IoTとAIの最強タッグが、クラウド至上主義を一変させる?:激増するデータの新しい捉え方

IoT時代、ビッグデータは各端末のAIでリアルタイム処理される――。

センサーが生み出すビッグデータを、複雑なネットワークを通じて遠隔のクラウドに蓄積するのはコストが大きすぎるのだろうか。しかも、データの価値密度がまばらなら「なぜ貯めるのか」のかということになる。

クラウドまで持っていかず、端末付近の人工知能や、近接するマイクロデータセンターで大量の情報を処理する技術が脚光を浴びている。「エッジヘビーコンピューティング」(フォグコンピューティング)だ。日本のAIベンチャーのリーディングカンパニー、プリファードネットワークス(PFN)最高戦略責任者、丸山宏氏は「データのつくられるところ、学習されるところ、それが利用されるところを同じにする」と語っている。本記事は7月4日に開かれた「グローバルビジネスハブ東京」の開所イベントの内容をまとめた。

エッジヘビーコンピューティングはIoTの進展とともに、広範な分野で利用可能性があると言われる。マーケティング分野の応用も考えられる。たとえば、デバイスで得た情報をリアルタイム処理して、人々が欲しがる情報・モノを即座に、あるいは予測して提供するということや、個人の生活にまつわるデータをマシーンが解析し、その人が調達するべき物品をレコメンドする、健康状態の改善策の提案、スケジュール管理など諸々のサービスが予想される。

DIGIDAYは普段インターネットサービスまわりを伝えているが、本記事で触れる基層部分の潜在的な変化は、表層のサービスを大きく変えうる。少し遠い未来かも知れないが、次の仕組みをめぐって壮絶な競争があるのを知ることはマーケティング業界にとっても有益だ。

データをクラウドに貯めこまない

PFNはトヨタ自動車が昨年末に10億円出資を決定。ファナックとシスコシステムズ、ロックウェル・オートメーションとは製造業向けIoTプラットフォームの共同開発を行っている。ファナックの工作機械のノウハウに、PFNのディープラーニング(深層学習)、シスコのクラウドなどが融合し、収集されるデータのほとんどをデバイスやデバイスに近接したデータセンター(フォグ)で処理することを目指している。PFNはほかにもパナソニック、NTTとも提携する、日本でもっとも有望なAIベンチャーのひとつだ。

丸山氏はIoTについてこう語る。「ゼタバイト(ゼタは1兆の10億倍)に及ぶ膨大なセンサーデータをクラウドに貯めることは非効率だ。価値密度は意外と低い。これをクラウドまで送るには大きすぎるし、コスト効率が低い。われわれはエッジヘビーコンピューティングをやろうと思っている。デバイス側でデータを濃縮して価値密度を上げていく。すごい革命的だ」。

「スマホ・監視カメラなどの高機能のデバイス付近で、深層学習を活用し、情報の価値密度を高める。そうなるとマシーンがやがて知的財産になっていく」。

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PFN最高戦略責任者の丸山宏氏

丸山氏と対談した日本IBM執行役員(研究開発担当)の久世和資氏は「ゼタバイトの情報が溜まっているが、8割から9割が非構造化データ。それぞれを分析していたのでは難しい。データを組み合わせて人工知能という流れだ。クラウドで提供するものがストレージではなく、演算能力になるサービスも提供している」と語っている。

丸山氏はグローバルのライバルについて、こう語っている。「データの生成されるところ。学習が行われるところ、それが使われるところ、が同じところにあるべきと考えられている。それを狙っているのがGoogle、マイクロソフトだと思う」。

Google:モバイルファーストからAIファースト

Googleは今年4月、ファウンダーレター(創業者による文書)で、端末のAIが収集した情報を即座に処理する構想をほのめかしている。これまで毎年執筆していたラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏に代わり、Googleの1年のビジョンを語ったサンダー・ピチャイCEOは「モバイルファースト」から「AIファースト」に世界は動いていると訴えた。

10年前までコンピューティングとはデスクの上にあるコンピュータと同義だった。それから、たった数年で、パワフルなコンピューティングのカギ――プロセッサー、センサー――が極めて小さく、安くなり「ポケットに収まるスーパーコンピューター」の急激な普及をもたらした――モバイルだ。(モバイルOSの)アンドロイドはこのスケールを拡大するのに役立っている。いま、30日間アクティブに稼働するアンドロイド・デバイスは14億台に達しており、さらに成長している。

 

将来に目を向けると、次の大きな一歩は、「デバイス」というコンセプトが姿を消すことに向かっている。いずれコンピュータは――その形がどうなるとしても――あなたの1日を助ける知的なアシスタントになるだろう。我々は「モバイルファースト」から「AIファースト」の世界に向かっている。

スマホのパワーで稼働するAIが、情報をクラウドに貯めこむことなく、その場でリアルタイムに処理し、人々のアシスタントとして機能するという。端末そのもので情報の収集、処理、ソリューションの提供を済ませてしまおうと考えている。クラウドへと進んできたコンピューティングにおいて、大きな転換点ともいえるビジョン。世界中でアンドロイドが増えれば増えるほど、Googleは有利になっていく。アンドロイドは新興国の安価な市場で圧倒的なシェアを握っている。

マイクロソフトのビクター・バール氏はネットワーク上のレイテンシー(遅延)はインターネットサービスにとって大きな課題であり、「クラウドを近くする」ことで解決することを提案している(資料)。中心的なクラウドに加えて「マイクロデータセンター」という小規模のデータセンターを端末の近くに置くことを主張している。

AIは問題解決のためのツール

丸山氏はすでに学習を終えて賢くなった人工知能をどう扱うべきか、という問題に触れた。「(学習済みモデル)は知的財産である、それをどう守っていけばいいだろうか。あるモデルがAPIで提供されたとして、APIを叩いて、入出力のペアをたくさんとって学習すると、もとと同じ機能をもった物を作れてしまう。どうやって管理したらいいのか。学習済みモデルを、企業とベンダーのどちらでもつべきか。そういう話も確かにある」。

「そういうものを管理するためのインフラは誰がコントロールするのか。そのお金の部分をTenselflow(テンソルフロー:Googleによるディープラーニングのオープンソースライブラリ)のような人たちがコントロールしてしまわないようにしないと」。

「できるだけコアの技術はオープンにして、コミュニティのなかで力を発揮していきたい。大手町にいるのはフットワークがいい。どんなお客様もふらっと寄ってくれる」。PFNもオープンソースのライブラリ・チェイナー(Chainer)でコミュニティを形成しようとしている。丸山氏は機械学習というテクノロジーをどう活用するべきかについては「機械学習の技術を擬人化するのではなく、問題解決のためのツールとして受け止めるべき。産業育成のために役立てられる」と語った。

Written by 吉田拓史
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