ペルソナ開発が急ピッチに進む、チャットボット運用:俳優やコメディアンの起用も

チャットボットの問題点は、語り口がロボット的すぎるところだ。そこで、企業はコメディアンや脚本家を雇って、チャットボットの個性を作り上げ、人間らしさを与えようとしている。

Googleは10月、人工知能(AI)アシスタント「Googleアシスタント(Google Assistant)」がより人間らしく話せるようにするため、映画制作会社ピクサー(Pixar)や風刺サイト「ジ・オニオン(The Onion)」から数人のライターを雇い入れたと発表した。Googleアシスタントは、同社の「Googleホーム(Google Home)」デバイスを強化するAIボットだ。インスタントメッセージアプリ「Slack(スラック)」と連携し、単純な命令を自動化するワークグループ向けボット「ハウディ(Howdy)」には、小説家で元即興コメディアンのニール・ポラック氏が協力している。マイクロソフト(Microsoft)が開発したAI「テイ(Tay)」は、人種差別的発言を連発した印象が強いが、こちらも即興コメディアンを起用していた。

安いボットには代償が伴う

「ブランドやパブリッシャーの場合、チャットボットに手を出しても、実験で終わってしまっている」と語るのは、インパーソン(Imperson)の共同創設者、セス・グリーンフィールド氏。インパーソンは、Facebook「Messenger(メッセンジャー)」向けに、ディズニー(Disney)が手がけるテレビ番組『ザ・マペッツ(原題:The Muppets)』に登場するキャラクター「ミス・ピギー」や、ユニバーサル・スタジオの『バック・トゥー・ザ・フューチャー(原題:Back to the Future)』に登場する「ドク・ブラウン」のようなキャラクターボットを作ってきた。「早期に取り組んだブランドにとって、教訓のひとつは、安上がりのボットには代償が伴うということ。ブランドの本来の声が、ボットから失われてしまうのだ」。

ニュースパブリッシャー各社がMessenger上で運用しているチャットボットを5つ選んで見比べても、違いを見つけるのは難しい。グリーンフィールド氏によると、企業がボットに支払う金額は、最初の制作費に約5万ドル(約500万円)、定期メンテナンスに月1万ドル(約100万円)だという。それだけかかると、ボットに個性を加えるための予算はほとんど残らない。

「インタラクティブな脚本作りは新しい職業だ」とグリーンフィールド氏。「いままさに生まれつつある。5年もすれば、大学の教科になっているだろう」。

ペルソナを開発するチーム

Messengerなどのプラットフォーム向けボットを手がけるエージェンシーのザンドラ・ラボ(Xandra Labs)には、チャットボットのペルソナを開発するチームがある。ペルソナを構成する要素は、職業、兄弟姉妹、日常の習慣、恐れているもの、目指すもの、さらには、どんな親にどうやって育てられたか、といったものまである。ほとんどの場合、実際のチャットボットがこうした情報を明かすことはない。どちらかといえば、情報は計画ツールとして個性の開発に利用され、そうしてできた個性が対話に反映されるのだ。

「ブランドに個性をもたせることがこれほど重要になったことはない」と、ザンドラの共同創設者ジェス・トムズ氏は指摘する。「ブランドと消費者が対話する体験は、ライターやデザイナーに誘導される必要がある。会話をコンバージョンにつなげるためだ」。

トムズ氏は、ブランドが手本にできるケースとして、「インソムノボット 3000(Insomnobot 3000)」を挙げる。これは、マットレスブランドのキャスパー(Casper)が提供している、眠れない人の話し相手になるチャットボットだ。「こうした動きは、マーケティングの新時代を示す兆候だ」と、トムズ氏は付け加えた。

どんなものでも本質は対話

ハイエンドになると、ブランドの個性をボットに持たせる作業は、相当な技術力を要する。メールを介して会議の日程を自動調整するメールアシスタントの開発元、エクスドットアイ(X.ai)には78人の従業員がいて、その大半は自然言語を処理するデータサイエンティストだ。同社のアシスタントは、女性版の「エイミー(Amy)」と男性版「アンドリュー(Andrew)」から好みで選べる。エクスドットアイが手がけるのは自律型のAIエージェントだが、一般のチャットボットは機能がもっと限定されている。しかし、どちらも利用しているのは、会話を介したユーザー体験であり、その本質はチャットなのだ。

エクスドットアイのAIインタラクションを設計した人物は、かつてハーバード大学で民俗学を専攻し、演劇の演出家と俳優でもあった。「演劇において、キャラクターはすべて対話によって描かれる」と、エクスドットアイのコミュニケーションおよび顧客体験担当バイスプレジデントのステファニー・サイマン氏は語る。「シンプルな文章と台詞を介して、個性がどのように表現されているかを、きわめて繊細に解釈することが求められる」。

もちろん、すべてのボットに個性が必要なわけではない。たとえば、Slack上で実務をこなすボットには、過去の体験に相当する情報を与える必要はないだろう。とはいえ、経済ニュースを扱う「クォーツ(Quartz)」のように、チャットボットをベースにしたアプリで伝えるニュースに、人間らしい感覚を積極的に取り入れるパブリッシャーもいる。「チャットボットが期待通りになるまでには、自然言語処理とAIを大幅に進歩させる必要があるだろう」と、クォーツの製品担当シニア・バイスプレジデントで編集長のザック・スワード氏は語る。「少なくとも、いまのところは、人間に勝るものはない」。

週ごとに状況は変わる

ただし、このアドバイスにも検証される余地がある。「ボット分野に戦略的に参入するつもりなら、その戦略は、技術の現在と将来に照らして、徹底的に検討されるべきだ」と語るのは、ブランドコンサルティング企業ウルフ・オリンズ(Wolff Olins)で技術ディレクターを務めるアンドリュー・ドブソン氏だ。「チャットボットの開発に6カ月も費やすのは賢明ではない。週ごとに状況が変わるほど、急速に進歩しているからだ。そう遠くない先、技術は人々の大望に追いつくだろう」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)
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