「Spotifyの広告は、完全視聴が前提であることが強み」:スポティファイジャパン 小林哲男氏

音楽ストリーミングサービス「Spotify」が、快進撃を続けている。

4000万曲以上を自由に聴けるこのサービスは、世界61カ国で1億4000万人以上のユーザーを獲得。日本でもまだローンチから1年ながら多くのユーザーに支持され、ブランド広告主のオーディオ広告の出稿や研究も進んでいる状況だ。

同サービスの特徴は、有料の「プレミアム」プランと、広告モデルで運営する無料の「フリー」プランのいずれでもSpotifyにアップされているすべての楽曲をフルサイズで聴けること。この点はサービス利用の敷居を下げ、ユーザーの裾野を広げる要因となっている。

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「オーディオ広告には可能性がある」と小林氏

スポティファイジャパン株式会社 ビジネスマーケティングマネージャーの小林哲男氏は、オーディオ広告が認知や理解促進の部分で役立っていると語る。曲と曲のあいだに挿入されるため自然な形で完全視聴を促し、音声広告と同時に表示されるバナーからブランドサイトやキャンペーンページに誘導することができる。あらゆるサービスがユーザーの可処分時間の奪い合いになっているいま、「ながら接触」が可能な音声広告に、どのような可能性があるだろうか?

◆ ◆ ◆

——Spotify人気ですね、どんなユーザーが多いのでしょう?

2006年にスウェーデンで誕生し、2008年よりサービスを開始した音楽ストリーミングサービス「Spotify」は、現在全世界で1億4000万MAU(月間アクティブユーザー)を擁し、そのうち6000万人が有料プランを利用しています。ユーザーは平均で1日に2時間以上利用していて、朝から晩まで音楽を聴きながら仕事や勉強などをしているのも特徴的です。楽曲の多さだけでなく、各ユーザーの趣味趣向を分析したうえでの精緻なレコメンデーションも、ユーザーに受け入れられている要因ですね。

日本では昨年11月にサービスをスタートしたので、まだ1年弱ですが、順調にユーザー数が伸びています。最初は熱心な音楽ファンやITリテラシーの高いアーリーアダプター層に受け入れられ、やや男性が多く平均年齢も想定していたよりは若干高めでしたが、いまではより広く浸透し女性層や10代のユーザーも増え、若めにシフトしています。グローバルではモバイルでの利用率は6割ですが、日本だとさらに高く、スマートフォンでの利用率が87%となっています。

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スポティファイ社の各会議室名はすべて名曲に由来

——それにしても、無料で全曲聴けるというのはユニークですね。

ええ、そうですね。サービスが誕生したのは2008年。音楽もデジタル化が進むなかで、違法コピーやユーザーによる勝手なネット公開といった問題も広がっていた頃です。こうしたグレーな形で音楽が拡散しても、アーティストにはまったく還元されません。そこで、もともと音楽ファンである創業者のダニエル・エクが、アーティストへの利益の還元とユーザーの多様な楽しみ方を両立させるビジネスモデルを考案したのです。

無料で、かつ豊富な楽曲を自由に楽しめるプランを確立しなければ、違法なサービスなどを利用している人たちが移行しないので、広告モデルを導入して無料でも全楽曲をフルサイズで聴ける「フリー」プランと、有料・定額制の「プレミアム」プランから成るフリーミアムなビジネスモデルを確立しました。一方、有料プランの「プレミアム」には広告が表示されず、最高音質でオフラインでも聴けるといったオプションがあります。音楽利用の健全化という意志が創業のベースにあるため、Spotifyはこれまでに5000億円以上をアーティストはじめ権利保持者に還元しています。

——競合もちらほら存在します。Spotifyの優位性は?

無料の「フリー」でも、前述のように全曲をいつまでもフルサイズで聴けるのは、限られた期間だけ、または曲の一部だけ無料で聴けるサービスとは異なる点だと思います。この特徴によって、音楽をライトに楽しむユーザーもどんどん加入してきています。同時に「フリー」プランは、企業にとっては広告プラットフォームとして機能します。日本でもこの1年のうちに、多くのブランド広告主の出稿が相次いでいます。

——具体的に、どのような広告メニューがあるのでしょう?

メインは曲と曲のあいだに挿入される、ナレーションやBGMで構成する音声広告「デジタルオーディオ広告」です。バナー広告や動画広告などあらゆるデジタル広告がユーザーの視線を奪い合うような状況になっているいま、ユーザーの視界を妨げず、通勤中や仕事中、ドライブ中などの「ながら聴取」を実現しています。他のデジタルメディアとの競合状態から脱却し、新しい広告の接触機会を生み出すことが可能になったとともに、より自然な形で楽曲のあいだに広告を配信することにより、ブランドメッセージをしっかり聴き、認知や理解促進の効果を高めている要因だと考えています。曲と曲とのあいだにオーディオ広告が挿入されるので、自然な形で完全視聴を促すことができ、必ず音声はオンなので動画広告でよく課題になる「音声がオフだと機能しない」点を気にする必要もありません。

オーディオ広告だけでなく、アプリを操作するスマートフォンやPC上で、ディスプレイ広告や動画広告を出稿することができます。これらは、アプリがバックグラウンドで起動中に配信されても意味がないので、ユーザーがアプリを操作しているとき、つまり視認性が確認できるときのみ配信されます。ほかにも、複数の種類の広告があります。

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オフィス内は遊び心に溢れている

——とても独自性の高いメニューですね。マーケターの理解は?

海外の方が先行しましたが、日本にもデジタルシフトの波が押し寄せていて、日本のマーケターにもネット広告のノウハウや経験が蓄積されている段階だと思います。バナー広告に行き詰まりを感じているといった声も聞きますが、一方で新しいメディアもどんどん発展しているので、いち早く試した人から次のステージへ進んでいるといった印象があります。

それでいうと、いまはまさにストリーミングメディアは発展段階にあるので、それらを生活者がどう使っているのかを詳しく知ることは欠かせません。日々の生活のなかのどういったタイミングで、どのようなコンテンツを消費しているのか、その最新の状況を把握することで、チャンスを見出せると思います。以前から言われていることではありますが、ユーザー目線が大事ですね。

データの活用によって、ユーザー像やそのインサイトはどんどん精緻につかめるようになっています。憶測ではなく、デジタルを駆使して、実態に即したユーザーの目線を把握することがどんどん求められていると感じています。

——では、マーケターはSpotifyに何を求めているのでしょう?

しっかりと聴取されメッセージを伝えられるメディアとして活用いただいているので、クライアントからは「本当にメッセージが届いているのか」というブランディングの効果を求められています。現在、出稿主であるNetflix、ネスレ日本、ボルボ・カー・ジャパン(Volvo)の各社と効果測定の調査をしていますが、各社とも広告接触ユーザーに高い認知率が出ています。

たとえばNetflixでは、ヒップホップを題材にしたオリジナルドラマ「GET DOWN」のプロモーションにSpotifyのオーディオ広告を活用したところ、広告配信ユーザーのうち89%が広告を認知したと回答しました。同じエンターテイメント業界だとディスプレイ広告での平均的な認知率が59%なので、相当高い効果を獲得できたと思います。さらに、オーディオ広告のみ接触した人と、同時にディスプレイ広告と動画広告にも接触した人とでは、後者の方がより高い効果が得られました。複数手法を組み合わせることで、相乗効果が上がっています。

ネスレ日本では新商品の告知に活用しましたが、こちらも認知や興味喚起に大きな効果を発揮しました。再生完了率が極めて高い我々の仕組みも貢献していると思いますが、ナレーションのトーンやBGMなどでブランドの世界観を表現する、クリエイティブの質の影響ももちろんありますね。

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業界内の平均的なディスプレイ広告の効果よりも高い効果を見込める

——実際に活用したマーケターの満足度は?

概ね手応えがあると受け止めていただいています。既存のバナー広告や動画広告だと、配信したものの、まずどれだけきちんと見られているかが最初のハードルになっていたと思います。それがSpotifyの場合、ビュースルー率や放棄率を気にしなくていい。再生完了を前提に、そこからの態度変容やアクションをどう伸ばすかが起点になるので、1インプレッションの価値がまったく違います。それを実感する体験は、マーケターの方々にも印象的のようです。

また冒頭では、データ分析による精緻なレコメンデーションが強みだとお話しました。いままでのレコメンデーションは多くが過去に視聴した作品に基づいて分析するので、既に聴いたことがある、あるいは知っているものばかりがお勧めされてしまうことが多く、面白みに欠けるものも多かったのですが、Spotifyのレコメンデーションは分析の要素が多く、同じジャズファンでも好みの楽器、ピッチ、曲の構成などの好みを測る軸が無数にあり、世界中の楽曲から好みに合った曲がお勧めされます。またSpotifyによる人力のキュレーションも提供することで、データと感性の両軸から新しい音楽を発見することができるのがSpotifyの強みとなっています。

Spotifyの場合、サービス利用開始時に入力してもらう年齢や性別などの属性情報に加え、楽曲の視聴傾向を広告配信のターゲティングにも活用しています。なので、音楽を軸にターゲット像を設定してアプローチするという配信ができます。

さらに、Spotifyのユーザーは自由にプレイリストをつくって公開できるのですが、企業も同じ立場でプレイリストの公開が可能です。最近だとキリンの「ハードシードル」が、商品の世界観に合わせたプレイリストを公開しました。音楽を軸に商品やブランドの世界観をアピールできるコンテンツになっています。

プレイリスト機能は企業にとっても魅力的な機能だ

——Spotify広告には、今後さらに期待できそうですね。

日本では、まずは広告サービスとしてより多くの企業に試していただき、進化させていきたいですね。グローバルではよりプログラマティックな出稿形態になっていて、精緻なデータ分析に基づき「Right Contents・Right People・Right Time」がまさに実現しようとしています。最近ではGoogle Homeなどの音声アシスタントサービスも拡大中なので、音声での新たな接点も今後どんどん生まれてくると思います。

前述のプレイリストによるアプローチも盛んで、企業がプレイリストを発信するほかに、人気のプレイリストをスポンサードするという番組提供のような出稿も海外では人気です。たとえば、ワークアウト用のプレイリストにスポーツ用品の広告を入れるなど、シチュエーションとマッチングした広告配信も将来的には可能です。

ある種の楽曲で気分が高まったり、落ち込んだ気持ちが癒されたりと、音楽はとても人の心理に影響するコンテンツです。いずれ、そうした心理まで推し量って、広告との最適なマッチングができるように進めていきたいです。

▼小林哲男digiday2017_2008_fin_profile_srgb

スポティファイジャパン株式会社 ビジネスマーケティングマネージャー
1998年に大学卒業後、アップルコンピュータ株式会社にてオンラインストアの運営、グーグル株式会社にて検索/ディスプレイ/YouTubeなどの広告営業、Twitter Japan 株式会社での広告/メディアパートナー向けのマーケティングを担当。2016年よりSpotifyの日本でのサービス開始にあわせて入社し、日本でのオーディオ広告の普及に務める。

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Text by 高島知子
Photo by 渡部幸和