Facebook包囲網を敷く、Googleのメディア戦略:エクスペリエンスを制するものがモバイルを制す

モバイルのロード時間をめぐる議論は、GoogleとFacebookによるプラットフォーム戦争のもっとも激しい戦闘地域に姿を変えた。消費者の情報消費はモバイルアプリに傾いており、アプリで消費される時間の半分を握るといわれるFacebookが存在感を増している。ネット広告一強の座を猛追されているGoogleは、「AMP(Accelerated Mobile Pages)」で、牙城とも言えるモバイルウェブを強化することで逆襲をはかる。グローバルレベルで進む、コンテンツ流通網の整備合戦は、どちらに軍配があがるか。

1. Facebookの独り占めは許さない

Googleのオープンソースプロジェクト「AMP」で構築されたページが、2月内にGoogle検索に載るようになる。ユーザーの流入が始まることになるため、「本格的なローンチ」まで2週間を切ったわけだ。

AMPはGoogle独自の「AMP HTML」をオープンに開発するプロジェクト。ロード(読込)時間を最大85%程度削減し、ユーザー体験を高めることを目的としている。モバイルにおいて広告、アナリティクスツールなどが主要因となり、読み込みが遅くなっていたことが開発のきっかけとなった。

2015年はAppleがSafariブラウザでアドブロックのアドオンを使えるようにし、アドブロック問題が顕在化。消費者がロード時間の長さやユーザー体験の阻害に苛つきを感じていることが判明し、プラットフォームがより快適なネットを提供する流れが生まれた。機敏に動いていたのが、Facebookだった。

Facebookは、インスタント記事(Instant Articles)が「モバイルウェブの記事より10倍速く読み込まれる」と謳い、サービスを全世界に拡大した。遅れをとったGoogleはTwitter、Pinterest、LinkedInのほか、Facebook以外のさまざまなステークホルダーと協調。AMP(下図)でFacebookの「独り占め」を猛追している。全世界の主要パブリッシャーがプロジェクトに参加しており、日本からは朝日新聞、日刊スポーツ、シネマトゥデイなどが参加している。

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AMPで構築されたモバイルサイト例(Googleの10月時の発表より)

2. ペイウォールで定額制が可能に:リード?

GoogleはAMPでパブリッシャー(媒体社)がペイウォールを築くことができるようになったと発表している。媒体社にとって収益源が広告のみとなるインスタント記事との差別化要因になるだろうか。

AMP公式ブログによると、すべてのペイウォールが独特であり、似ていないという問題があった。媒体ごとに認証、ユーザー管理、アクセスコントロールのシステムが異なる。決済、サブスクリプション、サインインの構築方法などもバラバラで、共通の仕組みが欠如していることによって、AMPが各媒体のニーズに応えることを難しくしていた。

デジタル媒体にとって、広告収入が紙媒体・テレビなどに比べ、心もとない現状を鑑みると、ペイウォールの可否は死活的な問題だ。ペイウォールの導入自体も当初は失敗例が積み上げられたが、2015年8月に「ニューヨーク・タイムズ」がデジタル版の有料購読者数100万人を越すことに成功したことは、大きなベンチマークになった。

ネット内の情報が指数関数的な増加を示すなか、消費者の間で高品質な情報に対し、料金を支払うことに合意ができつつあるようだ。また高度な分析を加えたインテリジェンス情報でより高額の購読料を課す形式も育ちつつある。

公式ブログのポスト「AMP: WHAT ABOUT ADS?」(1/25)によると、AMPを利用しても媒体社は従来通り、アドサーバーの選択、フォーマット、広告の掲出位置、ビューアビリティの測定を自由に決めることができる。掲載される広告に関しても、コンテンツと同様の速度で表示されることを目指し、速度に焦点が絞られている。

3. Facebookがパブリッシャーに譲歩?

2月中旬、Facebookと媒体社が配信条件で妥結した模様だと報じられた。WSJのジャック・マーシャル氏(元DIGIDAY)が複数の米媒体社を取材した記事によると、パブリッシャーとFacebookは主に広告に関するレギュレーションをめぐって交渉を続けてきた。媒体社サイドは広告の掲出頻度を制限するレギュレーションに関して不満を持っていた。

しかし、ここに来て、Facebookは各パブリッシャーと妥結に舵を切った。同記事では、新興デジタルメディアのVox Media、リトルシングスコム(LittleThings.com)がインスタント記事で自社サイトと同等の広告収益を見込んでいることに触れられている。ビジネスインサイダーはむしろインスタント記事で得る収益の方が少し大きくなると予測している。若者向け媒体のミック(Mic)に限っては、マネタイズのメドがたったため、コンテンツの100%をインスタント記事に流通させる決断に踏み切った(他社は一部配信)。

(米国では)広告配信網Facebookオーディエンス・ネットワークでのレベニューシェア(広告売却益の配分)は、媒体社が70%、Facebookが30%となっている。Facebookが媒体の販売を代行した場合もレベニューシェアは同様だ。媒体社は30%のコミッションを加味しても、Facebook広告のCPM(表示1000回当たりの費用)、つまり、価格が上昇していることを評価しているという。

おそらくこの妥結にはパブリッシャーのAMPとの交渉が関係しているとみられる。大手媒体社の多くは双方のプラットフォームと交渉、開発を続けており、片方に限らなくてよく、インスタント記事とAMPの双方をコンテンツ配信に活用できる。媒体社が協調している場合に限り、効果的に両プラットフォームを競わせ、レベニューシェアなどの条件を有利に運べる可能性もある。

注目が集まるのは2月19日(金)。Googleはより詳細な情報を公式に明らかにすると言われている(媒体社とは交渉を続けてきている)。AMPは後発のため、インスタント記事と同水準の条件に落ち着いている可能性は高いとみられる。

AMPプロジェクトは全世界の多数の媒体社(下図)のほか、20社以上のアドテクベンダー、ソフトウェア企業も巻き込んでいる。「Facebook包囲網」だ。オープンにステークホルダーとAMP HTMLの改良を重ねていくため、Facebookのクローズドな開発体制より有利に見える。また、これはAndroidでAppleのiOSプラットフォームを追走するときにとった方法に似ている。

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各国の主要なパブリッシャーがAMPプロジェクトに参加している

4. モバイル体験とクロスデバイス

このロード時間をめぐる競争は、モバイルエクスペリエンス(モバイル体験)がとても重要になっていることを示している。Google広告・EC担当シニアバイスプレジデントのスリドハル・ラマスワミ氏は2016年1月末に米インタラクティブ広告協議会(IAB)で、米国のプログラマティック広告市場規模が2015年の150億ドル(約1兆7000億円)から、2020年までに50億ドル(約5700億円)を上乗せするためには、最高のモバイルエクスペリエンス(モバイル体験)を提供し、悪い体験を排除することが必要となると主張した。

消費者がモバイルに多くの時間を割き、モバイル利用方法がさまざまなパターンに断片化していることが、多彩なデジタルモーメントを生んでいる。数多あるモーメントのなかでインテント(意図)に富んだ瞬間があると指摘している。マイクロモーメント(Micro-Moments)だ。このモーメントには「知りたい(Know)」「行きたい(Go)」「したい(Do)」「買いたい(Buy)」という4つの意図が発せられる。

マイクロモーメントはモバイルにおけるマーケティングにとって重要な知見を提供する一方で、Googleの検索を基点としたエコシステムを強化する役割もある。強いインテントを持ったユーザーが最初にたどり着くのがモバイル検索だという「物語」。ユーザーがモバイルウェブを旅する限り、Googleは収益を上げ続けるのだ。

AMPに関しては、以下のようにしている。現行のウェブと変わらない。

  1. 媒体社にペイウォールとプログラマティック広告という収益源を保証すること
  2. サードパーティのベンダーが参加できる

ラマスワミ氏はGoogleは7億8000万件のディスプレイ広告と、2万5000本のアプリに掲載された広告を停止したと明らかにした。それらを偽造品、違法薬物、詐欺などの絡んだ悪質な広告とみなしたためだ。

ラマスワミ氏はデバイス、プラットフォームに断片化された体験に触れ、広告主の関心が、広告をクロススクリーン、クロスプラットフォーム、クロスデバイスで、各フォーマットにうまくフィットさせることにあると指摘した(AMPでは広告のサイズが可変性を持つよう設計されている)。さまざまなサイズにフィットする広告プラットフォームを整備すれば、Googleディスプレイネットワークがスマートフォン、タブレット、デスクトップとクロスデバイスで機能するようになる。

ラマスワミ氏が提唱するモーメントの捕捉やモバイル体験の向上は、検索、ディスプレイ広告というGoogleのエコシステムを強化することにもつながる。

5. 全世界を巻き込んだウォールドガーデン競争

Googleの動きには、Facebookが大きく関係しているだろう。情報消費において、Facebookのニュースフィードの存在感は日増しに大きくなっている。BuzzFeedのようにFacebookに重みを付け、グローバル規模の流通網を整備しているメディアもあるほどだ

Facebookは今後インターネットが成長する新興国に「先張り」する姿勢が鮮明だ。インスタント記事は今年1月に日本でのローンチを発表し、アジアの主要な国でのサービスを開始している。低所得国向けにFacebookなどのアプリを通信料無料で利用できるプロジェクトである「フリーベーシック」には、Facebookをネット体験のデフォルトにする人々を増やそうという狙いがのぞく。マネタイズから遠くライバルが敬遠する低所得国に先張りし、GoogleやAppleのウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)を真似ようとしているかもしれない。

Googleもアグレッシブな取り組みをしている。AMP導入は「絶対」かもしれない。米広告業界誌アドエイジ(Adage)によるとGoogleのニュース担当シニアディレクター、リチャード・ジングラス氏は「我々は明確にスピードに重点を置いている。AMPによるサイトだから、検索順位が大きく押し上げられるということではない」「ふたつの記事が速度以外でまったく同じのスコアである場合、我々は速度に重きをおくことになる。読み込み時間はユーザーが重要だと考えるからだ」と語っている。ページランクがロード時間に必ずしも、すべての重きを置くわけではないが、重要な項目のひとつになるととれる。しかし、検索順位に及ぼす影響については、状況をみなければいけないが、あるレベルを超えるならば、媒体社の雪崩が起きるだろう。

Written by 吉田拓史