ソーシャルを取り逃がしたGoogleは、いかにジャーナリズムを支援しているのか?

この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。

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「遅いより速いほうがいい」

Googleが掲げる「10の事実」の3番目に書かれている言葉です。これを体現するように同社は2015年10月、モバイルでの記事を瞬時に読み込む技術「アクセレート・モバイル・ページズ(AMP)」を発表しました。

AMPはユーザーがスクロールしてから画像や動画をロードするという仕組み。同社における最高性能のサーバーにキャッシュすることで、モバイルでの記事読み込み時間を大幅に短縮することが可能となります。すでに「ニューヨーク・タイムズ」や「BuzzFeed」、「Vox.com」などのメディアから、Twitterのようなプラットフォームまでが利用しています。

前回のコラム(「なぜプラットフォームは『ニュース』を欲しがるのか?:Apple、Facebookたちの思惑 まとめ」)で、Apple、Facebook、Snapchat、Twitterのニュース戦略を紹介しました。

各社モバイルに注力するなかで、Facebookの「Instant Articles」のようにページの読み込み時間を激減する取り組みは重要になっているようです。ニュースへのアクセスを加速する意味で、AMPはジャーナリズムに関する取り組みと捉えることができると思います。

3つの観点からジャーナリスト支援

Googleは2015年6月、ジャーナリストや起業家支援をおこなう「News Lab」というプロジェクトのローンチを発表しました。これはツールとデータ、プログラムの3つの観点からの取り組みです。

1つめのツールでは、調査・レポート・流通・最適化をテーマに、「Google Search」「Google Maps」「YouTube」「YouTube Newswire」「Google Play Newsstand」「Google News」「Google Public Data Explorer」「Google Earth(Pro)」「Google Alerts」「Google Consumer Surveys」「Google Translate」「Google Permissions」「Google Scholar」「Google Crisis Map」「Fusion Tables」「Google Trends」の活用法を共有しています。

2つめのデータでは、検索トレンドをリアルタイムに可視化する「Google Trends」の概要と、「タイム」や「ニューヨーク・タイムズ」などメディアの活用事例が紹介されています。そして3つめのプログラムでは、「Matter.」「Hacks/Hackers」「European Journalism Centre」などの企業・組織と協力して支援プログラムやイベントを提供していくそうです。

「ニュースラボ」の紹介ビデオ。

最近でも「News Lab」が支援する「First Draft Coalition」がWebサイトを公開したことがニュースとなっていました(当初はMediumで情報発信)。

「First Draft」(NPOデジタルメディアで、ソーシャルWeb上でのコンテンツ掲載、配信、著作権管理等に関するハウツーや調査データの知識を共有するサイト)はソーシャルメディア時代のジャーナリズムを考える取り組みで、「Eyewitness Media Hub」「Storyful」「Bellingcat」「reported.ly」「SAM Desk」「Meedan」「Emergent and Verification Junkie」など、ブログメディアと提携し、さまざまなツールの活用法やハウツー、ケーススタディなどを共有しています。ただ、ソーシャルメディアでの情報収集だけでなく、倫理や検証などにも多くの項目で触れているのも特徴です。

ジャーナリズムの未来にも投資

そのほかGoogleは2015年4月に「Digital News Initiative」という、モバイル時代におけるデジタルジャーナリズム支援の取り組みを開始しています。同年10月には、プロジェクトチームが、Google社内のリソースとヨーロッパ地域内のメディア企業の共同運営による「Innovation Fund」をスタート。未来的でいままでにないアイデアやプロジェクトをローンチしたいニュースメディア企業に支援(最大1.5億ユーロ)する予定で、プロトタイプから企業プロジェクトまで広く対象となっています。2016年1月に採択プロジェクトが発表される予定です。

加えて、2015年10月に発表された「ニューヨーク・タイムズ」のVR(仮想現実)の新プロジェクト「NYT VR」にもGoogleは関わっています。同紙の有料購読者100万人以上にダンボール製のVRビューワー「Google Cardboard」を配布、スマホアプリを通じて没頭できるジャーナリズムを提供しようとするものです。東ウクライナ、シリア、南スーダンの難民の子ども3人を取り上げたドキュメンタリーなどを体験できます。

巨大企業Googleが抱える課題

Googleはジャーナリズムの支援をする一方で、特に欧州では、その巨大な検索エンジン企業としての存在自体が『大きな問い』となっています。これに対し、欧州が提示しているのが、独占禁止法と、「忘れる権利(right to be forgotten)」です。

前者はいまでは欧州の検索市場の9割、モバイルOS市場の8割を占めるGoogleに対して、欧州委員会がアメリカ企業に独占されている状況を懸念しています。2010年から調査を進めており、「検索事業の分割」も求めているほどでした。後者については2014年5月から欧州ではユーザーからの検索結果のURL削除リクエスト要請に対応しています。

また、フィルターバブル問題で一番に名前が挙がるのもGoogleです。紙媒体の時代には能動的に情報を取得していた一方、ネット時代には情報があふれ、パーソナル化などによって受動的に心地いい情報収集も可能となっています。Facebookもそうですが、「関連性」は広告に欠かせないひとつの要素なので今後もフィルターの強度の議論は盛り上がっていくでしょう。

Googleなりの支援の仕方

いまやニュースの流通に欠かせないソーシャル(メディア)を取り逃がしてきたGoogle。「実世界における共有のニュアンスと豊かさをWebに取り込むこと、そして人、その関係、各自の関心事を取り入れることによってGoogleのすべてをさらに良いものにすること」との狙いを掲げたGoogle+は写真をのぞき、FacebookやTwitterなどと比べるとうまくいってないと見ています。だからこそ、さまざま企業・組織・団体と組み、Googleなりのジャーナリズム支援を行なっているのでしょう。

検索をはじめとするサービスでユーザーが本当に求めているものを提供してきたGoogleは、これからニュースやジャーナリズム領域でどのように取り組んでいくのか。ソーシャル分野はどうしていくのか。「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること(to organize the world’s information and make it universally accessible and useful)」という使命はどのように果たされるのか。気になることばかりです。

Written by 佐藤慶一
Image from Thinkstock / Getty Images