ロボアドバイザーが個人と世界経済をつなぐ:お金のデザイン北澤COO

これまで富裕層や機関投資家が享受してきたプロの資産運用を、独自開発のアルゴリズムによって、10万円から誰でも利用可能にする個人顧客向けロボアドバイザー THEO[テオ]。低成長、高齢化社会という不安要因があるなか、世界各国の上場投資信託(ETF)への分散投資により、資産を保全・形成する方法を提案する。

デジタルマーケティングの世界でも、Googleのアドワーズ、ディスプレイネットワークなどによりデジタル広告出稿の機会が、法人から個人へと大きく広がった。現在はさまざまな買い付けプラットフォームに接続するソフトウェアが誕生し、アルゴリズムに拠る買い付けの自動化が試されている。

富裕層にのみ門戸の開かれたプライベートバンキングをロボットアドバイザーにより、一般化するアプローチは、いわゆる「パーソナライゼーション」の先行例とみることができる。抽象性の高い金融の世界で起きた変化が、アドテクという形で一度マーケティングに大きな変化をもたらしたが、フィンテックが達成することは今後、それ以外の世界に何をもたらすだろう。

9月13日に総額約8.1億円の第三者割当増資を実施し、利用者を拡大するTHEO[テオ]の運営会社「お金のデザイン」COOの北澤直氏に話を聞いた。

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――ETFも銘柄は多いと思いますが、将来的には個別銘柄も買うことは検討していますか。

ETFでなぜ運用しているかというと、僕らのいまの提供しているサービスって、本当、分散投資でインデックス買いました、ではなく、結構それを機関投資家とか、本当のプライベートバンクはもっと機関投資家たちのプロがやっています。失われてはいけない資産の運用を、いかにアルゴリズム使って、一般向けサービスにするかにこだわりました。そうすると、たくさんの銘柄数を置かなきゃいけなくて、個別で買っていくと、それなりのプールが必要になってしまうので、そういう意味では、僕たちみたいないまのサービスを提供するには、ETFは不可欠でした。

一方で、僕たちはこれをエントリーモデルとして考えていて、資産運用っていうことに対する距離感や不信感ってまずあったと思います。自分がなくしたくないと思っているお金は、コストが低く、ちゃんとしているアドバイザーに任せたい。個別銘柄も、面白いかなと思っています。僕たちには金融工学の知見もあるので、本当にどこに出しても恥ずかしくないぐらい、ノウハウが詰まっています。結構アクティブな資産運用にしても実現は可能です。

――よりパーソナライズされた投資も可能になりますか?

それこそ、マシンラーニング使って何ができるかは検討はしています。現状はできないのですが。データマイニングを研究対象にしています。もともと野村で運用をやっていた人なのですが、京都大学の加藤康之教授と協働しています。

加藤教授はパーソナライズについて積極的です。どうやれば、一人一人違った運用ができるかという話や、あとは、第何次かのブームになるか分かりませんが、AIというか、機械学習的なところをどれだけ活用できるかは結構研究しています。僕たち、ロボアドバイザーを最初にはじめたたうちの1人だと思っているので、できるだけテックカンパニーとしては新しいものをどんどん出していきたい。

テックっていうのはたぶん僕らのなかでは、いわゆるエンジニアリングというところもありますし、金融工学、フィナンシャルエンジニアリングというので、どっちも合わさって何ができるかになります。スキル的な運用だったり、個別銘柄使って、もうちょっとエッジの立った商品作ったりなど、そういうのは考えています。

――かなりたくさんの個人投資家のプレイヤーが、同じアルゴリズムで動いているのは少し変な気がします。

2つポイントがあって、ひとつはまだそんなに僕らのサイズが大きくて、市場にインパクト与えるほどではないこと。もうひとつは、いまの僕たちの方法はパッシブ投資と言います。まずマーケットと逆の動きをしようとか、反対が、マーケットの動きの予測を立てて、感度早く動いてやろうというのを、アクティブ投資といいます。市場経済の動きより常に上に行ってやろうっていうのがアクティブ投資で「これと同じことをやろうよ」というのがパッシブ投資です。

これに、最近の金融工学で言われる「スマートベータ」というんですけど、そういうリスクを取ると、通常よりちょっと上ぐらい行きますよね。「これがいいよね」というのが僕たち。過去の数値を鑑みた上で、いま、最適な資産配分って何かっていうのをアルゴリズムが判断して、その分量で個々の顧客のポートフォリオを買っていくのがいまの手法です。60億人がTHEOを使うようになれば、少し考えなくてはいけませんが、いまのようなご懸念は発現しません。

――面白いですね。

ただ、ヘッジファンド的な動きとか、アクティブ投資とかを組み入れることになると、確かにちょっとした動きが他のマーケットの他のプレイヤーでも追われることになり、マーケットメイクしてしまうかや、逆に流動性を弱くしてしまうこともありうる。自分たちの買いたいものを買いたくても、自分たちのパイが大き過ぎると、値動きが激しくなってしまうので、その分だけ売りと買いの値幅が激しくなって、逆に僕らが取引するときにコストが高くなるっていうような話は出てくるとは思います。

――御社の製品には関係ないですが、個人にアルゴリズミック・トレーディングが広がっていくとすると、すごい複雑化します。とても複雑なことがいいことなのか、どうなのか。

全体的なマーケットとしては、ああいうのは誤差を埋めてくれる、畑を奇麗にしてくれるミミズのようなもので、ボラティリティ(価格変動性)が高い市場でそれがされると、そこが埋まります。裁量取引は、常にそこのボラティリティを減らす役割になります。ただ、本来的にどこまで検証されたかという部分は残っていますが。

自動的にアルゴリズムのモデルを人の介在なしにどんどん進めてしまうと、確かに変なところに行って、バグみたいになって、すごいトレードを発生させちゃうみたいなことももしかしたらあるかもしれないというのが、いまの弊害かもしれません。

それは結局、起こってみないと分からない。ストップを掛けようにも、異常値であることを判断できてないからやっているわけで、それを異常値と判断するプログラムを作るべきだという話。だからこそ、トレーディングボリュームとかで、マーケット、取引所自体がトレーディングを制限したりとかもあるべきかもしれません。

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「お金のデザイン」COOの北澤直氏

何が言いたいかっていうと、そういうのっていままでは、資本力があるか、技術力がある人しかできなかったのです。証券取引法などの法律がいろんな国にあるんです。日本だと金融商品取引法と言います。そういう法律では、絶対に取引所は公正であるべきで、透明性はとても高くなる必要があるとなっている。でも実際は、バトルフィールドを見ると、すごいバズーカを持っているプレイヤーがいるなかで、一般人は竹やりで戦っています。技術力や資金力の差が、圧倒的にものを言うという構図ができていて、僕たちの動きは、そこをなんとか埋めたいっていうことです。まずはパッシブ運用から。

でも、もっとそうやってマーケットを作り出すぐらいのハイフリーケイシートレーディング(ミリ秒単位で執行される取引を繰り返す高頻度取引)をやっているプレイヤーがいて、統計だと、アメリカの取引所とか、6割7割ぐらい自動運用をやっているというふうに言われているなかでも、ひとつ僕らがやりたいのは、そういう利ざや稼いで儲かっているところも、もしかしたら一般的なサービスになるかもしれません。

――どこまでパーソナライズさせようと思いますか?

もともとやりたかったのは、資産運用なんてする暇、皆さんないですよね。そんな時間があれば、資産運用を本職にするわけで。でも、銀行に置きっ放しにしていると、あれってまずいよねという感じで。じゃあ、どんな、いまって任せて安心な資産運用の手段があるかというと、実はあんまりなかったりして、そこを直したいというのがいままでの思いだったんですね。

その人たちに、「これあげるから戦場にちょっと行ってきてください」というところまでは、いまの僕たちのビジネスモデルではないと思っています。でも、アクティブ運用をするための業者もいるのです。いわゆるヘッジファンド。彼らを使うのはすごく高いんです。それを僕たちが使いやすくするのは考えています。

――エンジニアの比率は高まっていますか?

