邦銀のITコスト8割がメンテナンス:金融庁参与 田中正明氏

PwC(プライスウォーターハウスクーパース)インターナショナル シニア・アドバイザーの田中 正明氏は25日に都内のホテルで開かれた「PwC Japan メディアセミナー」で、日本の金融機関におけるテクノロジーの活用動向に関して講演した。

田中氏は元三菱UFJフィナンシャル・グループ元副社長、現金融庁参与で「金融モニタリング有識者会議」「フィンテック・ベンチャー有識者会議」の一員のほか、お金のデザイン、マネーフォワードの顧問でもある。

「数年前に米国のベンチャーキャピタリストの方と朝食をともにすることがあり、その時はじめてフィンテックという言葉を聞いた。『フィンテックは津波のようなもので、気づいたときには飲み込まれている』とその人は語っていた」。

田中氏はPwCによるサーベイ(調査)を参照し、「日本とグローバルを比較すると日本のフィンテック投資は低調だ。フィンテックの目的は日本は『人件費の削減』だが、グローバルは『新しいサービス』をつくること。求めるものが違うことが大きくあらわれている。イノベーションへの認識が大きく異なっている」と語った。

「日本の金融機関はブロックチェーンの実証実験が行っているが、いつ実験段階を抜け出せばいいのか確信が持てない段階だ。ただ、日本にもブロックチューン関連企業が存在し、彼らは自分らの事業に適用を進めている」。

サーベイによるとグローバルでは2014年頃からフィンテックへの投資額が急速に伸びており、投資家は主にベンチャーキャピタルだ。「以前はそうではなかったが、近年は金融機関では顧客視点による商品開発が進んでいない。日本の金融機関にとってフィンテックはとてもチャレンジングだ」。

IT投資の大半がメンテナンス

「邦銀のIT費用の8割程度がメンテナンスに使われている。(三菱UFJフィナンシャル・グループ元副社長の)私の体感にも合っている。(邦銀は)新しいことができない。日本の金融機関のシステムは巨大だ。1カ所いじると7カ所直さないといけない状況だ。制度、レギュレーションが変わる度にシステムを一部修正しないといけない。フィンテックをやろうとなると大変なシステム上の課題が生じる」と田中氏は指摘した。

フィンテック領域にはeコマース企業、テクノロジー企業などのさまざまなプレーヤーが参入している。

田中氏はキャピタルワンやアリババ、テンセントを例に挙げた。アリババグループの金融部門アント・フィナンシャルが提供するモバイル決済「アリペイ」や7、8億人ユーザーのデータから生み出したクレジットスコア「芝麻信用」に触れた。「金融のイノーベションはアジアの方が進んでいる。日本より銀行サービスが発達していないので、モバイルを活用した金融が発達する」。

※アジアの金融イノベーションに関してはこの記事(「デジタル決済革命はアジアで起きている」)を参照してほしい。

金融を顧客体験ビジネスに

金融庁は顧客から見て一番使いやすい金融商品をつくることを金融機関に促している。「例えば、海外送金。コストがとても高い。相手方は何者なのか分からない。受け取る側の銀行でリフティングチャージがかかる。それを終えるのに1時間かかる」。

田中氏は国際送金の顧客体験型ビジネスとしてトランスファーワイズを挙げた。「トランスファーワイズは国際送金するのに毎回移動させないで、お金を置いておく。取引に要する時間は短く、手数料が安い。顧客の体験がとても改善されている」。

最近まで日本最大の金融機関の中枢にいた田中氏がこう語っている。「邦銀にとってフィンテックは極めてチャレンジング。大きな経営課題になるのではないか」。

Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
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