クロスデバイス情報のスケールが重要さを増す:AdRoll CMOバーク氏

デジタル広告市場にはいま話題がたくさんある。GoogleとFacebookが強く、そこに巨大通信企業2社も買収で存在感を高めている。Snapchatが独自の広告プラットフォームを築きはじめ、独立系もさまざまな動きを見せている。今年は中国企業による米アドテク企業買収も相次いだ。

米アドテク企業AdRoll(アドロール)CMOのアダム・バーク氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、市場はデータのスケールに敏感になっており、独立系はスケールの部分で不利になりやすく、共同データプールを築くことや、クロスデバイストラッキングの構築が重要だと指摘。AdRollは中国市場でのパートナーシップを探っており、また中国企業のアドテク買収をめぐっては今後もトレンドは続きうると予測した。

AdRollは11月15日、楽天とパートナーシップを結び、「楽天市場」に出店する約4万4000店のEC事業者に同社のソリューションを提供すると発表した。EC事業者はAdRollのリターゲティングとオーディエンス最適化のツールで、顧客獲得を促進できる。

「楽天との協業ではエンジニアがプラットフォームを構築することになった。厳格な評価プロセスを経たが、それにより素晴らしい改良を加えられた」。国内最大級のECサイトとの協業により、取引の拡大を見込んでいるという。

日本市場ではデジタル広告には依然として獲得、コンバージョンを念頭に予算を配分がされる。バーク氏はデジタル広告がブランディングにも効果があると語った。「多くのコンテンツがデジタルに移行している。ラジオやテレビはストリーミングサービスに移行している。デジタル広告を獲得、コンバージョンを利用するのはもちろん当たり前のことだ。だが、人々がデジタルに注ぐ時間を増やしているいま、デジタルでブランディングするのは自然だ」。

共同データプールでクロスデバイス情報のスケール

ユーザーは複数のデバイスを使い分けるようになり、デバイスをまたいだトラッキングが難しい。バーク氏は「クロスデバイスの決定的なID」をつくれるのはGoogle、Facebook、Amazonのような少数のプレイヤーに限られていると指摘する。「この種のIDを作るにはソーシャルネットワークへの登録により、多数のファーストパーティデータを保有している必要がある」。Google、Facebookのユーザー数は10億人を超えている。

「我々は多くの企業と協力してそれに似たデータセットを確立している。コンバージョン、メールアドレス、メールアドレスに基づいた匿名化された会員IDなどのデータを用いて、異なるデバイスたちを紐付けている」。AdRollは広告主用の共同データプールである「IntentMap(インテントマップ)」を提供している。「顧客の4割がモバイルメディアを買い付けている。モバイルでオーディエンスを見つけるためにデータプールを利用する」

大型プラットフォームの手法を「決定論的なID(Deterministic ID)」と呼ぶ。大型プラットフォームのように多量のユーザー登録を得られない独立系は「このデバイスをもつのはこの人の可能性がかなり高い」と見て「確率論的なID(Probabilistic ID)」を付与する。Adrollがとるのはこの確率論的なIDの代替策だという。「我々の顧客は20%を超える誤差を許さない。誤差はパフォーマンスを大きく落とすだろう。将来的には(誤差を抑える)アルゴリズムの開発などにより、決定論的なアイデンティフィケーションを行えるようにしたい」。AdRoll IntentMapは数億のデバイスにIDを付与しているという。

アドテクとマーケティングテック

AdRollはリターゲティング広告で知られたアドテクベンダーだが、最近はデータプールに加え、メールマーケティングツール「SendRoll(センドロール)」を提供している。これらはマーケティングテックと呼ばれるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)事業者が提供する機能だ。「マーケターからすれば、アドテクとマーケティングテックはともにひとつのチャネルに過ぎない」。

バーク氏は「セールスフォースやオラクルのような『大型マーケティングクラウド』はメディア買い付け機能をもっていない。それを変えたのがアドビが動画DSPのチューブモーグルを買収したことだ。純粋なメディア執行機能を手に入れた。彼らはマーケティングテックからアドテクに手を伸ばしたのだ」と指摘した。

GoogleとFacebookのデュオポリー(2者による独占)にどう対抗するかとの質問に対し、バーク氏は「GoogleとFacebookはとても強力だが、Yahoo、Snapchat、Pinterestとほかにも数億ユーザーを抱えるサービスがある。この2社が強いためにむしろ独立系ベンダーへのニーズが生まれている。ただデータ資産の重要性が増しており、大きなデータをもっていないと価値が認められない。我々は共同データプールによりスケールにテコ入れしている」と話した。

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AdRoll(アドロール)CMOのアダム・バーク氏(撮影:吉田拓史)

「巨額買収を進める通信大手のベライゾンとAT&Tもこのエコシステムに加わろうとしている。Amazonは隠れた大型デジタル広告事業者だ。必ずしも強固なデュオポリーとはいえない」。

一方、来年3月上場が推測されているSnapchatもGoogle、Facebookと同様の「専売的」な広告プラットフォームの構築を目指している。「Snapchatはとても興味深い。何もかもが新しいからだ。ユーザー数をもっと増やさなければならないし、Snapchatで何が効果的か調べるべきだ」

ただ、バーク氏はSnapchatはFacebookとは正反対になると指摘する。「Snapchatにはファーストパーティデータがない。たぶん、価値を示す方法として『時間』を使うべきかもしれない。ターゲティングも必要だし、効果的な広告フォーマットも開発する必要があるだろう」。

中国企業が米アドテクを買収する理由

AdRollはテンセント、アリババ系デジタル広告ベンダーを経験したピーター・チェン氏をアドバイザーにし、中国進出の機会を探っているという。「海外のテクノロジー企業が活躍しづらい環境だが、市場に関する調査を進め、パートナーシップを組もうと数社と話をしている。中国企業が中国国外で広告を買い付けるのを助けるし、将来的には中国国内にも広告を打ちたい」。

中国のデジタル広告市場はバイドゥ(百度)、アリババ、テンセントが寡占しており、APIを公開してないので、独立系にとって成長の余地が小さい。一方、バイドゥ(百度)、アリババ、テンセントのアドテクのパフォーマンスは分からない。「米国でしたことがそのまま通用するはずがない。日本でもそうだ。だから我々は市場を知ろうとしている」。

2016年には中国企業による米国のアドテクベンダーの買収が相次いだ。買収にはふたつのタイプがある。ひとつが金融のさや取りだという。「中国の株式市場の規制の関係で、海外企業を買収することで収益を増やすことで、時価総額を膨らませられる」。このためアドテクと関連性ない企業まで買収を行ってきた。もうひとつはテクノロジーを取得するための通常の買収であり、今後より戦略性の濃い買収がありうるとバーク氏は予測した。

Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock