クッキーは死んだ? ピープルベースが生き残るのか?:Facebookがアドテクに抱く野望

Facebookは近年、モバイルを中心にデジタル広告事業を拡大してきた。GoogleのDoubleClick(ダブルクリック)に匹敵する広告エコシステムの構築を目指しているのは周知の事実だが、そのために同社が掲げるのが、複数のデバイスを利用する個人を識別するピープルベースドマーケティング(People-Based Marketing:人単位のマーケティング)だ。

特にモバイルの成長著しいアジア太平洋(APAC)に焦点を定めているFacebook。同社アドテク責任者のデイビッド・ジャクバウスキー氏は、同地域のネイティブ広告(インフィード広告)を制するかぎは、モバイルエクスペリエンス(モバイル体験)の向上だ、と述べた。

Facebookは先月下旬、東京都港区の同社オフィスでパブリッシャー(媒体社)向けアドテクノロジー(アドテク)説明会を開き、ジャクバウスキー氏らが日本の媒体社に同社のアドテクと広告商品について説明した。モバイルアプリへの広告配信網であるFacebookオーディエンスネットワーク(FAN)への参加により、媒体社はピープルベースドマーケティングの利点を享受できると訴えた。

消費者のメディア接触は世界的な傾向としてマルチデバイス化している、といえる。

消費者はさまざまなデバイスから高頻度/少滞在時間でメディア接触を繰り返す傾向が出ている。課題はデバイスごとに行動データが分断されることだ。個人が複数のデバイスを併用しているとき、別々の個人として識別されてしまう。

デバイスよりピープル?

少し極端な例を出すと、ある個人がモバイル、タブレット、ラップトップを併用しているとする。ラップトップでサッカーに関する行動データを残したとする。サッカーなどの行動履歴から、Jリーグを観戦に行く若い男性を想定し、酒類や乗用車の広告が投じられた。しかし、実際には3デバイスの利用者は30代の女性であるときもある。

ここで、ピープルベースドマーケティング(詳しくはこちらの記事)は効果を発揮すると言われる。ログインなどから個人(匿名)の性別、年齢などの属性がわかり、デバイス横断的な行動データを獲得できるという。30代の女性は、ほかのデバイスでは野球と韓流アイドルとジャニーズアイドルにも興味関心を示していた。どうやら、スポーツかダンスをする魅力的な男性に関して、可処分所得を割いている女性のようだとわかる。この場合は、酒類や乗用車ではない広告が好ましい。

APAC・Atlas(アトラス)部門責任者のニック・セコールド氏は「アドテク業界はいまだに90年代につくられた技術(クッキー)に依存している」と批判的だ。セコールド氏はクッキーで認識した「人間(デバイス)」をピープルとして認識すると、クッキーベースの62パーセントに「縮まる」と明らかにした。マーケティングの基点となる数字が誤りになる。

セコールド氏はほかにも以下の課題があると主張した。

  • 性別、年齢などの属性の正確性が低い
  • コンバージョンの大半を補足できない
  • (一部のリタゲ広告のような)掲出頻度の過剰さ

しかし、ピープルベースドマーケティングは、FacebookとGoogleのような巨大プラットフォームのみが提供できるのが現状だという。FacebookとGoogleは各デバイスで、ユーザーのログインを得られる可能性がとても高く、他アプリの認証にもアカウントが利用される。GoogleのモバイルOS「アンドロイド」は出荷ベースで世界シェアの8割。これらにより、二者はデバイスと個人を匿名の状態で紐付け、クロスデバイストラッキングを行うことができると言われる。ジャクバウスキー氏は「Snapchat、Amazon、Twitterも広告主にピープルベースドマーケティングを提供することができるが、大きなスケールに限れば、FacebookとGoogleだけが提供できると言っていい」と語った。

「アジア太平洋のネイティブ広告市場は141億ドル規模」

Facebook・APACアドテク部門責任者、アシュウィン・プリ氏はAPACでのネイティブ広告(※Facebookが得意とするインフィード広告の定義)は2020年に141億ドル(約1.5兆円)に達するとの予測を示した。APACの伸び率は北米・欧州の3倍程度の水準で、大きく突き放しているという。APAC地域のスマートフォン利用者は2014年の8億8800万台から、2019年には14億6000万台に達すると予測(eMarketer)されている。

プリ氏はFANにより、Facebookのピープルベースドマーケティングをパブリッシャー(媒体社)に享受してもらいたいと、日本の媒体社に対して話した。FAN は2014年10月に開始された。広告主はFacebookのデモグラフィック(属性)データとクロスデバイストラッキングを利用し、Facebook外のアプリにインフィード広告を掲出することができる。プリ氏は「ひとつのクリエイティブでさまざまなアプリに掲出できる」と話した。

しかし、ジャクバウスキー氏はこの141億ドルへの成長にはモバイルエクスペリエンス(モバイル体験)の改善が重要だと指摘した。「アドテク業界に長く身を置く私にとって、モバイル体験には恥ずかしい部分がある」という。モバイル広告にはさまざまなフォーマットがあり、なかには極めてモバイル体験を毀損するものがある。昨年は消費者の不満がアドブロック使用で顕在化した。このモバイル体験は現状のプラットフォームがもっとも熾烈な競争を繰り広げる地点であり、デジタル広告のライバルGoogleともさまざまサービスで競い合っている(詳しくはこちらの記事)

Facebookの広告収益の約8割はモバイル広告によるものであり、モバイル広告の改善が収益に直結する。特に最近はインスタグラムを含めて動画やイマーシブ(没入型)の広告商品を投入している。Facebookは広告主に対し、テレビからモバイルなど各デバイスをまたがる「クロスデバイスマーケティング」のモバイル面の担い手としての立場をアピールしている(詳しくはこちらの記事)

ジャクバウスキー氏は「テレビとのテレビ広告予算を獲得するためにも、モバイルエクスペリエンスを良くしていかなくてはいけない」と語った。元WPPのセコールド氏もテレビ同様のリッチな体験までモバイル広告を高めることを目指している。「テレビ広告は依然としてリッチな体験を提供している。それを小さな画面で達成しないといけない」と話した。

Facebookは先月、TRP(個人視聴率)によりFacebook広告を購入できる仕組みを導入した。広告主に対して、米国のテレビ視聴測定の主流であるニールセンの指標を基に、Facebook広告を掲載できるようにし、テレビとデジタルの指標の分断をクリアできるようにしている。

まだまだ高いGoogleの壁

Facebookは2013年にマイクロソフトからAtlasを買収。先述したクロスデバイストラッキングと、10億人を超えるユーザーベースのパーソナルデータを活かし、またサードパーティデータとの連携により、大手広告主の要請に応えようとしている。特に、消費財メーカーがデジタル広告接触がオフラインのリアル店舗での購買に寄与するか「証拠」を求めていたことには、オラクル傘下のデータロジックスとの提携で対応している。

しかし、Googleの壁はまだ厚いようだ。Atlasのピープルベースドの広告配信は実のところ、到達が完全ではなく、フリクエンシー(広告の接触頻度)に揺れがあり、性別の誤りもみられると言われる。オラクルのブルーカイ、アドビのオーディエンスマネージャーなどの一部のDMPとの連携が難しい部分もあるようだ。米国のアドサーバーのマーケットシェアでは、動画を除いた場合、Double Clickは「独占」とも呼ぶべきシェアに達していると言われる(参照:adexchanger)

またAtlasは2016年前半にDSP(デマンドサイドプラットフォーム)をローンチする予定だったが、3月に撤退を認めている。DoubleClickと似た構造を目指すならば、Atlasには入札機能が必要なはずだ。

Written by 吉田拓史
Image from Rajiv Patel / flickr