モバイル動画が世界を覆い尽くす:2020年にデータ通信量の75%

デジタル動画の主戦場はデスクトップからモバイルに移転した。モバイル動画はコミュニケーションの手段になっており「いつでも・どこでも・誰でも」触れられるようになった。2015年がテクノロジーのティッピング・ポイントとなり、インフラが整ったことで、動画トレンドは本物になった。Facebookのような巨大プラットフォームにも転換を迫っている。

「力強い時期が一巡した後は、売上高成長率の減少を予測している」。Facebook CFOのデイビッド・ウェフナー氏は11月2日(米国時間)、第3四半期決算(Q3)で語った。収益は前期比56%増の70億1000万ドル(約7200億円)と好調だった。しかし、ウェフナー氏はFacebook/インスタグラム内に表示できる広告数は上限に達しており、2017年半ばごろから広告が収益の牽引役としての機能を少しずつ減らしていくと語った。取引する広告主数は増加しているが、在庫数や単価を大幅に改善する方策は残っていないようだ。

仮にフィード内の広告数を増やしていくとユーザーの嫌気を招き、Facebookの強さの源泉である滞在時間に響く可能性がある。モバイル普及が進み、個人所得が成長する最中のアジア太平洋、アフリカのユーザーがFacebookの広告事業に貢献するにはまだ時間がかかる。

主要な新規投資は動画

このため、Facebookは今後、新規領域への投資を拡大し、新しい収益源をつくることに資源を集中させるかもしれない。WhatsApp(ワッツアップ)は今年2月、月間ユーザー数(MAU)が新興国中心で10億人を突破したが、まだ一銭も生み出していない。Messenger(メッセンジャー)のトップ、デイビッド・マルカス氏は元PayPal CEOのため、テンセントがWeChatでそうするように、Messengerに決済を載せようとしているとも言われる。

だが、直近の主要な投資先はビデオ(動画)だ。マーク・ザッカーバーグ氏はQ3で「今日の大半のソーシャルアプリのなかで、テキストはいまもシェアの通常の方法だ。『カメラ』が主要なシェアの方法になると信じている」と語った。カメラを利用した表現方法のなかでいま急速に拡大するのはもちろん動画だ。Facebookは動画投稿を可能にし、今年4月にはライブ動画を開始した。ただ、この分野にフィットするアプリが若者の支持を取り付けている。ひとつが傘下のインスタグラム。もうひとつがSnapchat(スナップチャット)だ。Q3ではザッカバーグ氏はSnapchatの言葉を出すことなく、カメラ、動画などの単語を多用することで、Snapchatを意識していることを感じさせた。

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Facebookの収益は順調に成長してきた(Q3資料より)

Snapchatは動画や画像のシェアの仕方を再定義した。米国のミレニアル世代の特に若い層は閉鎖的なアプリを好み、短時間で簡潔に動画や画像を製作する環境を得て、それで親しい人とコミュニケーションをとる。Snapchatは急速に米国のミレニアル世代に浸透した。日間デイリーユーザー(DAU)はSnapchatが1億5000万人に対し、Facebookは単体でも11億8000万人と8倍のユーザーを誇るが、Snapchatは若くて新しいコミュニケーション方法にアドバンテージがある。

動画はモバイルで視聴される

ビデオはモバイルで視聴されるものになっている。モバイルライブ動画を手がけるLINE執行役員の佐々木大輔氏やTwitter傘下Periscope(ペリスコープ)のケイヴォン・ベイポーCEOは、モバイル動画が普及するためのデバイスとネットワークというインフラが整ったと指摘している。

近い将来、動画はモバイルを制圧する。シスコの統計によると、2015年にはモバイルデータ通信量の55%が動画に利用されている。2020年にはモバイルデータ通信量の75%が動画に利用される見通し。さらにユーザーの通信コスト負担を軽減するWi-Fiの利用は拡大する。

さらに同調査は2015年に4G接続のシェアは14%に過ぎないが、4Gで消費されるモバイルデータ通信量は全体の47%に達しており、はじめて3Gを抜いた、としている。つまり接続数で14%にすぎない4Gで、大きなトラフィックが消費され、そこには動画視聴が含まれていると想定できる。2015年に5億6300万台のネット接続されたモバイルが社会に加わっており、世界的に通信のレベルは向上している。GoogleやFacebook、マイクロソフトなどは世界の通信環境を改善するためインフラ、ハードウェア、ソフトウェアに投資している。

シスコのリサーチは2020年をこう予測する。

  • 一人あたりのネット接続されたモバイル機器数は5台
  • スマホ利用の拡大により、スマホはネット接続の5分の4を占める
  • 2020年に4G接続がトップシェア
  • 2016年に4Gモバイルデータ通信量は過半に達する

上記のような環境、トレンドのなかで、米国ではモバイルにテレビと同様のクオリティの動画コンテンツを配信するビジネスに巨額投資がされている。投資するのはテック企業だけではない。通信企業がメディア広告企業を買収し、動画に打って出るケースも出ている。米通信大手Verizon(ベライゾン)はAOLと米Yahooの買収を進め、米通信大手AT&Tはタイム・ワーナーを買収すると発表した。両社ともモバイル動画プラットフォームを保有、開発しており、コンテンツもモバイル利用者のデータも抱えている。通信の基盤部分からアプリケーションまでを貫通するビジネスモデルを築こうとしている。

こういう環境下で「コミュニケーションのための動画」でSnapchatは親しい友人らが動画や画像で戯れる方法を開発した。Snapchatの日間デイリーユーザー(DAU)は1億5000万人で、Facebook単体の11億8000万人には遠く及ばない。しかし、FacebookはこのSnapchatのクローン機能を組み入れている。Facebookの強みは人々のモバイルアプリの利用時間の多くを占めていることで、コミュニケーションごとSnapchatに遷移することは避けたい。若年層がFacebookを利用しないか、利用しても認証用でFacebook本体ではアクティブではないケースが出てきている。くくり方には議論があるが、メッセージングアプリのユーザー数がソーシャルアプリより2015年頃上回ったというBIインテリジェンスのリサーチもある。

動画にフィットするSnapchat

Facebookは2013年にSnapchatから買収提案を断られて以来、Snapchatに類似した機能のテストを断続的に続けてきた。2016年3月にSnapchatライクな動画フィルターMSQRDを買収したところからその傾向が強くなり、Snapchatが時価総額250億ドル(約2兆5000億円)で来春上場を憶測されるいま、臨戦体制に突入した。Facebookはハロウィン向けにFacebookライブ動画の新機能「Masks」をリリース(下図)。これはPeriscopeも追いかけ、米大統領選候補のマスクを採用した。

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Facebookライブ動画の新機能「Masks」をリリース(Facebookより)

インスタグラムは8月にSnapchatのストーリーに類似した、24時間で消える動画を開始している(下図)。

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トップ画面にセットされているインスタグラムの「ストーリー」(インスタグラムより)

米テックメディアThe Informationによると、Snapchatは10月初旬ごろ、プログラマティック入札のAPIを公開した。Snapchatは今年3億ドル(約300億円)の収益目標を超える勢いで、来年の目標は10億ドル(約1000億円)だ。この自動化された広告プラットフォームはパートナーとの協力を容易にし、GoogleとFacebookの2強が成功する、スケーラビリティ(拡張性)の高い広告取引の仕組みだ。

発展途上国ではモバイルが水と電気の次にあたる生活必需品になっている。リサーチ企業GSMAによると、人口の多いサハラ以南アフリカでは、保有されるスマホ台数が、2015年の1億4000万台から2020年には5億4000万台に上ると予測される(下図)。100ドル台のスマホがこの急伸の理由だが、安価なスマホの質も年々向上しており、動画に対応できる。

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2015年の1億4000万台から2020年には5億4000万台(GSMより)

このような地域では、子どもが最初に接する動画が、モバイルのものになる可能性は大いにある。モバイル動画は誰でもどこでも動画を利用できるようにした。ユーザーによる動画の製作と消費は拡大の一途をたどるはずであり、業界はこの状況を織り込む必要がありそうだ。

Written by 吉田拓史
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