このあいだ、アメリカの結構著名なフィンテックプレイヤーのエグゼクティブと会食したとき、彼はこう言っていました。「ゴールドマンサックスとか、JPモルガンが『うちはテックカンパニー、4割以上はもう技術者だ』と言っているが、スーパークールなエンジニアは金融業界には行かない」。みんな、シリコンバレーに行くらしいのです。シリコンバレーでも、フィンテックって別にファイナンスっていう感覚がなくて、もうテックカンパニーだと思われているので、何か新しいことできるとか、自分で主体的に物事を解決できるとか、そっちに魅力を感じて。

金融機関ではビジネス中心でまずビジネスがあって、「じゃあ、君たちやって」みたいな感じで、技術者は労使関係の使われるほうになってしまっているという状況がずっとあったと思います。うちも2013年に会社創って、最初の頃は金融工学関係の人は入ってきますが、イケてるエンジニアが最初は「金融でしょ?」みたいな、「あんまりいい話聞かないんで」ということが結構ありました。

それでも、「僕たちはこういう世界作りたいんだ」と一人ひとり口説き落として、フィンテックの動きとかも出てくるなかで、ようやくだんだんと、「いいじゃない、お金のデザイン。話聞いてみようよ」みたいな感じに変わってきました。

――データをどう活用しますか?

データベースがすごく貴重なところっていうのは、人の投資行動とか、人の活動で、いまの自分が置かれている座標軸がある程度分かるというのはあると思います。いま、僕たちの資産運用をやりましょうよとなり「楽しそうですね。僕っていま、貯金100万ありますが、いくら入れたらいいでしょうか」って聞かれると、そこに対するソリューションはない。でも、トランザクション情報やプロファイルがあればある程度類型化されて、その質問をした方と似たようなグループと重なり(ルックアライク)、どういう投資行動をしているかとか、どういう資産を持っているかは結構普通に考えられます。

データセットとのマッチングはなかなか難しい。奇麗な言葉で言うと、ノイズが多過ぎるっていうだけですけれども、そこまでをちゃんとファクタリングして、一つひとつ組み合わせていって、それを解析して、自動的にモデルを更新するところまではまだ行き着いていません。仮説立てて、その仮説を検証するかどうか代わりにやってもらうぐらいです。

――個々の人が持っているポートフォリオを合算した形で、御社のポートフォリオという形に一応なっていますか?

イエス・アンド・ノーですね。オーダーを出すときにはそうしています。ボリュームが大きいと安く済みます。

階層クラスター分析を使って、THEOの利用者に一人ひとりに何%ずつ重視しているかを聞きます。そうすると、たとえば、株が60%、債券が20%で、コモディティー20%になるのです。株を合算すると、株のでかい元気玉ができる。債券も、コモディティーも元気玉になっているが、人によってもっている幅が違うという仕組みになります。裏ではこだわっているんですが、ユーザーに説明するべきかという話もあります。

――そこが収益化のひとつのポイントになっているのですね。

ボリュームができると、トランザクションコストがとても下がります。でも、本当に難しいんですよ。特に月の初めって、全部の資産を1回リバランスって言って、1カ月で最初に60、20、20と分けていたものが、60、17、20になってしまいます。値動きがあるから。それをもう1回、削って、買ってを繰り返すことになります。それをアルゴリズムが全部やるのですね。

まず1回、いくら買わなきゃいけないかを判断して、それを集めて元気玉を作るじゃないですか。それを、お金作って買いに行ったり、売りに行ったりっていうのをしますが、お金がちょっと余ったりとか、買い切れなかったりとか、いろんなことがある。

もう一回アルゴリズムがモデルに回して、個々の顧客のところにそれを全部分配して、埋め切って、もう一回どのぐらいずれているのか判断して、それがもう一回、また小さい元気玉ができて、それ売りに行ってを何回か繰り返すとことをアルゴリズムでやっているんですが、これ、人間がやるとしたら無理ですね。数千人ぐらいユーザーがいるなかで、それはできないですよね。

――貴社のコマーシャルを拝見すると、日本は高齢化社会だし、金利も低い。海外に分散投資すべきだと訴えています。

ぼくも、経済活動も、生活も、本拠地は日本で、日本人ってそんなに別に海外に職を見つけて行くことはできない。自分の本業は日本にベットしているなかで、自分の持っている資産を、たとえば、円による金利を受けたら、それって日本経済にベットしている。ただ日本のマクロ経済要因は弱いんです。実際に新興国の7〜8%みたいな経済成長率とは異なって、日本は本当に1%越えたら大もうけです。

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しかし、資産運用しようとなると「面倒くさいし、本を読んでも分からないし、敷居も高そうだ」。そこで終わっていたところを、僕たちがハードルを下げると、一般の人も、若いときから世界経済にベットして、資産運用できるようになるのです。

Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock