LINEが通信キャリア事業に参入した理由

LINEは9月に「LINEモバイル」で通信キャリア事業に参入した。プラットフォームであるLINEがキャリア事業を展開する狙いとして、「安くて速い通信」の提供、LINEプラットフォームに載るユーザーを増やす、キャリア決済の獲得、ユーザー利用状況に関する情報の把握などが想定される。

MVNOは小売り、ネット企業、ベンチャー、キャリアなどがしのぎを削る領域。LINE上場時に示された、コミュニケーションを柱に周辺サービスを築く「スマートポータル」というビジョン展開にキャリア事業は必要不可欠のようだ。

LINEモバイルの嘉戸彩乃社長はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、「そもそもLINEをフリーにしたのは、音声通話とメールが定額になり、じゃあ次は何かとなった。LINE、Twitter、Facebookを定額にしようとなった」と語った。Facebookがインドで展開したフリーベーシックとの類似性について質問されると「Facebookのフリーベーシックはインターネットの窓口は自社というものだった。LINEモバイルはLINEの利用者を増やすためのものだ」と話した。

ネット体験と自社プラットフォームを結ぶ

フリーベーシックは途上国で通信事業パートナーのユーザーに対し、データ料金を課金せずにサービスを提供するプログラム。利用できるのは、ニュースサイト、天気予報、医療情報に加えて、FacebookとMessengerも含まれる。途上国の低所得者層にコネクティビティ(ネット接続)を提供する面がある一方、Facebookプラットフォームをネット体験のデフォルトにする目論見と指摘される。

プラットフォームが通信事業に参入することは以前から議論があり、Googleは昨年、提携キャリアのLTE網と100万以上のWi-Fiスポットを利用できる高速ワイアレスネットワーク事業のProject Fiを開始した。寡占状態のキャリアは、高収益を維持したいため、「安くて速い通信」を提供しようというインセンティブが生じにくい。しかし、プラットフォームは自社のサービスを活用してもらえばもらうほど収益が増加する事業モデルをとるため、「安くて速い通信」を提供するインセンティブがある。

LINEモバイルはMVNO事業。携帯電話などの無線通信インフラを自社でもたずに、他社のインフラを借りて音声通信やデータ通信のサービスを提供する。さまざまな業種が参入しているが「小売り系やキャリアとはサービスの組み立て方が異なる。Webサービス会社の強みを活かしていく。LINEはメディアという側面もある。LINEモバイルの利点を訴えるようにする」。

LINEを音楽やビデオを楽しむ場所にする

「低価格でも利益は出る。LINEモバイルは赤字が出ていいところではなく単体で黒字にする。Twitter、Facebookの帯域は必要になる。一瞬で帯域を占拠する動画が問題だ」。LINEとTwitter、Facebookの通信すべてがカウントフリー(通信利用量にカウントしないこと)のプランがあるが、LINE LIVEの動画やTwitter、Facebookのライブ動画などは対象外になっている。

LINEは上場時にCEOの出澤剛氏は事業展開としてスマートポータルを打ち出した。スマートポータルはコミュニケーションを軸にさまざまなサービスをプラットフォーム上に載せるビジネスだ。「スマートポータルを実現するにはスマートフォンの普及率を上げないといけない。LINEミュージックのようないろいろなメディアを利用してもらえるようにならないといけない。問題解決の手段として、LINEモバイルを開始した」。

3B0A0002LINEモバイルの嘉戸彩乃社長(撮影:吉田拓史)

「LINE LIVEの人気コンテンツ『サシめし』などのライブ動画はみんなで一斉に観ないといけない種類のもの。動画に関してはおいおい考えていきたい」。

キャリア決済でひとまとめにできる

音楽ストリーミングサービス「LINEミュージック」と他社のサービスをバンドルしたカウントフリーも検討するが、問題は課金サービスをどう決済するかだという。他社の音楽ストリーミングの課金をLINEモバイルのキャリア決済で引き受けることも検討しているようだ。

このキャリア決済はLINE内で生じた決済をひとまとめにできる性質がある。LINEはキャリア決済によりLINEモバイルユーザーからお金を簡単に受け取れるようになった。LINEはLINE Payによりモバイル決済にも踏み込んでいる。フィンテックの文脈で考えると、将来的にはさまざまなバンキングがネット上に入っていく可能性はある。

「Webで得た情報とモバイル事業で得た情報は基本別。LINEモバイルはお客様が同意したプライバシーポリシーに則って運営していく。個人情報とLINEとFacebookとTwitterをどれくらい利用したかという通信利用状況を紐付けてLINE本体にわたすことはない。マスキングして『20代男性のLINE、Facebook、Twitterの利用状況』という統計情報として渡すことはあり得る」

嘉戸氏は証券会社でIT・通信分野のM&Aや資金調達関連の事業に携わり、ビル内の共用通信設備を展開するベンチャー企業を経てLINE入り。

Written by 吉田拓史
Photo via LINE corp