円熟味を増す、Googleの「パブリッシャー掌握術」を検証:友を装う敵からリアルフレンドへ

去る2月、Facebookは多数のメディア企業幹部を自社のオフィスに招き、自社のコンテンツと製品の計画を説明した。その前にも、同社は100社を超えるパブリッシャーと円卓会議を開催。元テレビキャスターで、現在はFacebookのニュースパートナーシップ担当のディレクターを務めるキャンベル・ブラウン氏も、マンハッタンにある自宅にニュース界やジャーナリズム界の有力者たちを招き、もてなしている。

だが、ニュース業界のベテランたちは、こうした待遇をすでに経験していた。彼らに言わせれば、Googleが長年に渡って実施してきた戦略を、Facebookはマネしているだけなのだ。Googleはかなり前から、広告のマネタイズや検索結果に関して、常に満足できるものではなかったとしても、パブリッシャーとの協力を図ってきた。そうした取り組みはこの数年間でさらに進化し、いまではニュースプロジェクトに資金を提供したり、業界のカンファレンスやイベントをサポートしたりしている。招待制の年次会議「ニューズガイスト(Newsgeist)」もその対象だ。

もちろん、これを利他的行動だと勘違いしている人はいない。Googleはビジネスをしているのだ。だが、こうした取り組みのおかげで、Googleはパブリッシャーに対し、Facebookなどほかの大手プラットフォームよりも有利な立場を獲得している。プラットフォームに対する恐れや憎しみが話題になるとき、GoogleよりFacebookが対象になることの方が多いだろう。

互いを補完するモデル

両社のこうした違いの多くは、ある単純な事実によって生まれている。それは、GoogleのビジネスモデルがFacebookと異なるという事実だ。Googleのビジネスは検索広告が中心。そのため、ユーザーはGoogleのサービスから別のサービスへ移ることになる。対照的に、Facebookが運営しているのは、閉鎖的なネットワークだ。したがって、広告を見てもらうために、ユーザーを自社のサイトやアプリに囲い込む必要がある。

そのうえ、GoogleはFacebookよりはるかに成熟している。GoogleがDoubleClickを買収したのは10年前のこと。そして、Googleがダブルクリック(DoubleClick)とともに手に入れた広告製品「DART for Publishers」(以下、DFP)は、ほんとんどのパブリッシャーが広告の管理に使用する重要なインフラだ。

「GoogleにはDFPがあり、パブリッシャーがもつインベントリー(在庫)をすべて利用できることを理解していた」と、USAトゥデイネットワーク(USA Today Network)のデジタル売上担当シニアバイスプレジデント、マイケル・カンツ氏はいう。

「Googleは最初からパブリッシャーと利益を分け合っていた。それが親切心からの行為だったとは思っていない。だが彼らは、パブリッシャーと協調することにもともと関心をもっていた。Snapchat(スナップチャット)やTwitterといった企業では、その方針が大きく異なる。新製品をリリースし、人々を自社のサイトに囲い込むのが彼らの方向性だ。そんな彼らにとって、コンテンツが不可欠な要素であればいいのだが、パブリッシャーが十分な利益を得られるような形でパブリッシャーと提携することに彼らが関心をもっているかといえば、その確かな証拠を私は見たことがない」。

Googleのエンジニアリング担当バイスプレジデントで、モバイルWeb高速化プロジェクト「AMP(Accelerated Mobile Page)」を率いるデイビッド・ベスブリス氏によれば、Googleの関心はパブリッシャーと「大いに協調する」ことにあるという。Googleは、自社の検索エンジンに人々が何度もやって来るようにするため、パブリッシャーのコンテンツを必要としている。それに、パブリッシャーのインベントリーは、Googleのディスプレイ広告事業の原動力だ。

また、Googleとパブリッシャーはどちらも、FacebookやSnapchatのウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)に対抗するためオープンなWebを守りたいと考えている。「我々がお金を稼ぐのは、我々のパートナーがお金を稼いだときだ。パブリッシャーがビジネスから撤退したためにコンテンツがなくなってしまうことは、我々にとってよくない状況なのだ」とベスブリス氏は語る。

ご機嫌取り作戦

とはいえ、Googleとパブリッシャーの関係に波風が立たなかったわけではない。パブリッシャーは当初、Googleが検索結果内に表示された記事のスニペット(要約文)を利用してトラフィックを横取りすることを懸念していた。実際、Googleは欧州でパブリッシャーや競合他社の反発を受けている。Googleが、検索大手としてあまりに支配力を強め、プライバシーの懸念にまともに向き合おうとしないというのがその理由だった。成長期のGoogleは、アルゴリズムを何度も変更してパブリッシャーを困らせもした。この変更は、腹立ちまぎれに「Googleダンス」と呼ばれた。パブリッシャーが変更の理由を尋ねても、無視されることがほとんどだった。

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Googleは、自分たちを警戒するパブリッシャーに近づくために、ソフトパワーを活用している。2015年には、「Google News Lab」というサイトを公開し、ジャーナリスト向けのツールやトレーニングリソースの提供を開始。欧州では「Google Digital News Initiative」というプロジェクトを立ち上げ、1億5000万ユーロの資金を提供している。さらに、2016年に「AMP」を開始。これはFacebookのインスタント記事への対抗策で、パブリッシャーの記事ページがモバイルアプリ内ですばやくロードされるようにするためのプロジェクトだ。

Googleがこのような取り組みをはじめたのは、パブリッシャーの声により耳を傾けるようになったからだとベスブリス氏は言う。Googleは、自社製品の規模と品揃えがメディア企業を圧倒する可能性があることを理解していた。「ときには、メディア企業を追い詰める状況に陥ってしまうこともある」とベスブリス氏は認める。「我々はあらゆる場所に革新をもたらしたいと考えている。だが、人々をオプション攻めにしているかのように感じることもある」。

「彼ら(Google)の素晴らしい点は、FacebookやAppleと違い、すでにその分野で仕事をしている人たちに力を与え、サポートしていることだ。自分たちがベストだと考えるものを押し付けようとはしない」と、英紙ガーディアン(The Guardian)が米国に設置している「Mobile Innovation Lab」の編集者、サーシャ・コーレン氏は言う。「Facebookのニュースパートナーシップは、ライブ動画など彼らがすでにもっている製品をニュースメディアが利用できるようにすることが柱だ。パブリッシャーは経験を積む必要があるため、苦労を強いられることになる。だが、ライブ動画が大きな存在となる可能性がある以上、ライブ動画に取り組むためのお金を出さないわけにはいかない。Facebookは、ジャーナリストたちにエンジニア的な作業をしてもらうことで、自分たちのプラットフォームに役立てようとしているようだ。ジャーナリズムに力を与え、プラットフォームをジャーナリズムに役立つものにしようという感じではない」。

Googleのこうした取り組みを、激化する対立と競争への対応と捉えているメディアもある。GoogleがGoogle Digital News Initiativeを開始したとき、同社は欧州で反発を受けていたばかりか、Apple、Facebook、Snapchatといった企業が独自のパブリッシャー戦略をはじめたため、参照トラフィックのシェアが減少し、競争が激化していたと、メディアアナリストのケン・ドクター氏は述べている

強大な力を活用……

結局のところ、両者の関係はいまもかなり不平等だと指摘するメディアもある。かつてニューズ・コーポレーション(News Corp)で戦略担当シニアバイスプレジデントを務め、現在はギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group)のCEOに就いているラジュ・ナリセッティ氏は、Googleのジャーナリズムへの資金援助プログラムについて、「現実には、彼らのビジネスモデルと経済力が強大であるため、不満や反発があっても、ほとんどのパブリッシャーは、自分たちだけで必死の努力を続けても勝ち目がない。そこで、Googleに業界の取り組みをサポートしてもらおうとしているのだ」と語った。

AMPが登場するまで、多くのパブリッシャーはGoogleと取引関係があるにすぎなかった。AMPは、両者が緊密な協力関係を築かざるをえなくなるターニングポイントになったのだ。AMPのおかげで、Googleは、小規模なパブリッシャーと大手パブリッシャーの両方に対し、提携への関心を示せるようになった。また、オープンなWebを守る取り組みについてのメッセージを伝えられるようになった。

AMPが登場したとき、パブリッシャーの自立性はどうなってしまうのかという不安の声が多く上がっていた。しかしGoogleは、早い段階でパブリッシャーのワーキンググループを作り、彼らの賛同を得た。この動きには強い印象を受けたと、フォーブス・メディア(Forbes Media)で製品および技術担当シニアバイスプレジデントを務めるサラ・ザラティモ氏は言う。「これほど積極的かつ確実にGoogleがやってのけたのを、私は見たことがなかった」とザラティモ氏は語った。

Googleも、ケーススタディ、ガイダンス、アウトリーチなどを提供することでパブリッシャーの心をつかんだ。ザラティモ氏は毎週、Googleのチームと音声会議を開き、AMPや「プログレッシブウェブアプリ(以下、PWA:Progressive Web App)」などの製品を最大限に活用する方法を教えてもらっている。「おかげで、PWAを通常ならありえないほどはるかにうまく、早く使えるようになった。Googleは先週、AMPとPWAの連携に関する話をしたときに、我々の事例を取り上げていた。Facebookとの間では、このようなことは起こらない」とザラティモ氏は語った。

さらに根本的な話をすれば、パブリッシャーにとって、AMPはFacebookのインスタント記事より使いやすいようだ。AMPはオープンソースであるため、理論的には、パブリッシャーがある程度自分たちの意図に合わせて利用できる。これがインスタント記事とは異なる点だ。多くのパブリッシャーが、AMPでは自社サイトと同レベルのマネタイズが可能で、検索トラフィックも増えていると述べている。

友好的な顔

Googleのご機嫌取り作戦の対外的な窓口を務めているのが、ニュース担当責任者のリチャード・ジングラス氏だ。ジングラス氏は、Googleとパブリッシャーには共通の利益があるというメッセージを伝えて回っている。ジングラス氏は質の高いジャーナリズムと長い付き合いがある人物だ。かつてサロン・メディア・グループ(Salon Media Group)のCEOを務めていたほか、「トラスト・プロジェクト(Trust Project)」の設立を支援したこともある。このプロジェクトは、さまざまなジャーナリズムがあふれるなかで、質の高いジャーナリズムの存在を知ってもらえるようにする方法を探る取り組みで、Googleが資金援助している。

ジングラス氏は、ジャーナリズムの経験をもつGoogle上級幹部というだけでなく、製品に対して直接的な影響力をもっていると、TwitterやNPR(ナショナルパブリックラジオ)の幹部を務めていたビビアン・シラー氏は話す。同氏がTwitterにいたときにこのようなことはなかったそうだ。「これは何度強調しても足りないくらいの話だが。結局のところ、実際の製品でパブリッシャーに利益を提供できなければ、パブリッシャーと友好的な関係を築いても意味はない。製品がすべてなのだ」とシラー氏は述べた。

パブリッシャーはいまも、Googleに対して多くの引っかかりを感じている。検索は、いまだにブラックボックスだ(もっとも、誰にとってもミステリアスなものではあるが)。AMPはWebを侵食しているが、パブリッシャーのなかには、AMPのページは通常のモバイルページほどマネタイズできないと語る企業もある。また、AMPは記事の細かいフォーマットをそのまま再現できないため、パブリッシャーによっては、自社の代表的なブランドの一部のみで使用しているところもある。さらに、Googleの対応とAMPの柔軟性は素晴らしいが、一部の仕事がパブリッシャーに移ることになり、リソースの少ない小規模メディアにとっては負担が増えることになる。

「常にパブリッシャーが責任を負うことになる」と、コーレン氏は言う。「彼らは『これが問題だと理解している』と言うだけで、満足のいく回答をしてくれない。それに加えて、マネタイズも問題だ」。

Googleなどのプラットフォームを良き友人とみなすことは、パブリッシャーにとって、収益とトラフィックをGoogleに過度に依存することになりかねないというリスクをもたらす。そのプラットフォームが戦略を変更し、パブリッシャーの戦略と齟齬が生じたら、問題が起こる可能性が高い。

ニューヨーク・デイリー・ニュース(New York Daily News)は、Google担当チームを設置し、Googleに対して自社のニーズを包括的に伝えていると、同社でデジタル担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるグラント・ホイットモア氏は言う。Facebookは、このような関係を構築しようと取り組んでいるところだ。いまのところ、このおかげで仕事が「きわめて楽になっている」とホイットモア氏は語った。ただし、「100%利他的な取り組みというわけではない。彼らの支援が多くなれば、それだけ我々は彼らに依存することになるのだ」と同氏は述べている。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)