Google謹製アドブロッカーの噂に、恐れ慄くパブリッシャー

GoogleがChromeにアドブロッカーを実装しようとしていると、WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)が報じた。

公的に(記録があるものとして)は、パブリッシャーはGoogleやほかのインターネット企業のオンライン広告の質の向上をめざした動きを歓迎している。だが、内心はGoogleとFacebookのデュオポリー(2社寡占)をさらに許すことになる状態を危惧している。

どこか偽善的な雰囲気も感じられる。デジタル広告の大部分の利益を吸収しているGoogleが、ユーザー体験を損ねる広告の掲載を取り仕切る独裁者になるからだ。しかし、Googleがプラットフォームの主導者になったとしても、検索結果ページの半分を占める広告がなくなることはないだろう。

「自社が擁するホワイトリストがあるため、アドブロッキングに影響されることもなく、さらにパワーを得ようとしているGoogleのモノポリー(1社独占)は狂っている」と、ニューヨーク・タイムズのグローバルデジタルビジネスディレクターのメーガン・ロペズ氏は語る。「広告の世界のアドテク、検索結果表示、取引、計測、サーバー、そしてアドブロッキングと、ブラウザのすべてのアスペクトを網羅しようとする行為は、他者にとってコントロールできる部分がなくなるということだ」。

Googleの考えるシナリオ

まだ公式な発表はされていないが、WSJによれば、Googleの広告に対する基準は同社が創立メンバーを務める委員会、「Coalition for Better Ads(良い広告のための連合)」に準ずるという。つまり、ポップアップ広告、音声つき自動再生動画広告、プレスティシャル広告(サイトを開くと前面に出てくるカウントダウンつき広告)、その他、この委員会が受け入れられないと定めたフォーマットがブロックされることになる。

ほとんどの人はこうした措置に対して反感をもつことはないだろう。しかし、このような基準は雪だるま式に増える可能性はある。それに、プラットフォームへ自由な裁量権を与えたがるパブリッシャーなどほぼいない。

Googleが考えるひとつのシナリオは、サイトに表れるすべての攻撃的な広告を除外することだ。匿名のパブリッシャーによると、Googleは先行してこの取り組みの実施を予定しているという。すでに警戒すべき状態にあるということだ。「我々が掲載する広告がGoogleの基準に沿っていないとして、ブロックされるかどうかこの目で見るのを待っているところだ」と、あるパブリッシャーは匿名で話した。

戦々恐々のパブリッシャー

多くのパブリッシャーは、Web環境をより安全にするこの施策の恩恵に預かれるとはいえ、Googleの支配がより大きくなることに恐れを抱いていないわけがない。「The Coalition for Better Ads」は、Googleの大きなテントといえる。だが、そこに加わるメンバーのなかには、この委員会はまるで、Googleのフロントのような役割をしていると考える者もいるからだ。

多くのパブリッシャーがこのことについてGoogleにコンタクトを取ろうとした。だが、彼らはNDAの決定のもと、アドブロッキングに関することは一切話せないという。この事実から、Googleは自社の影響力がインターネット広告の世界において凄まじいものであることを自覚していると察せられる。

もちろん、YouTubeの広告がアドブロッキングされることはないだろう。しかし、気まぐれで起こり得る恐れもある。「それは恐ろしいことだ」とロペズ氏。「それだけではない。もし彼らが、ひとつの不適切な広告のせいで、サイト全体をブロックすることがあったら、ホワイトリストの意味はあるだろうか。我々はどうやってGoogleの好意を勝ち取ればいいのか」。

政治的な動きにも発展?

この問題は、明確な信用問題に繋がる。少なくとも、デジタル広告の世界ではGoogleは主要プレーヤーだ。不公平にその力を行使することは、規制に抵触する場合もある。もしトランプ政権でそれを問われなければ、もっと厳しいヨーロッパのユニオンが見逃さないはずだ。

もし、誰も何も声を挙げなければ、GoogleのアドブロッキングはWebの環境を整える責務をパブリッシャーに負わせることになる(とはいえ、もしそうなれば、パブリッシャーにとっても広告を売りやすい環境にはなるのではあるが)。

「もし私がパブリッシャーの立場なら、Googleには相応の対価を要求する」と語るのは、Sharethrough(シェアスルー)のプレジデントであり、元Googleの広告担当エグゼクティブ、パトリック・キーン氏だ。「Chromeは市場でもっとも大きなブラウザだ。パブリッシャーはマネタイズを犠牲にしなければならなくなるだろう」。

Googleはコメントを拒否

皮肉にも、Googleはすでに、アドブロックプラス(AdblockPlus)を提供するアイオ(Eyeo)のアドブロッキングサービスにおいて、ホワイトリストを制作する「Acceptable Ads(控えめな広告)」プログラムを有料で活用している。

デニスパブリッシングのデジタル部門マネジングディレクターのピート・ウートン氏は、「Googleはアイオのサービスを使用し続けて、自社の広告枠のホワイトリスト化を続けるだろう」と話す。同氏は続けて、アドブロックの動きがAMP(Accelerated Mobile Pages)のすべてのデバイスでのデフォルト化に繋がるかについて疑問を呈した。さらに今後は、Googleがスポンサードの表記について取り締まる動きを見せるのではという懸念を表す者もいた。

Googleは本件について、「我々はウワサや憶測についてのコメントはしない。適切な広告環境をめざし、『The Coalition for Better Ads(良い広告のための連合)』と業界のパートナーたちと、綿密にさまざまな手段を検討しながら協力している」という声明は発表しているが、アドブロッキングに関する公式なアナウンスはしていない。

ポジティブなパブリッシャーも

アメリカのとあるパブリッシャーは「プレミアムなパブリッシャーにとっては良いことだ。質の低い広告や押し付けがましい広告を排除し、プレロール広告を完全なスキップ可能な広告にしてくれるからだ」と語る。

「Googleはすべての広告を排除しようとしているわけではない。質の低い広告だけだ」と語るのはエクスプレス・ニュースペーパー(Express newspapers)のオーナーで、ノーザン&シェール(Northern & Shell)のデジタルディレクター、サイモン・ハネス氏。「もしGoogleがパブリッシャーとサプライヤーを支配しようとするならば、彼らの仕事はなくなるかもしれない。しかし、そのようなことは起こらない。彼らの仕事は、広告のファシリテーションのうえに成り立っているからだ」。

また、あるパブリッシャーは、Googleが品質の悪い広告をブロックする目的のひとつは、レコメンドエンジンによって収益を上げている、安全性の低い、怪しいWebサイトの広告収益をカットするためだと話す。元Googleの広告担当エグゼクティブのキーン氏も「この問題は、パブリッシャーにとって酸素のように重要な存在である、アウトブレインやタブーラにも影響する。彼らが解決しなければならないことでもあるだろう」と、話した。

求められる新しい対策

とはいえ、もしこのウワサが実現すれば、これまでパブリッシャーが取り組んできたアドブロック対策が無益に終わる可能性もある。ネットマーケットシェア(NetMarketShare)の調査によれば、Chromeはインターネットブラウザ市場の60%を占める。

「我々はふたつのアドブロック戦略が必要になった。ひとつはChromeに対して、もうひとつはその他のアドブロッカーに対してだ」と語るのは、インサイシブメディア(Incisive Media)におけるマガジングループのチーフデジタルオフィサーであり、オンラインパブリッシャー協会(Association of Online Publishers)元会長ジョン・バーンズ氏だ。

多くのパブリッシャーがUXの向上を目指し、ユーザー理解を深めることで、自社メディアがアドブロッキングされるのを防いできた。彼らがとってきたこれまでの対策は、アドブロックユーザーのサイトへのアクセスを遮断したり、ポップアップでなぜメディアは広告が必要なのかをユーザーに諭したり、広告に悩まないためにサブスクライブや寄付をお願いするなどだ。加えて、アドテクベンダーのパートナーを選別したり、ページの読み込み速度を早めるなどの対応もしてきた。

しかし、長いあいだ押し付けがましいと思われてきたポップアップ広告は、Chrome上でブロックされることになる。インサイシブメディアのバーンズ氏は、ポップアップでアドブロックの解除を訴え続けているパブリッシャーはそれすらブロックされるため、ほかの対策を考えなければならないと懸念する。「なぜエコシステムに深く組み込まれたブラウザを提供する企業が、すべての決定権をもとうとするのか?」。

アドブロックの行方

ひとつ明確なのは、Googleが何をしようと、アドブロッキングは業界の注目を集め続けるということだ。

「こうしたインターネット環境の発展が続く一方で、プログラマティックで見られる質の悪い広告と戦うために、何がもっともベストな環境なのかについてはハッキリしていない」と、ガーディアンニュースアンドメディア(Guardian News and Media)の最高売上責任者のハミッシュ・ニックリン氏は語る。「良い取り組みのひとつではあるが、デジタルエコシステムの問題すべてを解決するものではない。我々は、広告とジャーナリズムを切り離した状態を望む読者にサービス提供しつつも、良い広告が質の高いジャーナリズムを支える、という環境で読者と繋がっていかなければならない」。

Jessica Davies And Lucia Moses (原文 / 訳:中島未知代)
Image from 米DIGIDAY