LINE上場、アジアの「メッセアプリ三国志」の行方:テンセント、Facebookにどう立ち向かう?

韓国ネイバー傘下のLINEは7月15日までに東京、ニューヨークの双方で上場した。初値での時価総額は約1兆円に達し、今年最大の新規株式公開(IPO)になった。LINE最高経営責任者(CEO)の出澤剛氏は「メッセージングアプリの世界規模の陣取り合戦は2015年で終わった」と見ており、投資は現在LINEが強い4カ国に集中させるという現実的なビジョンを示した。

LINEは日本、タイ、台湾でメッセージングアプリトップシェア。インドネシアではシェア2位ながらも首位のブラックベリーメッセンジャー(BBM)が今後大きくサービスを改良しないとみられる点や、LINEの分析ではスマホ普及率がまだ40%であり、市場をひっくり返すのが難しい50%以上に達していないことが大きいという。

メッセージ周りにサービスの城

昨年末にメッセージングアプリのユーザー数がソーシャルを上回ったとする推計が出ている。出澤氏はメッセージングアプリがインターネットサービスの中心になったとし、その周辺でサービスを拡大し収益化する戦略を提示。「スマートポータル」と定義付けた。

4カ国へ徹底的にローカライズし、「スマートポータル」というビジョンのもとサービスをひたすら追加して滞在時間増やし、ほかのアプリの利用時間を圧迫しながら、あらゆるサービスを囲い込む考えだろう。このスマートポータルを深化させたあと、グローバルに通信環境が変化するときに、4カ国以外を狙うという「現実路線」を提示した。メッセージングアプリでは、Facebook、テンセントが強く、ほかにもユーザー数でLINEを越えるプレイヤーたちがいる。

コミュニケーションに紐づくサービスは大きく2種類あり、ひとつは「ライフプラットフォーム」とされる分野だ。LINE Pay、タクシー配車サービス、アルバイト探しなどを提供しているが、現在API開発の最終段階になるとしており、多くの企業がLINE上にさまざまなサービスを載せるようになりそうだ。

コンテンツ流通+広告を柱

もうひとつがコンテンツ・ディストリビューション(流通)と呼ばれる分野だ。コアとなるLINEタイムラインは、FacebookのニュースフィードとTwitterのタイムラインが融合したふうな造りになっている。加えてLINE NewsLINE Liveなど「面」を増やしている。

出澤氏はこの「面」の裏側にプログラマティック広告(データ活用した自動配信広告)を成長させるという考えを示している。いわゆる、モバイルネイティブ広告、インフィード広告と呼ばれる形態のものだ。このために今年初め、アドテク企業フリークアウトの子会社だったM.T.Burnを子会社化したという。

東京とニューヨークの同時上場については「Google、Facebookなどの巨人と戦っている、アメリカでは重要な情報が手に入るし、人工知能や基幹技術が発達しているのが米国だ。そういう環境(米国)に入っていくのが大事だ」と説明した。

スケールとデータのハードル

現状はLINEの収益の一番大きい部分をゲーム(約40%)が担っている。出澤氏は広告事業を大手プラットフォームに共通するアドテク分野の整備によりドライブしたいと語った。

かぎはスケールとデータになるはずだ。スケールはマンスリーアクティブユーザー(MAU)2億人程度と、グローバルでは中規模で、人口2.5億人のインドネシアでどれだけ足せるかがかなり重要だ。データに関してはLINE IDと属性データがしっかり紐付いていない点が難しいが、出澤氏はさまざまなデータを介した推測により、個人情報を秘匿したまま、いい運用が可能だとの考えを示した。興味・関心データは確かにたくさんあるかもしれないが、個々人でばらばらに散らばった興味関心のデータをどれだけうまく広告上価値のある形にまとめられるだろうか(かなりハイスペックな処理機能が必要になりそうだ)。また、国内ではヤフージャパンが行うクロスデバイストラッキングは脆弱だろう(ただLINEユーザーはネット接続がモバイルに傾斜している人が多いかもしれない)。

国内のコンテンツ流通+広告ビジネスに絞れば、ヤフージャパンは日本の個人資産の分布上価値が高いミドルから高齢者層に利用習慣をつくり、高収益ビジネスを回している。これに対し、若年からミドルまでのLINEがどんな新しい城を築くだろうか。

Facebookのボットのような人工知能の技術の活用については、出澤氏はLINEも投資をすると話している。LINEは最近人工知能研究所をつくったが、グローバルの巨人たちが築いたリードはとても大きい。「技術的には難しいところもある。だが、われわれがユーザーとの接点を握っていることと、ライン上には多くのデータがある」と説明している。パフォーマンスにかかわらず、ボットをユーザーに接触させられるという優位性があり、AI開発で極めて重要な行動データはたくさん保持している、ということだ。

軽やかで機敏なWeChat?

スマートポータルという「全部詰め込むモデル」のもとは、テンセントの微信(WeChat)と同様のモデルだと類推できる。ソーシャル、EC、バンキング、ゲーム、コンテンツ流通までを包含するテンセントのビジネスモデルには世界が驚いており、4月時点でMAUは7億人で海外進出に力を入れている。より広範なビジネスを大きなユーザー規模で回している。テンセントが大きくてその分動きの遅い郊外型の超巨大ショッピングモールだとすれば、LINEは店子をどんどん入れ替える機敏な都市型の駅隣接モールのようなものを目指しているだろうか。

メッセージングアプリの普及は、スマホ普及と同タイミングで行われるべきだ、との考えを出澤氏は指摘している。いまスマホが爆発的に増えているのはインドだが、2Gベースの環境で、先に入った簡素なWhatsApp(ワッツアップ)が強い。これが3G、4Gになるときに勝負を仕掛けるということなら、強烈な差別化要因が必要になるかもしれない。

スマホ普及のフロンティアは主にインドとアフリカだが、識字率が低い場合はWeChatが適用する音声メッセージのサービスが先に成長する可能性もある。もし、アフリカの国が最初から超高速インターネット網の整備に乗り出すなら、動画によるコミュニケーションから始めるかもしれない。10億人以上のユーザー数をほこるWhatsAppがブラジルで、一部のプライバシー情報の供与を突っぱねることにより、地元政府から制裁を受けている。このことから、ひとつの共通化されたサービスが広まるのではなく、多様化も予測できるため、LINEが入り込む隙があるだろう。時価総額が企業価値の尺度として必ず正しいかは疑問符がつくが、20〜30倍かそれ以上の時価総額をもつ巨人たちと、1兆円のLINEが戦う術は、4カ国集中投資のようなローカライズかもしれない。

あと、LINEは韓国ネイバーの子会社であり、ネイバーの持ち株比率が極めて高くなっている。創業者が成功し、アイコンになるようなIPOにはならなかった。

Written by 吉田拓史
Photo by Line corp