Twitterのライブ動画がテレビを招き入れる背景:Periscopeケイヴォン・ベイポーCEO

動画のモバイル視聴は年々拡大しており、人々の生活のなかで存在感を高めている。

モバイル動画にはアーカイブ型とライブがあり、いわゆるモバイルライブ動画(モバイルライブストリーミングビデオ)は2015年頃から米国でトレンドになった。2016年にはFacebookも参入、日本でもLINE、Abema TVなどが事業展開し、極めて激しい競争が繰り広げられている。

モバイルライブ動画プラットフォームのPeriscope(ペリスコープ)は2014年に創業。翌年スタッフ5人の体制の際に1億2000万ドル(約120億円)でTwitterに買収された。Twitter傘下で3月にローンチすると、同年8月にはアカウント数1000万まで成長した。Meercat(ミーアキャット)、YouNow(ユーナウ)などの競合に差をつけた。

リアルタイムに配信され、チャット、ハートを押したりしてお互いに反応し合って楽しむ新しいコミュニケーション。Periscopeは2016年はじめにTwitterに統合されており、Twitterアプリ内でPeriscope動画を視聴できるようになっている。

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Periscopeのアップデートに関するライブ動画(デスクトップのPeriscope TVからキャプチャ)。左側に閲覧者のチャットが逐次更新される。右側のハートは視聴者が無制限で送ることができる。

Periscopeの創業者/CEOで、Twitterの動画周りのまとめ役でもあるケイヴォン・ベイポー氏は10月中旬の日本滞在時にDIGIDAY[日本版]の取材に応じた。ライブ動画にどのように広告を挿入するかが、今後のプラットフォームの収益化の重要な道筋になるが、ベイポー氏はPeriscope Producer(ペリスコーププロデューサー)で高質な制作環境の動画に道を開き、同時に動画広告の展開を進めていると明らかにした。

テレビの高画質動画をモバイルに

ライブ動画にはふたつの流れがあり、ひとつが著名人やプロ制作陣によるライブで「ネット版テレビ」。もうひとつが「一般人による一般人のためのライブ」だ。Periscopeはスマートフォンから簡単にライブ動画を配信できるアプリとして後者からスタートしたが、Periscope Producerにより高画質ライブ動画をモバイルに配信できるようになり、前者を加えにかかっている。「簡単な手続きを行うだけで、Periscopeに高画質な動画を配信できるようになる」とベイポー氏は語った。

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「Periscope Producer」を説明するベイポー氏(撮影:吉田拓史)

ベイポー氏はさまざまな例を挙げた。マイクロソフトのゲーム機「Xbox One」でのゲームプレイ、日本の京都国際映画祭、米メディア主催のカンファレンスなどだ。米国大統領候補討論会では、多くの媒体が多言語で、さまざまな視点からライブ放送を行った。ポルトガル語の中継では、ポルトガル語を話す米国人の視点で討論を解説するなど「粒の細かいブロードキャスト」ができるという。ほかにもSky News、Xbox、Univision、FOX、 ディズニー、ABC NewsなどがPeriscope Producerを活用、あるいは活用を予定しているという。

テレビ事業者にとっては、テレビ放送やイベントを独自に収録している際に、ライブ動画の流通を同時に行えることを意味する。モバイルファーストな若年層にタッチする機会が増える。他方、広告主にとっては動画というリッチコンテンツによりモバイルでブランディングする機会が拡大することになる。

利用時間はインプに勝る?

ベイポー氏はモバイル動画とテレビの違いについて「Periscopeとテレビの違いは、視聴データが正確にわかる点だ。テレビの場合はリビングルーム、スポーツジム、レストランで点けられているのは分かるが、人が観ているかは分からない」と語った。「多くの動画プラットフォームは動画閲覧数を大きく見せたいと考えるだろう。Periscopeはビュー(閲覧数)ではなくビューワー(閲覧者数)をカウントするようにしている」

「もうひとつは利用時間。どのくらいの人間が観ているかと同時にどのくらい長く観てもらえているかが分かるようにしている」。時間によるアプローチにはさまざまな類例があり、フィナンシャル・タイムズはcost-per-hour(CPH)を活用している。時間はアテンション(注目)を示す指標として考えられており、人々が膨大な量のコンテンツに無意識に触れる現代には、アテンションはよりコンテンツの価値を測るのにふさわしいかもしれない。

「業界では多くの人がビューを活用する。なぜなら数を多く見せるのが簡単な方法だからだ。インプレッションはどれくらいリーチしたかを測ることができる。だが、ファネル全体を見ることが重要であり、インプレッションはファネルのほんの最初の部分に過ぎない。我々はインプレッションがどう閲覧者数に変わったか、一定時間以上閲覧に費やした閲覧者数はどのくらいかを確かめたいと考えている」。

「ツイートを見るのはインプレッションだ。しかし、(元有名テニス選手の)アンディ・ロディックのライブ動画の際に流れたプレロール広告(視聴前動画広告)を観るのはインプレッションに留まらないだろう。視聴者はそのブランドのことを考えるからだ」。

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全米オープンの試合を実況解説しながら、ユーザーからの質問に応える元有名テニス選手のアンディ・ロディック(Via Periscope TV)

Periscopeはほかのライブ動画配信事業者と同じように、動画広告の可能性を模索している。元テニスプレイヤーのアンディ・ロディックが今年の全米オープンをPeriscopeで中継し、企業がスポンサーする。ライブ動画の前にプレロール広告が挿入された。「ロディック氏はライブ中にスポンサーに触れたが、これはブランドマネージャーにとって黄金の価値があったはずだ」。

ベイポー氏はTwitterの動画の取りまとめ役でもある。「我々はグローバルでライブコンテンツについて、広範な領域で兆候を感じている。ひとつがアメフトのNFLだ。数千万の人がNFLゲームをみている。数百万の人がツイートした。だから我々はTwitterでNFLを配信している。NFLのほかにも大統領候補討論会などさまざまなコンテンツが配信されている」。

「京都国際映画祭、TechCrunchのカンファレンス、NFLなどアドネットワークによりターゲティングされた広告を配信できる。Periscope Producerを活用して配信された高画質な動画は、動画広告にふさわしいスペースになる。ライブ動画の利用状況を見極めたうえで、広告をどう配信するか考えたい」。

なぜ2015年が「モバイルライブ動画元年」になったか

PeriscopeがTwitter傘下でローンチしたのが2015年。ベイポー氏は2015年がモバイルライブ動画の年になったのはソフトウェアとハードウェアの進化が大きいと指摘した。「モバイルライブ動画には動画をデータに置き換え、置き換えたデータを動画にするプロセスが要るが、これにはマシンパワーが求められる。2014〜2015年までのiOSとアンドロイドのデバイスはこれをレイテンシ(遅延)なしで実現する能力があまりなかった」。

「インターネットの速度だ。ライブ動画が必要とする帯域幅が3〜4年前にはなかった。さらに社会的に、文化的に人々がモバイルを使い、体験をシェアするということが浸透したのは最近だ。もし10年前にiPhone7を使って、自撮りをしながらモバイルの向こうとコミュニケーションをとっていたら、『何をやっているんだ、あの人は変だ』となっていただろう」。

米国と日本は2020年の5G(第5世代移動通信システム)導入をめざしている。

「高速インターネットは極めて重要だ。どんなにモバイルの性能が良くても、ネットワークコネクションが速くないとライブ動画は視聴できない。実は、アメリカはインターネットの速度では日本、欧州、ブラジルのような国の後ろにいる。アメリカのような国でもPeriscopeが支障なく動くか、いつも留意している」。

ネット速度の遅い国でもライブ動画が動くような開発も行っているという。「3Gすらないネパールの地方のような場所でも、Periscopeが楽しめるようにしたい。Periscopeは世界中のどこでもテレポーテーションできることをめざすプロダクトだ」。

Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock