以上のユーザーをもつ世界最大級の音楽ストリーミングサービス「Spotify」は日本版を2016年9月末にローンチした。

Spotifyのようなサブスクリプション型の音楽配信サービスは、18年間続いたレコーディドミュージック(録音された音楽)による収益の減少が、昨年反転上昇したことの大きな要因になっており、広告とサブスクリプションをかけ合わせたモデルを欧米諸国に浸透させたことで注目される。

Spotifyローンチに先立ち、各社が定額制音楽配信サービスを開始し、日本市場はストリーミングサービスの黎明期を迎えている。先行する動画ストリーミングはNetflix、Amazon、Huluなどが日本の人々に定着している。音楽ストリーミングは日本でどのように受け入れられるのか。

ローンチから5カ月を経ようとするSpotify Japan。同社ヘッド・オブ・コンシューマ・マーケティングのジュン・ソバジェ氏(トップ画像)はTwitterを活用し反響を呼んだ「#絵文字で音楽発見」キャンペーン、ローンチ後の取り組み、今後の展望について語ってくれた。

Spotifyは「音楽発見サービス」

日本でローンチするにあたって、Spotifyはどんなものかを市場に伝えるのを考えた、とソバジェ氏は語った。「エージェンシーと組んでブランドのキャンペーンをつくった。『Spotifyは音楽発見サービス』という位置付けを決めた。音楽配信サービスはほかにもたくさんある。Spotifyと他者を差別化するためにそうポジションをつくった」。

「日常的な光景を見せるキャンペーンに取り組んだ。お母さんが野菜を刻んでいるときにテクノを聞いているとすごい高速でそれができる(『母のテクノ』)。一般的なサラリーマンの部長が満員電車でメタルを楽しむことで、満員のモッシュを楽しんでいるというキャンペーンもつくりました(『部長のメタル。』)」。

「Spotifyはインターナショナルブランドなので完璧に日本化するわけではない。去年はローカライズされたキャンペーンをつくった。日本人のタレント、日本人の写真家、日本のエージェンシーを通したキャンペーンをつくった。いままでのSpotifyはそういうローンチの仕方をしたことがない。日本では自分が分かるような日常生活で伝えないといけない」。

「#絵文字で音楽発見」Twitterキャンペーンとは

昨年11月16日から行われた、「#絵文字で音楽発見」Twitterキャンペーンの概要は以下の通り

Twitter利用者がお好きな3つの絵文字を選び、自由に組み合わせて、その時の気分を表現し、これに「#絵文字で音楽発見」と続けてツイートすると、Spotifyがその時のユーザーの気分に合ったおすすめの楽曲を「Twitterオーディオカード」でリプライする。

「Twitterオーディオカード」で返信された楽曲は、Twitter上で30秒間試聴できるだけでなく、「Twitterオーディオカード」上に表示されるアイコンをクリックしてSpotifyを立ち上げれば、Spotify上でフル楽曲を楽しめる(参照:Spotifyプレスリリース)。

ソバジェ氏は「若いTwitterのユーザー層に『発見』という気持ちをTwitter上で味わってほしかった。広告で自分らのキャンペーンをそのまま伝えることもできたが、若い人にはそれでは響かなかったりする。若い人に体感してもらいたかった」と語った。

自分の気持ちを絵文字3つ

「シンプルさがよかった。『好きな絵文字を入れると意外な曲が出てきた』といわれている。社内の人間で議論して『ハートがあったらこれだよね』とマニュアルで、エクセルのシートのなかにつくっていった。絵文字を3つだけではなくて、絵文字で絵を描いた人がいるくらい。エンゲージメントがとれたと思う」。

「さらに『ファーストビュー』(ユーザーがその日最初にTwitterにログインした時、タイムラインのトップに表示される動画広告)と『プロモトレンド』(広告パートナーがプロモートしているトレンドを最上段に表示する)を媒体として買った。Twitterを開いて最初のところに動画を差し込んで『こうやるといい』と伝えた。テキストだけで説明したらここまで伝わらなかったのではないか」。


上記のような動画が、アプリを開いた最初の段階で1番上に表示される

もちろん、キャンペーンにはチャレンジもあった。「事例がなかったので、うまく曲を見つけて、オートリプライする業者を探すところから始めた。いかに動画で絵文字をSpotifyらしく見せるか。母国のブランドと同じにしないといけない。クリエイティブで困難な部分があった」。

「音楽とともに提供するキャンペーン。音源の著作権がとらないといけなかった。実際キャンペーンがローンチした後、『3つ絵文字を入れないといけないところを2つ絵文字入れた』など例があり、対応を迫られた」。

少し悔しいのが「ピコ太郎」の大波がキャンペーンのリリースのタイミングなどと合わなかった点だ。「『ペンとパイナップルとリンゴを入れたら、ピコ太郎が出る』と期待されたが、対応しきれなかった」。

「ストリーミング」の認知から

ソバジェ氏は「インストールだけではなく認知にも力を注いでいる。Spotifyだけの課題ではないが、音楽配信のことを日本市場はまだ完全に理解していない。音楽を聴くということだと、大手動画サイトが強い。同じカテゴリーではないが、競合として見ている」と語った。

Spotify Japan コミュニケーション統括の万波宏司氏は「各社のサービスがSpotifyより1年から1年半ほど前にローンチされている。ただ、音楽配信は『聞いたことがあるが、使ったことがない』であり、試してもらって楽しみ方を知ってもらう段階」と語った。

日本の音楽配信市場も近年KDDIの「KKBOX」、「レコチョクBest」、サイバーエージェントの「AWA」、「LINE MUSIC」、Apple、Google、Amazonと国内外の企業が参画しはじめているが、依然として市場はしきい値を超していないのかもしれない。

音楽文化進んだ日独がむしろ浸透遅い

プレミアムプランだと3333曲をダウンロードしてオフラインで使える。Spotifyの利用者層は都市居住者が多いという。日本の都市居住者の多数派は満員電車で通勤している。オフラインは電車通勤時の利用に適しているだろう。

「実際利用されている時間帯を見ても明らかに電車通勤時に音楽を聴いているとようだ」。海外市場と利用状況はどう異なるのか? 「そもそも日本に関してはストリーミングの市場が遅れている。60カ国ローンチしてきたなかで、日本と同じチャレンジだったのが唯一ドイツだった。それ以外の国では音楽はスマホで聴くものであり、ストリーミングを使っている。それに対する障害がなかった」。

万波氏は「国によってぜんぜん違う。例えば、東南アジアはデジタルファースト。CDやレコードがなかったわけではないが、市場規模として大きくなかった。デジタルで聴くのが普通だ。日本とドイツは長い音楽文化があり、フィジカルで買って保存したり、レンタルで借りるなどのすでにさまざまな楽しみ方がある。ストリーミングは新しい」と語った。

「モバイルファーストの国では海賊版のストリーミングサービスなどが主流だったりする。音楽業界に貢献できる『Spotify』を利用して、と教育している。日本とは教育の方向がかなり異なる」。

ユーザーの「マイクロセグメンテーション」

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「ジャスティン・ビーバーの『Sorry』をバレンタインの日に42回再生した人へ。あなたは何をしたの?」。米英独仏で行われた。 Via inbound.org

ソバジェ氏はユーザーデータに基いてビルボード広告を出すSpotifyのキャンペーンについても解説した。「マイクロセグメンテーション」という手法を用いている。マイクロセグメンテーションは「さまざまなデータ」をもとに従来型のセグメンテーションよりもより細かく、正確に顧客を分類していく手法だ。

「マイクロセグメンテーションというのですが、『ジャスティン・ビーバーの『Sorry』をバレンタインの日に42回再生した人、あなた大丈夫』というようにピンポイントのデータを使って、ストーリーづくりをした。日本でもユーザー情報が貯まったら行いたいと思っている」。

消費される音楽や、ユーザーの音楽消費の仕方と位置情報などを用いて、極めて細やかなセグメンテーションを引くことができるようだ。

「東京都内でも三鷹でよく聴かれている曲、港区で聴かれている曲、満員電車でよく聴かれている曲などが分かる。(個々に作成できる)プレイリストもとてもクリエイティブな名前が付けられている。Spotifyではなく、ユーザーに光を当てて、ユーザーのコミュニティをつくっていくことを目指している」。

「ミッションとしてファンとアーティストをつなげることを掲げている。海外のアーティストが日本にライブに来るとすると、日本のファンの人達とアーティストが直接会話ができる。データに基いて、例えば『メタリカのファンは札幌に多い』ことが分かれば、メタリカが札幌でライブをするべきだと分かる」。

日本人のアーティストが世界で成功したいときにSpotifyが活躍するようにしたいという。「リオ五輪のときには東京スカパラダイスオーケストラがブラジルのプレイリストに入り、ブラジルでの東京スカパラダイスオーケストラのストリーミング数が5位に上昇した。ブラジルのファンが一気に増えた。ユーザーを増やして、日本人のアーティストが『海外の市場に出ていくにはSpotifyを利用しないといけない』と思ってもらえるようにしたい」。

リテンション×アクティベーション×エンゲージメント

「インストールはお金で買えるものだが、私たちはインストールでビジネスを測っていない。MAU(月間アクティブユーザー数)やWAU(週間アクティブユーザー数)を見ている。いかに訪れた人たちが、その後もアプリを起動して使ってもらうかに注力している。リテンション(継続率)、アクティベーション、エンゲージメントの3つの要素を重視している。このためにはリターゲティングや、教育をしっかり行い、Spotifyの良さを伝えていく」。

「日本人のユーザーにとって『このアーティストがいなければ絶対Spotify使わない』という場合もあるかもしれない。そのアーティストがSpotifyに参加したら、その瞬間その人にメッセージを出せるようにしたりとか、マイクロセグメーテーションによってリタゲをしていくことでアクティベーション、エンゲージメントを高めるていけると思っている」。

Written, photographed by 吉田拓史/Takushi Yoshida