「note」が目論む、誰も損をしないビジネスモデルとは?:メディアジレンマの解消方法

インターネット誕生以来、コンテンツホルダーはネットでの収益化に頭を悩ませてきた。膨大なトラフィックを集めても、サブスクリプションモデルなど広告以外の収益モデルを確立しなければ質の高いコンテンツを作り続けることは難しいのが現状である。

noteによる新しい挑戦

この大きな溝を、社員20名ほどの日本企業、ピースオブケイクが埋めにかかる。同社CEOの加藤貞顕氏は、もともと出版社で雑誌や書籍の編集者だった。インターネットに押される紙媒体と、マネタイズに悩むデジタルメディア双方が抱えるジレンマを直接肌で感じてきた。

「これだけコンテンツがデジタルに置き換わっているにもかかわらず、インターネット全体で平均すると広告単価は0.1〜0.3円ほど。昨今話題になったキュレーションメディア問題のように、仕入れ値を下げて量産する仕組みは理論的にはありえても、メディアはそもそも信用がすべて。そうではなく、課金や広告などさまざま手段で売上を上げる方向で、デジタルコンテンツ産業全体が豊かになる仕組みを作りたいと思って会社をスタートさせた」と加藤氏はいう。

メディアやクリエイターなどのコンテンツホルダーと、そのコンテンツにお金を払ってでも読みたいと思うユーザーを結びつけるプラットフォームが彼らのサービスのひとつであるnoteだ。ここでは、コンテンツホルダーがテキスト、画像、動画、音声ファイルを簡単にアップできると同時に、1記事単位でも定期購読でも課金を自由に設定できる。

マンガ『うつヌケ』の事例

この柔軟な仕組みが、新しいユーザー体験、そして、クリエイターや出版社にとっては新しい価値を提供する。最近もっとも注目された事例は、漫画家の田中圭一氏の自身の体験による漫画コンテンツ『うつヌケ』だ。

この作品は、KADOKAWAの電子雑誌「文芸カドカワ」誌上で連載が決まったものの、同社規定の原稿料だけでは田中氏が創作を続けていくのは難しかった。文芸カドカワ編集長の金子亜規子氏の判断は、noteでの同時掲載だった。noteでは4話まで無料、それ以降は1話100円の課金だ。ただ、書籍刊行時にその電子版とnoteは競合商品になり得るため、不安がなかったわけではない。「他社と原稿料のシェア、いわば共同出資という新しいスキームを試してみたかったこと、そしてKADOKAWAとcakes、2つのチャンネルで告知が可能になることでそれを上回るメリットがあるのではないかと思い、踏み切った」と金子氏は振り返る。

Cakesの派生コンテンツプラットフォーム。note上での田中圭一さんの作品掲載ページ。

Cakesの派生コンテンツプラットフォーム。note上での田中圭一氏の作品掲載ページ。

6万人を超えるTwitterフォロワーを抱える田中氏は、note、文芸カドカワのそれぞれの連載の配信日には、積極的に告知を行った。ふたをあけてみれば、noteだけで数百万円の収益となり最低原稿料保証を軽くクリア。著者にも原稿料以上の収益が入った。

誰も損をしないモデル

電子雑誌の文芸カドカワだけでなく、連載をまとめた単行本は、発売1カ月で4刷がかかりすでに5万部を上回った。単行本の電子書籍版のほうも期待を上回るダウンロード数を達成。ひとつの作品が、4つのチャネルでユーザーとの接点をもち、すべてが好調という結果になった。

「面白いものをつくり、チャネルがいろいろあることで読者の選択肢も増える。このビジネスモデルは誰も損をしている人がいない。我々も著者もそれを実感している」KADOKAWAで田中氏の単行本を担当した菊地悟氏もそう語る。

背景には、絶妙な編集感覚もあった。各4つのチャンネルで最終話の8ページを描き下ろしてもらったので、内容はすべて違う。noteでまとめ買いをした人向け、文芸カドカワの連載向け、単行本向けとその電子版向けと、それぞれに最終話の8ページが個別に書き下ろしされ、そのことが話題を呼び、単行本のさらなる売れ行きにもつながった。また、noteだけでなくピースオブケイクが運営するもうひとつのプラットフォーム、cakes(700名以上のクリエイター、50社以上の出版社と提携してコンテンツを配信)での対談連載も好評で、そこからの集客も奏功した。

「うつヌケ」単行本の書影。田中圭一氏のnoteページから。

「うつヌケ」単行本の書影。田中圭一氏のnoteページから。

「あくまでもプラットフォーム」

noteではすでに年収数千万円というクリエイターも存在する。とはいえ、収益化だけがクリエイターたちの目的ではない。その使い方はいろいろだ。たとえば、『嫌われる勇気』の著者、古賀史健氏は、その使い勝手のよさが気に入り、課金はせずライターとしての姿勢や態度を知ってもらう場として毎日noteで情報発信している。ミュージシャンのくるりは、月額300円のファンクラブをnote上に置く。ファンとの交流ができるのもnoteの特徴のひとつである。

個人や技術的なバックグラウンドを持たないコンテンツホルダーが、ゼロからサイトを立ち上げ、課金の仕組みをつくり、プロモーションコストをかけてユーザーを集めるのは不可能に等しい。noteができたことで、それぞれの目的にそって作りたいコンテンツに集中できる環境をもてる。それは、ユーザーにとっても喜ばしいことだ。

主役はあくまでクリエイター、そしてユーザー。ピースオブケイクでは、技術面でもAIを導入し、さらに双方に使い勝手を改善していくことに心をくだいている。「noteの運営者としての我々は、あくまでもプラットフォームであり、メディアをつくろうとしているのではない」と加藤氏はいうが、元編集者として深くメディアを理解し、クリエイターに寄り添う当事者意識が「誰も損をしないビジネスモデル」を作り上げているのは間違いない。

そして同社は、このプラットフォーム上でのビジネスをさらに広げるべく、電通、TBS、そしてイードと立て続けに資本提携を行っている。そこから読み取れる同社の将来戦略は次の機会にまとめてみたい。

Written by 矢野貴久子
Photo by GettyImage